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五色の髪。 | 2009年12月16日(水) |
五色の彩雲を縒ってつくられたような、不思議な色合いの髪が風に揺れる。 雪の上に虹が落ちて滲み広がったような、光の当たり具合によってさらさらと色を変える多色の銀を見つめながら、彼女は自分の既視感の理由を探っていた。 「……ねえ、前にも会ったことがある?」 同じような色合いでありながら、しかし染まらない雪のような色の彼女の髪に触れ、虹色の青年はくすくすと笑った。 「いいえ。これが初めてですよ、黄昏の子」 まるで猫でも可愛がるかのように頭を撫で続ける美しい彼の様子に、軟禁されているという緊張感が殺がれた彼女はふうと溜息をついた。 「でも、前に会ったことがあるような気がする」 けどそんな変わった色の髪のひとに会って、覚えてないなんてことないよねえ、と娘が感嘆したように呟けば、彼は明るく笑い声を上げた。 「この世には、自分と同じ顔が三人いるという俗説があるでしょう。きっとその誰かに会ったことがあるんだと思いますよ、あなたは」 冗談にしてはまっすぐすぎる声と視線に、彼女はただならぬものを感じて顔を上げた。 華やかで気を惹く、美しく神々しい髪とは対照的に、そのひとならぬ美貌に嵌っている瞳は禍々しい血の色をしていた。 「……あなた、だれ」 紅を惹いたかのようにあかい唇が弧を描く。 天上の調べもかくやという、低く耳触りの良い玲瓏とした声が、それを告げる。 強い風が頬を打ち、虹色の長い髪を吹き上げる。 「我が名はネハシュイェル。神に是非を問う、愚かな人形のなれの果てです」 |