酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2007年01月25日(木) |
『赤朽葉家の伝説』 桜庭一樹 |
赤朽葉家に嫁いだ万葉、彼女には予知能力があり千里眼奥様と呼ばれていた。万葉の娘・毛鞠は美貌のマンガ家として一世を風靡し、赤朽葉家を支える。そして毛鞠の娘・瞳子はナニモノでもない女の子。母と祖母の伝説をたどる瞳子は祖母が犯したと言う殺人事件を考察する。祖母は本当に人を殺したのか・・・!?
これは面白かったです。2007年一発目の大ブラボー!です。桜庭一樹さんがこういう角度から物語を描かれるとは思わなかった。うまい人だなぁ。女三代の物語はそれぞれに読み応えがありました。中でも毛鞠は最高に興味深い。おばあさまの万葉の神秘性よりも毛鞠の生々しい生き様に強烈に惹かれました。泪の物語も違う角度から読みたいのですが。この本はきっと何度も読み返す人生の一冊だろうなと思います。なんだか嬉しいv
わたし、赤朽葉瞳子の未来は、まだこれから。あなたがたと同様に。だから、わたしたちがともに生きるこれからのこの未来が、これまでと同じくおかしな、謎めいた、ビューティフルワールドであればいいな、と、わたしはいま思っているのだ。
『赤朽葉家の伝説』 2006.12.28. 桜庭一樹 東京創元社
2007年01月23日(火) |
『雷の季節の終わりに』 恒川光太郎 |
地図にのっていない隠(おん)という町を舞台にした不思議な物語。ダークファンタジーとでも申しましょうか。今までに読んだことのある物語の混合みたいな感じは否めませんが、不思議感が面白かったです。
『雷の季節の終わりに』 2006.10.31. 恒川光太郎 角川書店
2007年01月20日(土) |
『心にナイフをしのばせて』 奥野修司 |
人を殺した挙句、首を切り落とす。そこに如何なる事情があろうとも尋常ではない。そんな事件が相次いでいる。この『心にナイフをしのばせて』は1963年に起こった少年Aによる同級生殺害・首切り事件で被害に遭った少年家族たちの心の叫びです。神戸の酒鬼薔薇事件よりも前にこのような事件が起こっていたのですね。知りませんでした。この事件で被害者の家族達は壊されてしまっています。事件の後に必死に生きてらっしゃいますが・・・。何より驚いてしまったの犯人だった少年Aが、弁護士になっていると言う事実。それは人としてどうなのでしょうか。弁護士となった少年Aは謝罪なし。それどころか書かれている言動が全て本当ならばこんな人が弁護士であっていいわけがない。話題になっている本だけのことはありました。余談ですが、本の表紙の絵とタイトルの持つ意味が合致しないので違和感があります。インパクトの強い絵ではありますが、これでは「心にナイフをしのばせて」の重い深い言葉の意味が台無しになってしまいます。
『心にナイフをしのばせて』 2006.8.25. 奥野修司 文藝春秋
2007年01月17日(水) |
『遺品整理屋は見た!』 吉田太一 |
これはねぇ・・・もう読んだ後ぐったり、食欲ナシでありました。いやはや聞きしに勝るオゾマシイ現実のオンパレード。参ったなぁ(まだぐったり)。私は26歳だった恋旦那を26歳の時に亡くしました。その時の記憶はずいぶんと抜け落ちています。ただ言えることはしっかり彼の死を悼むことができたという現実がありました。葬儀をはじめ、家族・友人多くの人たちも彼の死に向き合い、嘆き、苦しんでくれました。彼の遺品は家族にも仲間にも形見わけできました。今でも彼の死は心に痛いですケレドモ、彼の死に関する整理はきちんとできたと思うのですね。まぁ、心は出来ないし、死ぬまでできっこないと思っていますが。なのでこの本に綴られた様々な死の後始末に愕然としてしまいました。そういう死に方はない。そういう整理の仕方はない。もう信じられない。だからこそ吉田さん御自身も仕事として関わって驚いてブログに書き留められたのだと思います。死への参考書ではないでしょうか。私が死んだ後に係累に迷惑をかけないように、そんなこともチラリと考えさせられました。
『遺品整理屋は見た!』 2006.9.30. 吉田太一 扶桑社 孤独死、自殺、殺人・・・・・・あなたの隣の「現実にある出来事」
2007年01月16日(火) |
『使命と魂のリミット』 東野圭吾 |
夕紀は研修医。心臓外科医を目指している。夕紀は師事するドクターに対して複雑な思いを抱きながら、トンデモナイ事件に巻き込まれていく。手術中に発生した大事件を前に夕紀や病院スタッフたちは必死に患者の命を救おうとするのだが・・・!?
うまいですね、東野圭吾さん。つるつるっと読みやすかったです。重厚で重苦しい作品が続いただけに、今回のある意味ライトな感じは受け入れやすかったです。あまりにも悲惨でウームと考え込む作品が続くと疲れてしまうから。登場する医療スタッフたちの使命感には心を打たれました。かくあるべきだよなぁ・・・。
「ぼんやり生きてちゃだめだぞ。一生懸命勉強して、他人のことを思いやって生きていれば、自ずといろいろなことがわかってくる。人間というのは、その人にしか果せない使命というものを持っているものなんだ。誰もがそういうものを持って生まれてきてるんだ。俺はそう思っているよ」
『使命と魂のリミット』 2006.12.5. 東野圭吾 新潮社
2007年01月14日(日) |
『欲しい』 永井するみ |
由希子は人材派遣会社『ミネルバ』を経営する42歳独身。愛人の久原が訪ねて来て帰った後に派遣ホストのテルを呼ぶ。彼が帰った後の寂しさをテルに埋めてもらうために。ある日、派遣先でスタッフの槙ありさと言う女性がトラブルを起こした。別れた旦那が金の無心に会社に現れて騒ぎになったと言うのだ。詫びに行った由希子は、槙ありさの別れた旦那と遭遇する。その男・優也はきれいな男だった。なにかしら心惹きつける優也をめぐり、由希子が久原がテルがありさが・・・!?
