生存報告―目指せたくまし道。 〜こっそりひっそり編〜
DiaryINDEX|→|←
<<つづき
なぜ海外に興味がなくなってきたのか
堀江 加えていうなら、グローバル化に向けて日本人の腰が定まらないのは、この国の中途半端な規模感が原因だと思います。たとえば、隣の韓国では、1997年の通貨危機以降、官民挙げて「貿易立国」モデルへの転換を図るようになった。人口がおよそ4,800万人の韓国では、「内需」だけでは国を運営していくことが難しく、「輸出」に懸けるしかない。一方、日本の人口は約1億2,700万人。韓国に比べれば「輸出」一辺倒ではなく、ある程度「内需」でやっていける面もあります。しかし、それがかえって問題なのです。 江川 たしかに、「輸出」優先か、「内需」優先かで、政策が中途半端なものになってしまう問題はあるでしょう。とはいえ、個人の生き方としては、“信長的”に海外で儲けたい人は儲けて、“家康的”に国内にとどまって安定した生活を送りたい人はそうすればいい。個々人が両方の生き方を選択できる国というのは、じつはたいへん素晴らしい社会だと思う。かくいう私も、いまやほとんど海外に憧れがなくなってしまった。 堀江 僕も外国に憧れたことは一度もないですよ。特殊な遊びをしに行っているだけです。たとえば、ゴルフだったらタイが楽しいし、カジノだったら、マカオかラスベガス。チキンライスだったら、シンガポールがおいしい。そういう感じです。 江川 残念ながら、その三つにはどれもまったく興味がない(笑)。実際、日本のほうが飯はうまいし、治安もいいしね。日本にいても、そこそこの刺激は得られる。 堀江 だからそれが、ITによるグローバル化という意味なんです。インターネットがあまねく普及した結果、世界で起きている事象の情報は、誰でも、またどこにいても、瞬時に知ることができるようになった。若者がいま海外に興味をなくしている原因があるとすれば、それがいちばん大きいでしょう。ただ、海外は住環境が日本よりもはるかに上ですし、メイドも安く雇えるから、生活環境はいいですけどね。自分で掃除とか洗濯をしなくて済みます。 江川 でも、最近の若い人は、家事を自分でするのが楽しいらしいよ。 堀江 え? そうなんですか。 江川 家でつくる料理も、どんどん凝るようになってきているそうです。 堀江 自炊が好きなんて、アジアでも日本人ぐらいなものではないですか。最近、僕が訪れたシンガポールでは、朝はだいたい近くの食堂に集まって、お粥をすすっていました。 江川 なるほど。(笑) 堀江 ただ、いくら日本にいながらにして海外の情報が収集できるからといっても、英語ぐらいは話せるようにはなっておくべきです。いちばんいい方法は、英語を「公用語」にしてしまうことです。そうすれば海外市場で、日本の企業人は英語が不得意なため韓国企業に営業で負けてしまうなんてことも、少なくなっていくでしょう。 江川 しかし、漫画家としての立場からいわせてもらうと、日本で漫画が独特な発達を遂げ、また世界で持て囃されるようになったのは、日本の漫画家が情緒や感情を表わすのに適した、もともと「絵画的」な言語である日本語で育ったから、というのが私の持論です。欧米人が漫画を描くと、アメコミをイメージすればわかりやすいけれど、どうしてもカクカクした表現になってしまう。 堀江 ですから、僕も日本語のよさはまったく否定しません。「英語を公用語に」というのは、なにも国語にせよ、ということではないんです。公式文書や公式の場では、英語の併記や口述を義務づけよ、というだけです。実際、すでに公共の交通機関や多くの商業施設などでは、英語併記が行なわれているわけですから。 江川 たしかに、歴史を振り返れば、「公用語」という意味では、江戸時代において武士は和文ではなく、じつは漢文を使用していました。漢文には曖昧な表現が少なく、庶民が日常で使う「やまとことば」よりも、はるかに論理的だったからです。さらに戦前までは、日本人は漢文の素養があり、公式文書をみると、かなり漢文調ですね。現代では、実際にこれだけ英語が世界に広まっていることを考えれば、論理的な言語として英語を公式文書に使うのは、当然の選択といえるかもしれない。 堀江 そうそう。シンガポールでは屋台のおじさんでさえ、英語を話していました。それは「シングリッシュ」と呼ばれる訛りのひどいものですが。日本もシンガポールと同じように英語を「公用語」とし、どんどん使わせる機会をつくってあげればいいんです。とくに、若ければ若いほど、適応も早いはず。それが彼らのためにもなります。
情報収集のスキルか、欲望を抑える技術か
