酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2006年10月29日(日) 『ダブル』 永井するみ

 週刊フューチャーの記者・相馬多恵は《いちゃつきブス女》を追いかけてみることになった。デスクの清里から粘り腰っぷりを見せてみろとハッパをかけられたのだ。この《いちゃつきブス女》と言うのは轢き逃げ事故の被害者で、轢き逃げに不審な点が浮上していた。被害者でありながら生前の容貌と性格や行動ゆえに《いちゃつきブス女》と揶揄されてしまう被害者。追いかけていくうちに被害者の暑苦しいようなブスっぷりがクッキリとしてくる。しかし、事件の真相にはトンデモナイ事実が隠されていた・・・!?

 死して《いちゃつきブス女》などと言われてしまう被害者を追いかけるうちに妙な事件が引き続いて発生。点にしか見えなかった事件が線となった時に、多恵に危険が迫る・・・のですよねぇ。久しぶりにゾクゾクする悪を読みました。この悪は大きな悪ではない。日常にきっと見え隠れする程度の悪。そういう悪が怖いのだと感じてゾクゾクゾク。タイトルのダブルの意味は途中から読めますが、だからこそますますゾクゾクゾク。現代らしい小さなありふれた隠れた悪が蓄積される時・・・うふふ、怖いのですよ。そこがね。永井するみさんの作品は私にとって当たり外れがあります。今回は大当たりでした。面白かったですよー。こういう作品をどんどん読みたいです。

私ねえ、鉤沼いづるのことをとても気の毒に思ってる。亡くなったあとまで、見ず知らずの人からブス女なんて思われるのは、かわいそうよ。反面、腹が立ってくるの。彼女が生きてたら、もうちょっとなんとかしなさいよ、って言ってやりたい。ブスを嫌いなのは、男だけじゃないのよ。女の方が、もっともっと嫌うの。今は化粧品もいろいろあるし、ダイエット食品だって選り取りみどり、プチ整形くらいなら、ちょっとお金を貯めればできないこともないわ。そういう時代なのに、なんだって正統派ブスのまま図々しく生きていたのよ、って思うわけ

『ダブル』 2006.9.25. 永井するみ 双葉社



2006年10月27日(金) 『闇の底』 薬丸岳

 幼い性が弄ばれて殺される。その性犯罪者は同じ過ちを繰り返しがちだと言う。男は手に入れた妻と幼い娘のためにサンソンなる怪物となっていく。幼い子供達が酷い目に遭うたびに、かつての性犯罪者を首を斬って殺すのだ。性犯罪者たちにオマエたちも酷い事をするとこうなるんだぞ、と思い知らすように。かつて自分が置いてきぼりにしたために妹を弄ばれて殺された過去を持つ刑事・長瀬。長瀬は刑事でありながらサンソンに同調する自分を見つけ・・・!?

 んんん~(困惑)。えっとですね、サンソンの正体がどんでん返しとなるかどうか、そこが読み手と書き手の戦いなのでしょうね。うん。こういう物語というのは正直どう感想を書いていいものやら悩んでしまいます。正直、私はサンソンみたいな存在はありだと感覚的に思っています。だけど・・・そういうリンチ的報復を許してしまえば法治社会は成立しなくなってしまう。そうなるとますます酷い犯罪がはびこるわけで。鶏が先か、卵が先か。犯罪に巻き込まれた被害者と被害者の家族の心の叫び、それってきっと人生が終るまで叫び続けるんだと思います。忘れてしまう事なんてできっこないもの。憎しみは憎しみを呼び、犯罪が連鎖していく。いい人ばかりの世の中ならば、そんな悲しみはなくなる。でも、ありえない。なんとも言えない思いがします。あ、サンソン的存在はありだと思っても、この物語のサンソンを認めるわけではありません。絶対にありえない(怒)。

