妄言読書日記
ブログ版
※ネタバレしています
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2003年06月30日(月) |
『夢の中の魚』(小) |
【五條瑛 集英社】
五條は文庫化まで待つ、ということにしていたのですが、待てませんでした。 今、私の中で五條が熱いです。 なんで、最初に読んでから時差があるのか。多分、『プラチナビーズ』(02/5/25の日記参照)を読んだ頃、嵌っている余裕がなかったんですね。
五條の初短編集。でも連作と言う感じ。 鉱物シリーズの洪が主役。鉱物シリーズではただの変態のように見えた彼が、なんともまあかっこいい。 たとえコードネームが「東京姫」でもオッケーオッケー。 目的の為なら手段を選ばない、の手段が暴力とかそういう方向じゃなくっても、洪だからなあ。普通に納得してます。
表のテーマは「洪がパクを口説き落とすまで」で、裏が「葉山は実は優秀なんです」という感じでしょう。 ・・・いや、冗談ですよ。 鉱物シリーズもこれも、祖国と自分、自分が何によって立っているのか、そんなことを考えますね。
真面目な感想は本意じゃないし、求められていないような気がするのでさらりと流し。
ゲストみたいにところどころに登場している葉山。 なんだか鉱物シリーズの時よりも存在感を感じますよ。 しかし、この本から読み始めた人は、葉山って奴はなんでいっつも、不機嫌なんだ?と思いそうです。 電話がかかってきたら不機嫌、自分で電話しておいて、不機嫌。さらにディナーに呼び出されてやっぱり不機嫌。 だからおちょくられるんだよ、というのは誰も教えてくれないんでしょうね。 面白いくらいに、葉山は無愛想で不機嫌を貫いていました。でも、よく考えると鉱物シリーズの時もずっと不機嫌とか拗ねているとか怒っているとかそんなのばっかりだったような。 楽しそうにしているのは、『スリーアゲーツ』の「The Game」の時の一時くらいしか思い出せない。 たまには上機嫌の葉山というのも見てみたいです。
噂の赤いダッフルコート、着てました。可愛いなーもう。誰の見立てなの? 不機嫌さから考えて、“溺愛癖”のある上司の趣味かしら。 クリスマス生れの部下にプレゼント(嫌がらせ込み)したのかどうなのか。 嫌そうな顔して真面目に着て歩く葉山もどうなのか、と思いますが。 ところで、マフラーの色はやはり白なのかな。どこまでカワイコちゃんなんだ、お前は。
洪視点の葉山は、はなはだ頼りなく存在感の薄い外見ながら、信頼できる情報源という感じでした。
うっかり、葉山を語りすぎました。 好きなんです。 ちゃっかり、エディの影が見え隠れしていておかしいです。 「―――二人とも地獄に落ちろ」 エディがいないところでは、極めて口の悪い葉山がやっぱり好きです。たまには思い切って本人に言ってみたら?
ストーリーの方はですね、なんとも驚いたことにミステリーです。 もちろん、殺人事件じゃないです。 私的にミステリーは謎があって推理があって謎解きがあるものです。 殺人が起こって探偵が出てきて犯人が捕まる、というのがミステリーだとは思ってません。 怪獣映画、海岸の漂流物、出版社に届いた手紙・・・全て素敵に魅力的な謎でその謎解きは、さらに次の話にも繋がって―と、五條は短編で真価を発揮するのかもしれないと思いましたよ。 「ナミエ」がなんとも鮮やかな印象。 下心ありありなのはわかってるんですが、洪がかっこいいですしね。
洪とパクのコンビは初ですが、凄く面白かった。 鉱物シリーズでは見られない、素の洪が垣間見えて、うっかり洪のファンになりそうです。 これ、シリーズ化しそうな雰囲気があるんですがどうでしょう。 比佐志のこの後も気になりますしね。
それ以上に、鉱物シリーズの続きが…。待ちますけれど。待つしか出来ないともいえますけれど。
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