酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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もしかして星新一さんは未来から昭和の時代に時間旅行をしてきて、そのまま居着いてしまったのじゃないかしらん。そんなことを本気で考えるほどに『声の網』は素晴らしいものです。これって初版が1970年だと言うのですよ(驚愕)。その頃に今のネット社会を見通していたような物語運びに呆然としました。このことを知っていたに違いないですよー(本気)。メロンマンションの住人達が不思議な<声>に翻弄される。その声の主は・・・と言った流れなのですが、12の住人たちが右往左往。バラバラのピースがカチッとひとつに合わさった時にオソロシイ現実が。これは今のことかもしれない。もう少し先の未来のことかもしれない。予言されている・・・。おそるべし、星新一!
「まさかという言葉のつみ重ねが、歴史さ。人間がそれを口にするのは、有史以来、無間の回数だろう」
『声の網』 星新一 角川文庫
2007年01月06日(土) |
『悪魔のいる天国』 星新一 |
「こん」 神経科に男が妻を連れてきた。昨夜、帰宅したところ妻が目をつりあげ、こん、と高く叫んだきりキツネツキのままになってしまったと言う。医者はショック状態だと判断し、注射をうった。覚醒した妻は、こん、と言うキツネのなき声の続きを叫んだ。 「・・・・・・ど浮気したら、承知しないわよ」
帰宅した旦那のワイシャツに口紅の後を見つけてショックを受けたという物語をほんの3ページにきっちりと収められています。中学生の頃に姉に教えられた星新一さんの世界は今なお色あせることなくそこに確かにありました。ひさしぶりに星新一さんのショートショートの世界に浸っています。読んだことがある方は再読を、読んだことのない方は是非読んでみてください。物語の基本がぎっしりと詰まっています。ものすごくオススメですv
『悪魔のいる天国』 星新一 新潮文庫
2007年01月03日(水) |
『天涯の蒼』 永瀬隼介 |
古城は北関東の町のヤメデカで調査事務所をはじめた。担当した事件で無実の男を締め上げ、その男が自殺してしまったツケをはらわされたのだ。女房子供も出て行ってしまい、人生に迷う古城の元にひとりの少年が訪ねて来た。刑事をやめるきっかけになった19歳の風俗嬢が殺された事件の犯人を知っていると言う。古城は腐敗した警察組織のスケープゴートにされたのではないか!? 古城が見つけた真実とは・・・!?
警察とヤクザの癒着と言うのはよく物語になりますね。暴力団担当刑事がヤクザ風に表現されることもしばしば。この物語では正義を持っていた男が刑事をやめなくてはならない羽目に陥り、しかもそれは組織内の仕業ではないかと疑念を持ってしまう・・・なんだか哀れでしたよ。政治の世界でも何故だか秘書とかが自殺すること多いですケレドモ、真実は闇の中になってしまってうやむやに。そうさせまいと必死になる古城はケッコーかっこいいです。ただ辿り着く真実はありがち。正義って真実って知った方がいいのか、悪いのか。むずかしいところ。
「あんたに言われなくても分かっている。だが、バカだって1分の意地はあるさ」
『天涯の蒼』 2006.12.15. 永瀬隼介 実業之日本社
2006年12月29日(金) |
『特別法第001条【ダスト】』 山田悠介 |
2011年、ニート急増のため日本は財政難に悩まされていた。政府が打開策として棄民政策を発表。18歳以上の未就労者、未納税者に対し“流刑”を言い渡した。無人島に捨てられた者は500日間生活させられる。国民への見せしめの刑法はダスト法と呼ばれた・・・