 あの事件から、自分は出口のない闇にずっと放り込まれていた。

『闇の底』 2006.9.8. 薬丸岳 講談社



2006年10月26日(木) 『シフトⅡ ー世界はクリアを待っているー』 うえお久光

 現実の世界から眠ると“あちらの世界”へシフトする少年少女たちの戦いの物語の『シフト』を読んだ時にはものすごくワクワクドキドキしたものでした。私はゲームをやらないのですケレドモ(嫌いという訳ではなく、やるとドップリはまること必至なので自重)、ファンタジーゲームにのめりこむとこういう感じなのかしら、と(ならば絶対的にはまるに違いないので徹底的にゲームには手を出さぬと誓う)。“あちらの世界”はなんでもありのやりたい放題・・・現実=“こちらの世界”では普通の平凡な少年少女たちなのに。・・・ん、それってなにかに似てる。あ、2チャンネルか。うーむぅ(考え込む)。ま、それは置いておいて、そのサバイバルファンタジーの続編と言いますか、かなりシビアな展開となりました。“あちらの世界”が“こちらの世界”に寝食をしはじめて、ラケル(あちらの世界)こと赤松祐樹(こちらの世界)が自分の危険を顧みずに本気をだしてくる・・・と。そこには恋心があり友情があるので少年少女たちの純粋さと残酷さに結構ぐっときます。前作をウキウキ気分で読んでしまっただけに今回はノックアウトされました。次なる物語ではしっかと心構えして読みたいと思っていますv 前作ともども超オススメです。

 才能も、運命も、勝つべきか負けるべきかも知ったことか。べきべきなんか関係ない。納得するまでやってやる。そして笑ってみせてやる。この意地が磨り減り潰れ消えるまで、最後まで意地を見せてやる。
 そう、最期の最期まで。死に物狂いで足掻くなら。


『シフトⅡ ー世界はクリアを待っているー』 2006.6.30. うえお久光 メディアワークス



2006年10月25日(水) 『晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)』 大崎梢

 杏子は成風堂の元同僚からSOSを受けとる。今は故郷・信州の老舗名物書店に勤める彼女の言うことにゃ、本屋に幽霊が現れて老舗本屋存亡の危機!だ。しかるに本屋名探偵の多絵を連れて来い、ときたもんだ。巻き込まれ型の人のいい杏子は老舗書店を見たい下心も手伝って多絵ともども信州へ。そこで杏子たちが遭遇したのは27年前の地元作家の死と消えた原稿に纏わりつづける謎だった・・・!?

 うふふー。杏子さんと多絵ちゃんが信州へ旅行しますよーv しかも行き先には素敵な由緒アル老舗書店が! この設定に心動かされない本屋さんスキはいないでしょう。本屋さんは本屋さんでも老舗の本屋さん。しかも新書を扱っている。こんな書店あったら行ってみたいですよう。ウキウキしながら読みました。多絵ちゃんが名探偵みなを集めてさてと言い、なシチュエーションになるところは苦笑しましたケレドモ、本好きさんたちはただ楽しめばいいのですよね。野暮なこと言いっこなしvであります。これは推理だの事件だのよりも本屋さんを楽しむ物語なのでありまする。いいなぁ、杏子さんと多絵ちゃんコンビって。

杏子さんはたった一日で、まるう堂に惚れこんじゃったでしょう? 肝心なのは、時間ではなく、心ですよ。心

『晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)』 2006.9.29. 大崎梢 東京創元社



2006年10月24日(火) 『求愛』 柴田よしき

 弘美の親友が自殺した。でもなにかがおかしい・・・。彼女の死の真相の背後には悪徳探偵事務所の存在があった。翻訳家として生計がたっていた弘美だったが、悪徳探偵事務所を許せない思いから探偵事務所に勤める事にする。そして探偵という仕事で様々な人間の裏の顔や欲望のカタチを垣間見た弘美の掴んだ真実とは。

