酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2006年11月23日(木) |
DVD『PATIENT14』 |
リサは事件に巻き込まれ、耳が聞こえなくなってしまった。耳の側で暴漢が拳銃を発射したためだ。失われた聴力を取り戻すためにリサは臨床実験の14人目の被験者となる。薬が効き、聴力が回復したリサだったが、思わぬ副作用が待ち受けていた。人の心の声が聞こえてくるのだ! この能力を巡り、国家の陰謀に加担することになったリサは・・・
この映画はなんでも事実に基づいているとか。どこまでが事実に基づいたのかしら。認可されていない臨床人体実験はありそうですね(怖)。こういう実験って被験者の弱みに付け込んでいるから・・・。治りたい、良くなりたいと願う病人なら危ない実験の被験者であろうと藁をも掴む気持ちでしょうし。普通に可能だったことが不可能になった時、どれほど苦しく恐ろしいことか。リサは事件に巻き込まれて聞こえていた耳が聞こえなくなってしまう。思い切って受けた実験治療で回復したと喜んでいたのも束の間、聞きたくない声まで聞こえてしまうようになる・・・なんて運の悪いことか。でもリサはなかなか強靭な神経の持ち主で悪夢の能力を使用するし、自分の現実に立ち向かうのですよー。カッコよかったv 人の心の声が聞こえたら、それが自分にとって大事な人の心の声だったら、それを聞く勇気は私にはないですね。そんな恐ろしいことはないと思ってしまったのでした。人の心の中まで信じるとか信じないとか、そういうことで済まされないと思うから。なにより自分の心の声を人様に聞かれるなんておぞましすぎる、怖すぎる。ううう。
2006年11月22日(水) |
『夏の魔法』 北國浩二 |
22歳の老婆ナツキは素性を偽って想い出の島へ人生最期のバカンスにやって来た。病気のために人より早いスピードで老化してしまったナツキ。この島で中学2年の夏にヒロと過ごした。甘く切なく美しい想い出を噛み締めるナツキの前に青年となったヒロが現れた。ヒロもまたこの島での想い出を大切にしていて人生を見つめにアルバイトに来ていたのだった。思いがけない再会に喜び傷つくナツキ。なぜならばヒロの横に若く美しい女性がいたから・・・。
ああ、こういう痛いほどに切なくて残酷な物語は心に強いものを残しますね。美しかった少女が数年で老婆になってしまった、まだ22歳なのに・・・。この残酷さ。私が少女だった時、22歳だった時、今となってはそれは遠く美しい過去で、年を重ねてきて若さの美しさ眩しさ残酷さを痛感しています。順当に年齢を重ねてきたところでこんなふうに感じると言うのに、22歳で老婆になってしまうなんて残酷すぎました。ただ優しさや救いはナツキの周りにも存在しました。それがまた残酷とも言えるのですケレドモ。美しく繊細なガラス細工がパリンと砕けてしまうような読後感、でも好きです。この切なさ、残酷さ。若さを失いつつある人にこそオススメかもしれないですね。
『夏の魔法』 2006.10.30. 北國浩二 東京創元社
2006年11月21日(火) |
『紗央里ちゃんの家』 矢部嵩 |
今年の夏もまた紗央里ちゃんの家に遊びにやってきた。紗央里ちゃんは僕より3つ年上の従姉妹、中学2年生。いつもは家族全員でやってくるのだケレドモ、中学3年の姉が受験勉強で母と家に残ったのだ。父とふたりでやってきた紗央里ちゃんの家には風邪をこじらせて死んでいた(と後から聞かされた)おばあちゃんはいないのは当然として紗央里ちゃんの姿も見えない。しかも家に微妙な異臭が漂う。叔母さんは血まみれで料理をしていたと言うわりに、出てくる食事はカップめんばかり。・・・なにか変だ。なにかすごく変な気がする・・・!?