うーん、今ひとつ、残念。山田悠介さんには期待しているのですケレドモ。物語の発想はかの名作バトルロワイヤルの亜流だし、オソロシイ無人島でのサバイバルの様子がかなり甘い。もしかしたら残酷すぎるのをあえて避けたのかもしれなと思います。こういう究極の場所に放り出されたら、人間は人として作用しなくなってしまうのではないかと。聖餐もありでしょうね。自分がそういう場に追いやられた時にどこまで理性を保てるやら全く想像できないなぁと思いながら読んだことでありました。
『特別法第001条【ダスト】』 2006.12.20. 山田悠介 文芸社
2006年12月28日(木) |
『独白するユニバーサル横メルカトル』 平山夢明 |
あっ!と驚くこのミス1位作品です。ホラーは好きなので平山夢明さんのホラーも好きで多々読んでいます。でもこの作品がこのミス1位ってどうなのだろう。なんだか違和感がぬぐえなかったです。生理的おぞましさのたっぷりつまった短篇集、のどかに過ごしたい日にはオススメできません。
『独白するユニバーサル横メルカトル』 2006.8.25. 平山夢明 光文社
2006年12月27日(水) |
『二重誘拐』 井上一馬 |
これは内容の紹介をしない方がよさそうです。面白いと書くにも問題がありますし・・・。うーん、現代社会に潜む恐怖、リアルホラーなのかもしれませんねぇ。淡々とすすむので読みやすいです。でも個人的好みとしてはここまでの題材なのだからいっそもっとヘビィに書き込んで欲しかったです。特に病んだ犯人についての描写は絶対的に欲しかった。そちらも浮き彫りにしておいて欲しいです。
『二重誘拐』 2006.10.19. 井上一馬 マガジンハウス
2006年12月25日(月) |
『親不孝通りラプソディー』 北森鴻 |
博多の屋台の親父キュータは、屋台を譲り渡して消えた親友テッキと体験した騒動を思い出していた。1985年の夏、テッキもキュータも17歳の高校生。美人局にひっかかって法外な金を請求されたキュータが金を作ろうと悪事を働くうちにテッキまで巻き込まれ、そして・・・
北森鴻さんはものすごく好きな作家さんのお一人で、私的北森鴻NO.1が『親不孝通りディテクティブ』です。忘れられない時期を博多で過ごしたため、自分の思い出とともにフラッシュバックする懐かしい風景にメロメロなのです。しかも、主人公のテッキは愛してやまない博多を捨てて去っていく・・・このエンディングに何度読んでも泣かされるのであります。そのテッキとキュータが帰ってきた(驚)!と言うことで熱い思いをなだめながら一気読みしました。ディテクティブでの終わり方からするとテッキが博多復活はありえないと思っていたので、どう復活させたのか興味津々。まぁ、当然と言うか順当と言うかキュータの回想というカタチを取りました。しかも、ディテクティブよりハードな事件を体験していたあたり、後付の物語らしいと苦笑。ドタバタな事件よりも今回のエンディングにまた鳥肌でした。このラスト数行のために起こった事件と言っても過言ではないのですものねぇ。ディテクティブを超える事はなかったものの、あの心に痛いほどに懐かしい博多の風を感じることが出来て本当に本当に嬉しかったです。テッキ最高v
「あちゃあ、なんでんかんでんひっくるめて、ちんちろまいったい」
『親不孝通りラプソディー』 2006.10.25. 北森鴻 実業之日本社
2006年12月23日(土) |
DVD『O【オー】』 |
ヒューゴはハイスクールのバスケ花形選手のオーディンに対して押さえ切れない嫉妬を隠し持っていた。エリートハイスクール唯一の黒人でカリスマ性を持ち、校長の娘デジーの心も掴んでしまった。バスケのコーチをしているヒューゴの父は息子よりもオーディンに夢中。歪んだ嫉妬心からヒューゴはオーディンを陥れる罠を張り巡らしていき・・・!?
