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2010年03月04日(木) 楽な試合、楽な相手、だが・・・

2011年アジア杯予選のグループ最終戦は、日本vsバーレーン。日本ホームの公式戦とはいえ、両国共に予選突破を決めている消化試合。結果を問われないという意味では、緊張感のない、いわば、親善試合(テストマッチ)に近い。しかし、日本代表の場合は、特別の意味をもった一戦となった。というのも、W杯開催年=2010年のホーム開幕試合の親善試合(1試合)、公式戦(東アジア選手権)3試合で日本が勝てたのは超格下の香港のみ。ベネズエラ、中国と引き分け、韓国には負けている。

結果以上に日本のサッカーファンを心配させたのが、この4試合のお粗末な内容だった。岡田監督更迭を求める横断幕まで出て、日本代表(監督)を取り巻く状況は、一気に緊張を帯びたものとなった。本来は消化試合のはずのこの試合が、なんと、代表監督の進退を賭ける一戦に変質してしまったのだ。

今年はW杯開催年、代表試合は1試合とて無駄にできないものの、W杯までに組まれた全試合に全勝する必要はない。換言すれば、本番に向けたテスト、トライアルが否定されるものではない。たとえば、代表候補選手の潜在能力を見極める、あるいは、新戦力を試す試合があっていいし、戦略・戦術の試行があっていい。そのために、試合を失うことで非難を受ける筋合いはない。

バーレーン戦は、日本代表の相反する課題を抱える、たいへん複雑な試合となった。試合内容にもそのことが反映し、序盤、全選手の動きはぎこちなく、重苦しさを感じた。出だしの悪さは、海外組が急遽合流したことにより、2010年の開幕4試合とは異なったメンバーとなったこともあったであろう。海外組が来日したのは、本番2−3日前、複雑な約束事は徹底しない短さである。さらに、現在の日本代表を支える中盤の要=遠藤が過労気味だったことも“ぎこちなさ”の要因の1つだったかもしれない。

日本代表を救ったのは、バーレーン選手の元気のなさだった。バーレーンは当たりが弱いし、プレスも緩い、球際もガツガツこない。ベネズエラ、東アジア選手権の相手(中国・韓国)とは雲泥の差があった。バーレーンは、日本代表にとって、御しやすい相手。それでも、日本DFの信じられないような隙(油断?)をついて、バーレーンが日本ゴール前に鋭く迫ったシーンが2度ばかりあった。日本がW杯で当たる3カ国であれば、日本はゴールを割られたであろう。

日本がこの試合の主導権をとれたのは、左右のサイドでボールがもてたことだ。その理由は、バーレーンがサイドに流れた日本選手に対して、厳しいプレスをかけてこなかったことだ。来日したバーレーン選手には、そこまでのモチベーションが働かなかったのか、日本のサイドに流れた選手をマークする戦術眼がなかったからであろう。W杯では、こんな緩い状況、場面は、一切期待できない。

さて、筆者が当コラムで展開してきた岡田ジャパンへの提言からすれば、なんとも生煮えの試合であった。筆者の感触では、この試合に選出されたメンバーが、岡田代表監督がイメージするW杯メンバーに最も近いものだと思っている。しかし、前出のとおり、守備的中盤の要=遠藤は東アジア選手権、ゼロックス杯、ACL出場と続いた過密スケジュールにより、明らかに過労気味。そんなときだからこそ、遠藤を外し、稲本、小笠原を試してほしかった。ところが、小笠原は代表選考から外れたし、稲本の出場もなかった。

過去の当コラムの記述の繰り返しになるが、W杯で日本が予選リーグを突破するためには、カメルーン戦に全力を集中し、喧嘩ファイトでカメルーンを粉砕するしかない。カメルーン相手に、きれいに、スマートに勝とうなんて思ってはいけない。日本代表は、カメルーン代表と比べて、サッカーを構成する概ねすべての要素において劣っている。そんな相手に勝利するには、「削れ」とはいわないが、玉砕、粉砕しかない。カメルーン選手に対して接触プレーで「勝利する」しかない。重心の高いカメルーン選手に対し、相手を正当なチャージで文字通り、「倒す」ことしかない。カメルーン戦に勝利し、勝ち点3をもぎ取るしかない。東アジア選手権でふがいない試合をした日本代表を解体し、対カメルーン仕様の日本代表を再構築(リストラクション)することしかない。解体後の初戦に当たるバーレーン戦では、過去の日本代表を清算し、肉弾戦を展開できる選手を選び、W杯までの1試合、1試合を、文字通り、厳しく激しく取り組むしかない。

このような目標(課題)を掲げて選手を評価するならば、岡崎、本田、中村俊、松井、長谷部はそれなりの結果を出した。筆者のテーマにそぐわなかったのが、遠藤、内田、長友であった。とりわけ遠藤は過労のため、元気がなかった。遠藤の過労は予想できたことなので、小笠原を彼の本来のポジションである守備的中盤で使いたかった。稲本も同様である。2人の出場時間割合は、前半〜後半でもよかった。なお、森本は出場時間が短すぎたので、評価しにくいが、イタリアの試合ではフィジカル面で強さが出てきたと思われるので、本番で期待できる。

バーレーン戦の勝利はほろ苦く、虚しい。その一方、岡田監督の安堵の表情が、彼のクビがつながったことを最もよく象徴していた。岡田は喜び、その一方、日本代表の南アフリカでの予選突破どころか勝ち点3が遠ざかっていく。


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