 うーん(困惑)。翻訳の仕事が軌道に乗りかけていたヒロインがいきなり探偵に転職。何故? もったいないと言うか。贅沢と言うか。まぁヒロインたるもの、それくらいの冒険をして当然なのかな。探偵の仕事が派手派手しい事件を扱うのではなくて、調査もの=浮気調査などの地味な仕事がほとんどだと言うことはよくわかりました。しかも調べるうちに見たくない人間の裏の顔や欲望を見てしまうというオプションつき。なんだか・・・そう滅入ってばかりで。唐突なら思いっきり唐突な方が受け入れやすいのだと思います。中途半端な感じより破天荒なフィクションを。

『求愛』 2006.9.30. 柴田よしき 徳間書店 



2006年10月23日(月) 『パパとムスメの7日間』 五十嵐貴久

 事故に巻き込まれたパパとムスメの心が入れ替わってしまった! パパは47歳サラリーマン、娘は花の女子高生17歳。会話が全くと言っていいほど無くなっていた二人は必要にかられて会話をかわし、互いの生活を垣間見てドタバタ・・・と言う御約束的展開。でもこれがトッテモとってもいいのですよ。心がほんわか温かくなります。娘の小梅ちゃんがすごくいいお嬢さんでパパは娘の恋模様にハラハラドキドキ(笑)しつつ、邪魔しつつ、応援しつつ?みたいな。
 入れ替わりモノと言うのはハードルが高いと思うのです。今やバイブルとも言える『転校生』をはじめとして名作も駄作もぞろぞろですから。北村薫さんのぶには心に痛いエンディングだったっけ・・・まぁ、あれは入れ替わりモノ変化球ですね。そう言えばつい先日の世にも奇妙な物語ではOLと部長が入れ替わってました。そんな中で五十嵐貴久さんは真っ向勝負、しかもストレート。だからこそ清々しい読後感でにっこりだったのかもしれません。オススメですv

 お互いが立場を入れ替えたら、それまで見えなかったものが見えてきたのは確か。少なくともあたしはそう。

『パパとムスメの7日間』 2006.10.30. 五十嵐貴久 朝日新聞社



2006年10月22日(日) 『水銀虫』 朱川湊人

 でろでろでろ・・・っと不気味。まずは表紙のイラストが不気味なのです。ううう。少年を虫のようなナイフが襲いまくっている。ああ、なんという恐ろしい表紙。このイラストだけで朱川さんのホラーっぷりが伝わってくるようです。そうです。ノスタルジックなほのぼの路線なんて望んじゃいけません。朱川さんのもうひとつの軸、ホラーですよ。もろホラー! 7日間のさまざまに不気味な日が淡々と語られていてうまいなぁと思いました。ウメズカズオせんせいを思わせる『しぐれの日』はちびりそうになりました。クスン。映像がダイレクトに浮かんでしまうのですものー。えーん。怖かったよぉー。「オマエ、キライダ」えーん。えーん。このテーマは永久不変でタブーでありながらもすごく魅惑的に感じてしまうのであります。これって日本的土着的なホラーだわ。うむ。ビョウビョウキの『病猫の日』も興味深かったですね。よくぞこの短さにこの物語を押し込めたものだと言うか。図書館が舞台となっているのですごくイメージが広がりましたし。なんだか・・・共感できるところがあったことが一番のホラーだったかもしれません。朱川さんはやっぱりウマイわv

確かにバカげて聞こえるかもしれませんけど、絶対にないとはいえませんわ・・・・・・人の心は、時には信じられない奇跡を起こすものですから

『水銀虫』 2006.9.30. 朱川湊人 集英社



2006年10月21日(土) 『刑事雪平夏見 アンフェアな月』 秦建日子

 無駄に美人な刑事・雪平夏見は誘拐事件の捜査に狩り出された。さらわれたのは生後三ヶ月の赤ん坊。その母親の言動は不自然。狂言誘拐を疑う雪平だったが、捜査するうちに少女の死体を6つも掘り起こしてしまう。いったい犯人の狙いとは・・・!?