ホラーにも色んな種類があると思うのですが、生理的不快感=キモチワルイ系と言う種類は好物ではありません。でもまぁ『黒い家』では気持ち悪さもゾクゾクさせられたものだったっけ。うーん。やはりただ単に読んだ時の好みの問題なのかしら。このホラーは異様に不快な匂いが漂っていて(たぶんそれに辟易したんだと思う)何故だかドライで、そのくせおどろおどろしく迫り来る恐怖はキチンとあって・・・なんとも複雑にどんよりとさせられたのでありました。あ、そうか主人公の僕がキャーキャー怖がらないことがすごく違和感だったんだ(今、気づいた)。ホラーも色々あるものだなぁ。第13回日本ホラー小説大賞受賞作品です。
『紗央里ちゃんの家』 2006.10.30. 矢部嵩 角川書店
2006年11月20日(月) |
『Kの日々』 大沢在昌 |
木はムショ帰りの男ふたりからの依頼で美しい女性Kの身辺調査をすることになった。Kはムショ帰りの男たちと組んでヤクザの親分を誘拐した中国人の恋人だった。彼らはまんまと身代金を強奪したものの、金が消え、中国人は死んでしまった。ムショ帰りの男たちは身代金をKが隠し持っていると睨んだのだ。だが、Kを見守るうちに木はKにどんどんと惹かれていき、そして・・・。
これはもう大沢親分の浪漫ですねぇ。Kと言う女性の美しさは男が思い描いた想像の産物。こんな女性はまず存在しない気がしました。なので男たちが金や浪漫にドタバタしていても、女であるKは佇まいも凛としているのです。そこまで普通の女は腹を括れないと思いながら読んでいました。こういう女性がいるのであれば私だって恋をしてしまいます。それほどに芯が強く楚々として美しかった・・・。夢ですネェ。
『Kの日々』 2006.11.10. 大沢在昌 双葉社
2006年11月19日(日) |
『ゆれる』 西川美和 |
タケルは母の法事に田舎に戻ってきた。カメラマンになったタケルはぼさぼさ風情も垢抜けていて父親が経営するガソリンスタンドにフォードのステーションワゴンで乗りつけ給油される様もカッコよさげ。窓を拭く女の揺れる胸元を見ていたタケルは胸の持ち主が幼馴染の智恵子であることに気づき動揺する。法事に遅れたタケルを父はやはり快く思わずもめるのだが、兄ミノルが優しく納めようとしてくれる。兄のミノルは田舎や家族を捨てて出て行った弟タケルを責めることもなく、全てを静かに引き受けてきていた。ガソリンスタンドで働く智恵子は兄にべったりで、その昔、智恵子を捨てたくせになんとなく面白くないタケル。そして気軽に智恵子を抱いて、翌日、三人で吊り橋のある蓮美渓谷へドライブに行き、三人の人生と関係が大きく大きく揺れてしまうのだが・・・!?