永井するみさんモノは面白いんですよねー。大好きです。今回のタイトル「欲しい」の意味をどこに投影すればいいのかしら、と言うくらいに「欲しい」思いのオンパレード。由希子の「欲しい」が一番理解できるし、テルの「欲しい」は賢いなぁと感嘆しました。久原と優也とありさはどうかなぁ。わからないなぁ。その不可解さが面白いのですケレドモ。派遣ホストって言うのは現代ならではの職業だわ。質が高いことが素晴らしい。寂しい心を埋めて欲しいってわかるんだよね。しみじみ。意外な展開と落ちもイマドキなのでありました。
『欲しい』 2006.12.20. 永井するみ 集英社
2007年01月13日(土) |
『黒と白の殺意』 水原秀策 |
「えぐる」「しのぐ」「さばく」「いじめる」「死ぬ」「殺す」・・・こんな特殊な専門用語に満ちている囲碁業界で、プロ囲碁士・椎名弓彦は「殺し屋」の異名を持っている。弓彦は、対局で訪れたホテルで起きた殺人事件に巻き込まれてしまう。日本囲碁協会の大村理事が股間と胸を刺されて絶命している現場に遭遇してしまったのだ。容疑者として浮かび上がったのは弓彦の弟・直人だった。事件の真相を調べていくうちに日本囲碁協会の不正の数々に行き当たり・・・!?
これは面白かったですねー。囲碁のことも囲碁業界のことも全く知らないで読みましたが、じゅうぶんに楽しめました。スケート連盟の不祥事に通ずるものがあり、閉ざされた世界での不正って多いのかもしれないなぁと。登場する人物たちのキャラクターがすごくいい。言葉のやりとりが洒落てるんですよね。読んでいてウフフと笑えてしまうような日常感です。水原さんはこれからも注目したい作家さんのおひとりです。オススメv
『黒と白の殺意』 2006.12.18. 水原秀策 宝島社
2007年01月12日(金) |
『可愛いベイビー』 吉村達也 |
誠は新婚半年で新妻・麗奈に離婚された。一年ぶりに麗奈から届いた便りは再婚の御知らせと結婚式への招待したいという内容だった。麗奈に未練たらたらだった誠は結婚式披露宴を隠れて見に行く。誠が目にした麗奈の再婚相手は20歳も年上の中年男だった。その男の姿を見た誠の心は壊れてしまい、別れた妻をストーカーするようになり、そして・・・!?
吉村達也さんの小説はサラリと楽しめるので好きです。2時間もののサスペンスドラマみたいな感じ。今回は可愛らしい女に振り回される哀れな男たちの物語。読んでいる側は女の悪魔的な側面が見えてくるだけに男たちの哀れさが際立ちます。結婚ってなんなんだろうなぁ。
「人間って、正常と異常は紙一重ですよね」
『可愛いベイビー』 2006.10.25. 吉村達也 集英社
2007年01月11日(木) |
『サロメ後継』 早瀬乱 |
刑事の井出川は奇妙な事件に遭遇した。手首からすっぱりと切断された人間の左手。指が全て根本からない・・・そんな手が純白のタオルにくるまれた箱が発見されたのだ。井出川はこの奇妙な事件にのめりこみ、欲望が伝播していることに気づく。そして井出川は焼身自殺をしてしまった。しかも心中だった・・・!?
不思議なホラーでした。こういう宗教をからめた儀式のようなホラーって興味深いなぁ。人間の心の根底に流れている欲望や闇は果てしなく人によって全く違う。その欲望は本当に自分の欲望なのだろうか? うーん、面白いv 井出川刑事以外の登場人物に今ひとつ魅力が欠けていてそこが物足りなかった。もっと書き込めばいいのに〜。
「悲しみを感じるんです。ああ、この人達は、見かけはごくふつうなのに、心だけが病気なのだって。すると、悲しみが僕の中でふくれあがり、出口を求めてもがきだします。僕は傷を作ることで、その出口を作ってやるんです。すると、悲しみは外へと流れ出ていき、みんなの顔が晴れ晴れとしてくるんです」
『サロメ後継』 2006.12.25. 早瀬乱 角川書店
2007年01月10日(水) |
『天使の眠り』 岸田るり子 |
宗一は13年前に同棲していた女と女の娘に再会した。その女はなにかが昔と決定的に違っている。この女はあの女ではない。違和感と狂おしい愛情から女をつけまわす宗一が辿りついた女の真実とは・・・!?
自分のモノにしたくてたまらない女が忽然と姿を消してしまう。そんな逃げられ方をしたら、深く傷として抉れて残ってしまうだろうなぁ。思いは同じ方向に同じ分量で向うものではないから・・・だからいつまでたっても愛憎のもつれ事件が発生してしまう。宗一は惚れた女の持つ翳りに惹かれ、翳りに翻弄されてしまいます。やっていることはストーキングなのですケレドモ、宗一の場合はいたしかたない気がするのよねぇ。なかなか面白かったですv
「人間の最も秘めた部分を安売りすると、そこから自分の身を滅ぼす何かが忍び寄ってくるってことなのかもしれない」
『天使の眠り』 2006.12.31. 岸田るり子 徳間書店
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