あれこれDVDを観ていてお気に入りの俳優さんとなったジョシュ・ハートネット君のハイスクール版オセローです。ジョシュ君演じるヒューゴの屈折した心はウマク表現されていました。これって純粋さが残るハイティーンだからこそだなぁと妙にしみじみ心を痛めて見入ってしまいました。大人になってしまえばこういう愚かな暴走はありえない。大人になってこういうことをしでかしちゃうと、それはただ単に大人になれていないだけのことだわ。若さが純粋さが無謀に走り出して破滅してしまう・・・。愚かなヒューゴ。人に嫉妬してる間に自分を磨きさえすればいいことなのに。人は誰とも比べようがないものなのに。もっと愚かなオーディン。信じるべき人を信じられなかった弱さが破滅へ向わせてしまったのね。それもまた若さゆえの脆さ純粋さゆえなのだから痛すぎました。いやぁ、やっぱりシェークスピアってすごいんだなぁ。ちょっと吃驚。
2006年12月22日(金) |
『ワーホリ任侠伝』 ヴァシィ章絵 |
ヒナコは商社のOL。直属の上司のセクハラを笑顔でかわしながら、腹の内にマグマのような怒りが燃え盛っている。海外ワーキングホリデーの資金づくりのためにキャバクラでバイトを始め、運命の恋に落ちていく。最高の男に愛されたヒナコだったが、実はその男が原因でトンデモナイ暴力の世界へ墜ちてしまい、ニュージーランドへ脱出。しかしそこでまた・・・!?
物語のテンポが良くて、主人公のヒナコがからりとしているので陰惨な内容が明るく感じる不思議な物語なのです。マンガや映画を文字で読んでいる感覚ですね。ワーホリってワーカーホリックなのかと思って手に取ったのでワーキングホリデーだとは思わなかった〜。なるほどねぇ。ただ老婆心ながら若い世代の女性がこういう感覚を当たり前の様に受け入れてしまうとしたらスゴク怖い。これは物語だからフィクションだから落ち着くべき場所へ着地できたのであって、現実では絶対にマトモには終われません。そんなに甘くも簡単でもない。危険をキッチリ踏まえた上でフィクションを楽しんで欲しいと思うのでありました。こういう感性はある意味すっごく怖いものだと思いました。あ、なんだか真面目だ。
『ワーホリ任侠伝』 2006.10.19. ヴァシィ章絵 講談社
2006年12月21日(木) |
「春日局」 杉本苑子 |
お福は熟れの絶頂にある26歳。夫の正成は男ぶりも良く、下淫を好む。お福は夫の出世のために乳母として大奥へ入ることになった。行きがけに夫の愛妾を刺し殺して・・・。禁欲の女の園でお福は乳を与える子供に盲愛をそそぐ。その子供は竹千代。次の将軍さまとなるべき方なのだった。
大奥に関してはフジテレビのドラマでますます興味を煽られています。日本の歴史なんてものにたいして興味を持たずに生きて参りましたが、近年諸事情により(笑)歴史について勉強するようになりました(遅い)。ただ真っ当に語られている歴史よりも裏の顔、闇の顔にそそれらます。想像するしかない歴史に思いを馳せてみるとドロドロしたものがあるに違いないです。やっぱり人間だから。春日局についても、その歴史に触れるにつけ好奇心が巻き上がります! この女はあなどれない。尋常ではない。そういう鬼気迫るオーラを感じるのであります。おかめ顔でふくふくしい様子の女が高貴で美しいお江与ノ方に敵愾心を燃やす。その心根の捻じ曲がりように寒気がします〜ゾー。たまにどう見ても醜女でありながら太刀打ちできない美女にライバル心を持つ女がいますが、あれっていったいなんなんでしょう。身のほど知らずって言うより妄想に近い気がします。己をキチンと把握できないのですもの。お福もまさにそういうタイプに違いなく、その妄想でのし上がっていく。うーん、興味深い。充たされない想いを敵愾心を燃やす女の子供で晴らすナンテおそろしすぎます。春日局については少しずつ追っかけていきたいのであります。
「般若よりも、ほんとうはおかめのほうこそおそろしい。ゆだんがならない」
歴史・時代アンソロジー『大奥華伝』より 2006.11.25. 角川文庫
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