綴緝 ADMIN|INDEX|past
以下、今月十五日分の日記をそのまま移動してきました〜。 メンバーはいつも馬鹿騒ぎをやっている連中だった。 午前で授業が終わったヤツと午後の授業が休講になったヤツとで飯を食いに行った。どうせあとは帰るだけで暇している。 場所は金が無い学生の友、某ファーストフード店。バイトの給料日後であっても四月からの出費に備え喫茶店やファミレスで駄弁れない。ちなみに学食は量が少ない、高い、不味いの三重苦だ。候補にも挙がらなかった。 「そういえば」 ハンバーガーにかぶりつきながら発言者を見る。彼女はアイスティーを飲み終えトレイに置いたところだった。 肩まで伸ばされた黒髪、目はやや大きめ、整った容貌。その割に冷たい印象は受けない。女特有の柔らか味がある顔立ちのおかげだ。性格とは正反対だ。 アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン。父親がどこぞの会社の社長だとかでお嬢様というわけだ。性格が環境に引きずられた、というよりも、もともと素質があったのだと見ている。性格と根性の悪さは筋金入り。口では勝てない。誰とは言わないが渡り合えているヤツらを尊敬する。尤も同じ穴のムジナだ。見習いたくない。 「今年はどうする? リナ」 自分には関係なさそうな話題だな。そう判断しても意識はしっかり二人の女に向いていた。お嬢サマが一瞬、こちらを見た気がしたからだ。 「どうするって、……あー、うーん……」 リナはポテトをつまみつつ視線をどこか遠くへ飛ばした。 フルネームはリナ=インバース。癖のある栗色の長い髪、大きめの目、童顔、ついでに低い身長。同い年には到底見えない。中学生と言ったら通じそうだ。中性的な面立ちで男装したら女だと紹介されても信じられない。 こいつも黙っていれば可愛いのにというタイプだ。周囲にはそういう人間ばかり、否、そういう人間しかいない。 類友ってヤツだな。 「ガウリイさんには例年通り、チョコレート代わりのガトーショコラでいいとして。義理の分よねー問題は」 例年通り。チョコレート。義理。 その三つの単語がやたら強調されたような。 動揺を押し隠すために残りのハンバーガーを口の中に押し込んだ。 バレンタインの話だと馬鹿でもわかる。二月に入った今、どこの店もバレンタインの文字が躍っている。雑誌もテレビも同じく。これでバレンタインを思い浮かべないのならばチョコレート(またはバレンタイン)の存在を知らないか、仙人のような生活を送っているか、カレンダーと菓子業界から切り離された日々を過ごしているのだろう。 「うん……まあ、そうね」 例年通りの言葉から察するに毎年やってんのか。ご苦労なことだな、菓子業界の陰謀に毎年加担してるとはな。別に拗ねてなんかいねーぞ。っつーかどうしてオレが拗ねなきゃならねーんだよ。誰が誰に何をやろうと関係無いだろ。貰う男も男だ。チョコレートなんて甘ったるいもんを、よく食う気になれるぜ。砂糖のかたまりじゃねーかよ。それを毎年だ。義理とはいえ毎年。一ヶ月後にはお返しも要求されるってのに律儀に付き合ってやってんのか、毎年。やるほうも付き合うほうもいい加減ネタ切れしそうなもんだけどな。なんで女ってのはイベント好きで甘いもん好きなんだか。理解できねーよ。食ってもいねーのに胸焼けしそうだ。 包みを乱暴に手の中で丸める。もう一つハンバーガーを取り噛み付いた。 あーくそ、味わかんねー。コーラまだ残ってたよな。口直しだ口直し。 左手でハンバーガーを持ち、右手で紙コップを持つ。コーラを口の中のハンバーガーごと喉の奥に流し込む。 ところが勢い良く飲みすぎたらしい。