江川 今後のスキルとして英語は必須だとして、他に堀江君はどんなスキルを若者に勧めているの? 堀江 やはり、情報収集のスキルでしょうね。「なぜか?」と問われても困りますが、つまり、役に立つからです。視界が狭いなかで考えるよりは、遠くまで見渡せるほうが、思考も広がるでしょう。 江川 しかし、もともと自分のなかに確固たる指針がなければ、多くの人は情報を集めれば集めるほど、混乱するだけなのでは? 堀江 それは、情報が多すぎるからではなく、逆に足りていないからです。たくさんある情報のなかから価値のあるものを見つける術を身につけるのは、結局、情報処理の場数を踏むしかありません。情報源は、口コミでもテレビでも本でも、インターネットでも何でもいい。仮に本を情報源とするならば、小説だけでなく、経済書、ノンフィクション、歴史書など、あらゆるジャンルのものを読む。雑誌なら、さまざまなジャンルの雑誌をとにかく全部読む。「iPhone」をもつ前は、僕は週20誌以上を読んでいました。WEBも時間を区切って、読みまくる。 このように、とにかくたくさんの情報を収集することによって、効率的な方法とは何か、自ずとわかってきます。人より何倍も速く効率的に情報を収集、処理できるようになれば、人より先に未来を読むことが可能になるでしょう。そうすれば、おそらく圧倒的有利に立てるはずです。 江川 まあ、堀江君によれば、税制や社会保障で不利になる「老人民主主義」の実態さえも知らない若者が多いわけだからね。 堀江 僕自身、人から強制されるのが嫌いなので、「すべき」というよりも、「やったほうがいいんじゃないか」という程度ですけれど。 江川 しかし、堀江君はそんなところが昔とまったく変わってないというか、ちっともへこたれていないよね。 堀江 いや、以前はかなりへこたれていましたよ。 江川 それがいま、立ち直った理由は? 堀江 それこそ、歴史や海外の事例に学んだからですよ。そもそも、検察権力をいまのように強大なものにさせたのが、戦前に司法大臣や総理大臣を歴任した平沼騏一郎です。彼は、日糖事件や帝人事件などの疑獄事件をでっち上げて有力政治家を締め上げることによって、権力を掌握していった人です。 同じような事例は海外にもあります。たとえば、元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ(市長在任期間:1994年1月1日〜2001年12月31日)は、検察官時代に「ジャンク・ボンド(ジャンク債)の帝王」と呼ばれたマイケル・ミルケンを、インサイダー取引や脱税幇助などの罪で検挙して名を上げた人です。しかしいまでは、ミルケンは企業再生をスピードアップさせるジャンク債という手法をつくった人物として、再評価されています。要は、検察権力というのは、世界的に同じ「構図」だということが僕にはわかった。そのなかで、日本の制度の特殊な点を挙げれば、その本質が江戸時代と変わらない“お白洲”だったということです。 江川 市中引き回しとまではいかないけれど。 堀江 実際は、それを少しマイルドにしただけで。 江川 いわば“さらし者”ということだね。日本の司法の恐ろしさというものを、身をもって経験したわけだ。そういう意味でも、自分で体験したことを価値判断のベースにすべきですね。先の情報収集の話に戻れば、私は他人の言うことを決して鵜呑みにするのでなく、なんでも疑ってかかれ、といいたい。 最後になってこんなことをいうのも何ですが、私は、マスコミがいう「地方間格差」や「世代間格差」といったときの「格差」という言葉が、じつは、あまり好きではない。というのも、ここでいう「格差」というのは、結局、経済的な格差のことを意味しているわけでしょう。そこには、東京の一流大学を出て、中央の官庁に勤めるか、大企業の正社員になるのが幸せへの近道だというような、暗黙の前提があるような気がしてならない。しかし日本では、そんな生き方はとっくに破綻している。そこにたどり着ける人がいても、ほんの一部でしょう。その意味では、過度に経済的価値観に煽られないために、今後は欲望をコントロールする技術が必要になってくると思いますね。 じつは私にも、駆け出しのころは、1日の食費が300円という時代がありました。しかし、漫画を描くことが好きだったので、毎日がまったく苦ではなかった。ところが、こういう話をいまの若い人にしても、結局のところ、まったくウケないんだよね(笑)。だから、いまはもう若いアシスタントを使うことは諦めて、「コミックスタジオ」というソフトを使って、一人で漫画を描いています。 堀江 じつは、僕は最近、けっこう本を出しているんですが、活字の本が嫌いなので、ほんとうは全部漫画で出したかったんです。 江川 では、一緒に何かやろうか。 堀江 いいですね。ぜひ漫画で。だって、活字の本よりも売れそうじゃないですか。 江川 まあね。(笑)
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20110221-01-1401.html (Yahoo!みんなの政治より)
●世代間格差〜若者は犠牲者!? 老人天国ニッポン〜 ●村上龍が聞く Q.1052
→|←
|