 うーん・・・秦さん脚本のテレビドラマはかなり好物でありますが、この雪平の人気に便乗した小説化ってのはいかがなものやら。『推理小説』の時にも感じましたが、ページの使い方が邪道と言うか、奇を衒いすぎだと思うのです。ある程度の冒険や変化は望ましいと思いますケレドモ、あまりにもやりすぎられると引いてしまいます。そのあたりの見極めって結構大切だと思うのです。この雪平夏見ってキャラクターはテレビドラマでの篠原涼子さんがはまり役だったことがブレイクの訳ですよね。安藤君も瑛太クンがピッタリだったからこそよかったと。こうなっちゃうと鶏が先か、卵か先かになっちゃうか~。ま、要するに雪平は篠原涼子でテレビだからこそ、だと私は思ったのでありました。

 えっ? 別に本気で言ってるわけじゃない? 単なる口癖のひとつ?

 いやいや、そんなことは問題ではない。
 なぜなら、言の葉には、人を縛り操る魔力があるからだ。


『刑事雪平夏見 アンフェアな月』 2006.9.20. 秦建日子 河出書房新社



2006年10月20日(金) 『鴨川ホルモー』 万城目学

 京都三大祭のひとつ葵祭のとき、大学生になって一月が経ったばかりの安倍と高村は京大青竜会というサークルに勧誘される。ピンポイントで勧誘されたふたりはなんとなくサークルに入り、謎の戦いを強いられ(笑)、恋をし、破れ(苦笑)、妙な連帯感(友情?)を手に入れる。はてさてこのホルモーとはいったいなんぞや?

 うひゃひゃひゃひゃ。おもしろーい! これってタイトルと表紙のイラストの変さに惹かれたのですケレドモ、これが異様に面白い面白いv 京都ならではの魑魅魍魎が跋扈する謎の戦闘ホルモーなんてやってみたい、覗いてみたい。うまい展開にウキウキわくわくさせていただきました。この作家さんの言葉運びのテンポがトッテモよくってずんずか読めてしまいました。選ばれし者たちだけの妙な戦闘ホルモー。選ばれて苦労はしても残るものは幸せ感だろうなぁ。いいなぁ。やってみたいなぁ、ホルモー。

大丈夫だよ。変なことも多いけど、きっと楽しいことも多いはず

『鴨川ホルモー』 2006.4.20. 万城目学 産業編集センター



2006年10月19日(木) 『空飛ぶタイヤ』 池井戸潤

 赤松運送の社長・赤松は33歳の主婦の通夜に出ていた。赤松運送の大型トラックのタイヤが外れ、主婦を直撃、主婦死亡・・・。タイヤが外れた原因が整備不良にあるとされ、赤松は窮地に立たされる。赤松の会社の整備士はキチンと整備をしていた。赤松はトラックの製造元ホープ自動車に問題があるのではないかと考える。財閥系の企業である大手自動車会社を相手に赤松の戦いが始まった。中小企業の社長の赤松に降りかかる数々の試練。そして赤松を支える家族や会社の部下達。事故の原因はどこにあるのか?

 面白かったです。内容はシビアなので面白いと言うと語弊があるのかもしれませんが。この物語の財閥系自動車会社はアル自動車会社を彷彿とさせます。リコール隠し・・・目先の利益を追うばかりに人の死すら見ないふりをしてしまう。そんな企業に翻弄される普通に生きている人たち。命は金に替えられない。そんな当たり前のことを見失った人間たちの行き着く先とは・・・。町の中小企業の社長の赤松が本当に頑張って頑張って見事です。「赤松がんばれガンバレ」と手に汗を握って応援しつつ読み終わりました。企業小説なんてジャンルでここまで入れ込んで読めたのはハジメテのことかもしれません。オススメですv

 命の尊さを前にして、プライドもへったくれもあるものか。

『空飛ぶタイヤ』 2006.9.25. 池井戸潤 実業之日本社



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