ちりっと喉に痛みを感じた。咄嗟に噴き出すまいとストローを離し口の中全体に力を込める。逆流してくるハンバーガーとコーラを無理矢理飲み込む。たった数秒間呼吸できないだけで涙が出るほど苦しい。すべて胃に収めてから心置きなくむせた。 ちょっと待てオレ落ち着け。なに焦ってんだ。 「何やってんだよ、だっせーな」 「う、るせ」 仲間の一人の揶揄にそうとしか返せない。喉が痛くて声を出せないのだ。 いくつかの視線から顔を逸らす。今度は慎重にコーラを飲んだ。炭酸がしみる。 「――――で、どうしよっか。去年はトリュフだったでしょ。一昨年は生チョコでその前がエクレア、五年前はチョコレートスフレ。マカロンもブラウニーもクッキーもザッハトルテもロシュも作ったし、そろそろ思いつかなくなってきたわよね」 知らない単語がいくつかあった。チョコレート菓子だと想像できるから口を挟まない。 エクレアって作るの難しいんじゃなかったか。どうでもいいけどよ。 「面倒だからシフォンケーキかウィークエンドショコラ作って分けるのは? 持ってくるのは大変だけど。こまごましたのを大量に作るより楽よ。ラッピングも一度で済むわ」 ん? 作る? 「まさか毎年作ってんのか? 既製品買ってんじゃなくて」 畜生まだ声がかすれてやがる。 食事は一旦中止して喉をさする。気休めでも何もしないよりマシだ。 「作ってるわよ。なにか文句でも?」 不機嫌そうに眉間に皺を寄せた顔をちらと見て自分のトレイに視線を落とした。食いかけのハンバーガーを攻略しにかかる。 つまりは毎年毎年飽きもせず様々なチョコレート菓子を手作りしていたわけだ。ゴディバやら何やらを買うよりは安上がりだな。年に一度とはいえ作り続けている根性を別の場所に回せと思わなくもない。 むかむかする。胸焼けに似ているが胸焼けではない。自覚はしていた。認めたくないから直視しなかったのだ。 「文句じゃねーよ。ただ犠牲者の心配しただけで」 やめた。言い訳して逃げ回るのは性に合わない。かといってストレートに言えるほど素直になれない。 知り合って話すようになって、一応は悪友というポジションを得て一年。まだ一年目だ。最初は軽く探りを入れる程度で。 ……我ながら情けない。 いや勝負は二年目からだ。始める前にどのくらい好意を持たれているか確かめねーとな。結果如何で作戦が変わってくる。 嫌われてはいない。いまのように言い合いならしょっちゅうやっているが普通に話せば普通に返してくる。問題はそこから先。男としてまるっきり意識されていないのか、男という認識はあっても眼中に無いのか、それとも多少は、その、何だ、望みはあるのか。 「誰にモノ言ってんのよヴァルガーヴ。食べてから言ってくれる?」 いともたやすく挑発に乗ってくる。単純だなこいつ。どこかのお嬢サマと違って扱いやすくていい。 鼻を鳴らし残り少ないコーラを一気に飲んだ。水っぽい。 「要らねーよ。腹壊されそうだ」 お。完璧目が据わった。来るな絶対来るなこれは。ここがどこか忘れてなきゃいいけどな。行きつけの店で学校の近く、昼間。客は他にたくさんいる。もちろん同じ学校の人間もいる。大騒ぎして注意されたらみっともない。 「言ったわね。見てなさいよ、絶対に美味しいって言わせてやるわ」 心配は杞憂に終わった。悟られないよう密かに胸をなでおろす。 目に炎が浮いている。我に返らない限り誰が何を言っても実行に移すだろう。 「ゲテモノ作るなよ。食うのはオレなんだぜ」 せせら笑いで駄目押し。冷静に見ていれば発言を百八十度翻したと気づきそうなものだ。頭に血が上っていなければこいつも気づいたに違いない。証拠に隣のお嬢サマは、そ知らぬ顔で(リナの)ポテトをぱくついている。