映画『ゆ れ る』の評判がものすごく良く、主演のオダギリジョーを観たかったのですが、結局映画館に行けなかったので原作を読んでみました。これは読んでその背筋に寒い怖さに唸りましたっ!!! これってホラーだわ。激しくホラーだった・・・(唖然)。映画ではどのようなカタチなのかわからないのですケレドモ、小説では登場人物ひとりひとりからの視点からの語り形式となっています。だから事件の浮き彫りようがハッキリクッキリで人間の心の闇がずぼっと浮き上がってくるのです。この語りようが怖い。関わった人間の感情がそれぞれに主観を変えるために恐ろしいまでに怖さを煽るのです。中でも悲劇のヒロイン智恵子のズルさ汚さ哀れさに共感できてしまって、それゆえにトンデモナイ最期を迎えてしまって・・・ホラーのヒロインは一番怖い目に遭うものなのですよねぇナンテ納得してしまったくらいです。来年の2月にDVD発売とのことなので待ち遠しいです。おそらく映像で観たらまた違う角度から心を揺さぶられてしまう気がします。この西川美和さんってスゴイ人なのじゃないかしら。これから注目していきたい女性であります。オススメ。
けれど全てが頼りなく、はかなく流れる中でただ一つ、危うくも確かにかかっていたか細い架け橋の板を踏み外してしまったのは、俺だったのだ。
『ゆれる』 2006.6.13. 西川美和 ポプラ社
2006年11月18日(土) |
『イヴの夜』 小川勝己 |
光司は、人数合わせで参加させられたコンパで麻由子と会った。麻由子も渋々参加の口らしく、引っ込み思案な光司はなんとなく惹かれるものを感じた。不器用ながら付き合いはじめた二人。なのに麻由子が惨殺されて、マスコミはいかにも光司が犯人であるかのような報道合戦を仕掛けてくる。周囲の人から不審の視線を浴びるうちに付き合っていたことが自分の妄想ではないかと思い始める光司だった・・・。
身につまされるような悲しい物語であります。ううううう(泣)。好きな人が殺されて、犯人であるかのような報道をされ、親にすら疑われてしまうなんて。行き場のなくなった主人公の胸のうちを思うと痛くて痛くて。光司と交互に登場するヒロインのデリヘリ嬢のひとみも生き辛いタイプの人で・・・交互に出てくる主人公が交互に痛くて、クロスしたと思ったらこれまたますます痛すぎて。なんだかなぁ。でもこういうの描かせると小川勝己さんってうまいと思います。閉塞的な絶望感に人間不信。最後に救いがあるのかどうか、そこは読んでみてくださいませ。大手を振ってススメはできませんケレドモ。痛いの覚悟で。
自分たちは、他者を憎み、恨み、妬み、嫉み、蔑み、貶め、拒絶し、愚弄し、嘲笑し、騙し、裏切り、傷つけてきた。心のなかで − ときには態度や言葉で、あるいは行動で。そしてそれらは、たいてい自分の脳内で都合よく変換され、捏造も加えられ、自己にとって肯定的なものへと変化してゆく。自分の心理的立場を被害者のそれへと変えてゆくことすらある。
『イヴの夜』 2006.10.25. 小川勝己 光文社
2006年11月17日(金) |
『東京公園』 小路幸也 |
圭司は北海道から東京に出てきている大学生。爽やかな佇まいのイケメン・ヒロと一軒家で同居生活中。圭司は家族写真を撮ることをライフワークとしていて公園で撮影することが多い。ある日、素敵なお母さんと娘のショットを捉えたところで声をかけられた。その人は女性のご主人で後日、圭司に妙な依頼をしてきた。「尾行して写真を撮ってほしいんだ」・・・奥さんと娘さんを?
亡くなった大事な人の夢を見て腑抜けた状態で読んだのですが・・・心にするすると入り込んできてポカポカと温かな陽だまりにいるような思いに包まれました。本当に小路幸也さんの物語は心に優しく染み入るわー。物語に登場する人たちがいい人ばかりで、だから夢のように優しく温かいのかもしれませんね。圭司がファインダー越しに恋をする奥さんと娘さん。あれって奥さんだけに恋したのではなくって奥さんと娘さんの柔らかな愛情そのものに恋したんじゃないかしら。こんなふうにファインダー越しにすら伝わる愛情、そういうもので世界があふれていたならば、きっとこの世は素晴らしいはずなのに、ね。オススメですv
「誰かのために生きるためには、その誰かさんが必要なんだろうな。二人ともそういう人を求めていたのかもしれない。それは、単に好きとか恋とか愛なんていう言葉じゃ括られないものだろう」