関係ありませんという態度が逆にわざとらしい。さっき意味ありげに視線寄越したのはこういう意味か。ハメやがって。 いいけどな。どの道、黙って終わらせるつもりはなかったんだ。 「作らないわよっ。今の内に謝る準備しといたほうがいいわよ、美味しかったらホワイトデーは十倍返しだからね!」 毒を入れられかねない勢いだ。 上手くいった。そう笑ったのが約二週間前。今日はもう当日だったりする。 五時起きは辛い。なんだって一限から七限までみっちり授業あるんだ。スケジュール組んだのはオレだけどよ。 大誤算だ。十四日。平日。天気は晴れ。それはいい。そこまでは。問題は曜日だ。今日は一コマも同じ授業を取っていない。誰と誰がなんて決まっている。オレとリナ=インバースだ。 いっくら約束したっつっても会わねーんじゃ意味ねーだろ。 どうしても十四日でなければダメな理由など無い。気分的な問題だ。今日会えなければ渡されない気がする。 信用は、している。やると言ったらやる女だ。ただし何故オレに渡さなければならないのか、という根本的な疑問にぶち当たらなければ。 二週間もたてば頭だって冷える。オレに食わせてうまいと言わせる。ホワイトデーのお返しもゲット。その二つにどれほどの価値がある。少し考えればわかる。オレにうまいと言わせたところで実質的な得にはならない。多少の満足感は得られるが、それだけだ。お返しは確実性が無い。オレが知らないと言ったらそこでオシマイ。作り損だ。 一。よく考えたら無意味だって気づいたから、やっぱりチョコレートは無しね。 二。よく考えたら無意味だって気づいたけど、あげるって言ったのあたしだし、何もあげないってのもね。手作りじゃないけど。チロルチョコレートだってチョコに変わりないでしょ。 三。約束通り作ってきたわよ。あんたもホワイトデー十倍返し忘れないでよね! 可能性が一番高いのは二番目だな。確かめようがねーなそれじゃ。 溜息つきつつ校舎を出る。ようやく二限が終わってくたくただ。単位を落とせない授業ばかり詰め込むのではなかった。 さっさと昼飯食って次の授業に備えるか。一人で昼飯ってのも虚しいな。 のたのた歩き、ろくに前も見ていなかった。 「ヴァルガーヴ!」 声を掛けられなかったら気づかず通り過ぎていた。 地面に張り付いていた目線を剥がす。正面は校門だ。先には車道が広がっている。学生が続々と昼食を取るために外に出ていく。その流れが一部不自然だった。人が一点を避けて動いている。 声に聞き覚えがあっても、にわかには信じられなかった。わざわざ授業の無い日に来るとは思っていなかった。すくなくともオレが知っている女は面倒臭がって翌日に回す。 ――――いた。校門の脇に避難している。 人の波から外れそちらに足を向ける。辿り着くなり「わっざわざ来てあげたのよ、感謝してよね」片手大の紙袋を押し付けられた。真っ黒でロゴも模様も何も無い紙袋だ。中にはチョコレート色の包装紙とワインレッドのリボンでラッピングされた物体Xが。もとい、チョコレート(と思しきもの)があった。 「ちゃんと渡したわよ」 じゃあね、と背を向けられる。 チョコ無しの一番目でも、チロルチョコの二番目でもなかった。しかも思いっきり義理ですと主張しているみんな用のケーキ一部でもない。オレのために作られたチョコレートだ。 少しは、期待してもいいって事か。 流れに埋もれ見えなくなる前に歩き出し追いつく。ぽん、と肩に手を置き注意を引く。振り向くのを待ち告げる。「感想聞かずに帰るのかよ。昼飯くらい奢ってやる」 こんな機会でもなければ滅多に二人きりになれない。今日一日くらいはチョコレートより甘ったるい気分に浸るのも悪くない。 