『東京公園』 2006.10.30. 小路幸也 新潮社
2006年11月15日(水) |
DVD『私がこわされるとき』 |
教会でピアノをひくキャサリンを見初めたイレーニは、息子のジョンと引き合わせる。結婚式から新居まで至れり尽くせりで幸せの絶頂のキャサリンだったが、義母となったイレーニの激しい干渉にうんざりしてくる。ジョンを通じて干渉をやめさせるように仕向けたキャサリンに対してイレーニは態度を豹変させる。息子マシューが生まれ、離婚騒動をきっかけに母親と距離を置こうとしたジョンだったが・・・。「キャサリン、マシューはポダラスの子よ」
実話を基に作られた映画だそうですが、いやホント怖かったです。息子を溺愛するあまり異常な執着を見せるイレーニが素晴らしく(演技的に)怖かったのであります。ううううう。こう言う嫁VS姑の戦いを見るにつけ感じるのは、夫であり息子である男が毅然とした態度で自分の立場を明確にすべきだと言うことです。自分がどちらと人生を歩んでいくかをハッキリさせて、どっちつかずはやめないとダメ。どうして母親って息子を自分のものだと錯覚するのだろう。自分が産んだから? うーん、私にはワカラナイ感覚だわ・・・。こんなラストが現実に起こったなんて本当に恐ろしいです。ジョンも気づきのが遅すぎるのよね・・・。馬鹿だ。
2006年11月14日(火) |
『ヴェサリウスの棺』 麻見和史 |
国立大学東都大学の建物は大正末期から昭和初期に造られたものが多い。医学部本館も古い建物で解剖学教室もここにある。教授の園部のもとで働く千紗都は園部に特別な想いを抱いていた。ある解剖の時、遺体からチューブが摘出された。そのチューブの中には園部を告発する文章が書かれた紙が仕込まれていた。不気味な告発文に恐怖を抱く千紗都は予想もつかない復讐に巻き込まれていく・・・!?
解剖学教室を舞台にした不気味な事件。ヒロインの千紗都は事件に巻き込まれてトンデモナイ状況に落とされるのですが、そのシーンは本当に怖かったです。千紗都が慕う教授の危機を救おうと奔走していただけにあまりにもかわいそうでした。ホラー映画のような展開で面白かったのですケレドモ、途中からトーンダウンしたように感じました。あと少々あれやこれやと詰め込みすぎている感がありました。もう少し削ぎ落としてもよかったのではないかしらん。鮎川哲也賞と言うよりも江戸川乱歩賞ちっくなのではないかと思って読んでいたら巻末で審査員の先生がしっかりと危惧されていました。読み手としては面白ければそれでいいと思っていたのですケレドモ、賞の特色と言うかカラーみたいなものは守られた方がいいように思いました。
周囲と関わり合い、生きていく中で、どうしても無視することのできない出会いがある。そこでどのような選択をしたかによって、人の生き方は変わるのだ。
『ヴェサリウスの棺』 2006.9.29. 麻見和史 東京創元社
2006年11月13日(月) |
『つばき、時跳び』 梶尾真治 |
親の反対を押し切って作家になったわたしは、熊本市郊外にある家に管理かたがた住むこととなった。さまざまな椿が咲き誇る通称“百椿庵”には女の幽霊が出ることで有名だった。わたしの母も女の幽霊を見たことがあると言う。ある日、わたしは美しく清楚な女が忽然と現れたのを目撃し、魅せられてしまう。その女は「つばき」と名乗り、150年の時のかなたから現れたのだ。わたしとつばきの時を越えた恋がはじまって・・・
ああ、もうたまらないです! カジシンさん最高です。タイトルから内容バレでカジシンさんだからタイムスリップものだとわかりながら読んでいても魅了されます。間違いナシですっ(自信満々鼻息荒らし)。不器用で清々しい恋に酔わされてしまいました。このふたりの恋の行方を見守りたい想いでラストまで駆け抜けてしまいました。言いたいケレドモ言っちゃいけない衝撃のラスト・シーン! いやはや本当にすごかったです。ものすごくオススメなのです。
それを考えると、何がきっかけになり、何が結果だということの境界が、だんだんとあやふやに思えてくる。いや、こう思えばいいのか。 すべてが時の輪の中で定められていたことなのだと。
『つばき、時跳び』 2006.10.18. 梶尾真治 平凡社
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