「それでチャラだとか言わないでよ」 ちゃっかりしてる女だ。言わねーよ、と小突いて止めた足を動かす。 とりあえず明日からしばらく節約するか。 財布の中身を思い出して苦笑いした。 ――終。 これで中身がわさび入りとかだったら笑うけどね。(台無し) なかなかリライトできないお詫び。(当初は別カップリングでした)(ついでに言えばリライトできていない某長編とは関連無し。って読めばわかりますね)(^^;)(いま気づいた。姫が(リナも)アニメ版じゃない。まいっか)(そんな)(つか今更VD話ですか。WDの話を書こうと思ってたはず。アレー?)(加えて必要以上に軽い話になりました。シリアスの予定ではありませんでしたがギャグにするつもりもなかったのに) 甘くないですね。しかも続きそうな終わり方ですね。続きませんが!(……)(VD話をWDの翌日に載せてこの言い様) 降って沸いたネタを(そのままではないのですが)書いた突発です。すみません。気が向けば(いえネタが浮かべば)何か書くかもしれませんが、可能性は限りなく低いです。ラブラブよりも、こういう曖昧な関係が好きなもので。(ラブ甘も好きですが)書くとしてもこの続き(WD話)は会話だけで終わりそうな……。そもそもこのカップリングはうちのサイトで需要あるのですか。例の長編ではなく、こういう感じの短編などで。どうにも皆様に肩透かしを食らわせている気が。名前を出したところで古代竜かよ! と突っ込まれた方多数と見た。 ところで。すれやずの女性陣(マルチナ除く。笑)は現代にいてもおかしくない容姿ですが男性陣は……。剣士さんはいいんです。まあ、獣神官さんも問題無いでしょう。髪の色も長さも許容範囲内です。でも魔剣士さん(合成獣だからどうこうというのではなくて髪型が。笑)や赤法師さん、魔竜王に至っては!(笑) 赤い上に長髪(それもかなり長い)。実際にいたら避けて通りますと言うかすれ違う前にUターンします(笑)。なまじガタイがいいもんだから恐いです(笑)。 その更に上を行くのが今回の話の主役。髪の色が黄緑? 水色? で何がどうなっているのかわからない髪型(笑)。アニメだから許されるのだとつくづく。(尚、服装については言及しません。だってファンタジーだし)(なら髪形や色もスルーされて然るべきですか? いやいや物事には限度ってものが!/笑)あ、べつに批判ではないです。現実にいたら恐いという話です。派手で見た目インパクトあるから新キャラ(&TVオリジナルキャラ)でも覚えやすくていい。本来の主役食っちまった役どころはどうかと思うけれども。(笑) そういや獣王(くどいようですが原作15巻挿絵の金髪のほうを獣王だと思ってます)も不可解な髪型してましたか。最近とんと読み返していないので忘れ去っておりました(酷)。 なんでこんな話を出してきたのかっつーと。現代パラレルでも髪型や色の奇抜さには目を瞑りましょうってことです(笑)。二次創作で現代パラレル書くときのお約束ですな。どんなに不自然でも考えちゃいけない(笑)。魔竜王さんの場合がUターンならば、古代竜さんの場合はダッシュで逃げます(笑)。 それはさて置きひっさびさに古代竜さんを書いたので口調がわかりません。少なくとも一年以上はアニメ見返してないしなー。リライトする前に見て勉強しとかんと。これ別に某赤毛の魔王や魔竜王でもOKだよねなんて言っちゃダメです。微妙に態度や言い回しが違うんです!(笑) 一応古代竜さんの一人称はオレで定着かなー。魔竜王さんもオレだし。 タイトルは思いつきませんでした。なんか浮かんだら付けます。では容量ギリギリなので今日はこの辺で!(書き逃げ) BGM 中谷美紀 ABSOLUTE VALUE |