酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
DiaryINDEXpastwill


2006年09月14日(木) 映画『X−MENファイナルディシジョン』

 テレビで2週続けて観た『X−MEN』がことのほか面白かったので最終章を映画館まで観にいって参りました。突然変異で人間が持ち得ない力を持ったミュータントたちの苦悩が心に痛々しくて。恋するミュータントは自分の力ゆえに愛する人と接触するだけで生気全てを吸い取ってしまう。愛すれば愛するほど求めるのに触れることすらカナワナイ・・・まさに蛇の生殺し状態。そんな少女の前にミュータント・パワーを消し去る特効薬“キュア”が差し出された・・・さて彼女はどうするのでしょう。また強く美しいミュータントは自分はどこも悪い訳ではないから薬など不要と言い切る。これはこれで感嘆すると言うか、なかなかそこまでにはなれない気がしました。そして死んだはずの人間が・・・だったりしたら、その人を愛して不在に嘆き狂いかねなかった人たちがまたまた大変で。うーん。もともとコミックでもそういうカタチだったらしいから。でもあのラストはあれしかないよねぇ。ここで終わりと言うのは酷なのであります。あ、映画をこれから観に行かれる方はエンドロールの最後の最後まで席を立たないようになさってください。



2006年09月12日(火) 新装版『氷の森』 大沢在昌

 緒方は行方不明の少女を探す調査において、次々と関係者が死んでいくと言う妙な事件に巻き込まれる。その事件の真相を探りつつ、ある男から事故死した恋人の過去を調べて欲しいと言う依頼を受ける。ふたつの事件を調べていくうちにトンデモナイ怪物を炙り出してしまう。しかも無関係だったはずの事件がクロスしたのだった・・・!?

 10年間も売れない時代が続いた大沢親分が『新宿鮫』でブレイクする直前の物語です。親分ご自身は売れなかった10年間の集大成とおっしゃっていて、確かに大沢親分の原点を読む気がしました。しかしながら、『新宿鮫』シリーズや『佐久間公』シリーズのようなスタイリッシュさはありませんねぇ。どろ臭くて爆発寸前のマグマがぐつぐつ煮詰まっているような暑苦しさ(笑)。でもそこが大沢親分の持ち味の根っ子なのかもしれないなぁと思いました。残念なことは物語でモンスターがナマで登場しないこと。これはもったいなかったですね。どこかで登場させてその異常性を見せて欲しかった。その方が臨場感高まった気がするのですケレドモどうでしょう。とは言っても、どんなに暑苦しく泥臭くても面白い事に変わりはアリマセン。あ、ただ、主人公が女にフラフラしすぎ! あれは駄目。よろめいても一人にしときまひょ。

『氷の森』 2006.8.11. 大沢在昌 講談社文庫



2006年09月11日(月) 『ぼくだけの☆アイドル』 新堂冬樹

 生白い肌でぽっこりお腹のあきおくんは27歳。昆虫ショップで働きながら、ダイスキなみーちゅんに純愛を注いでいる。みーちゅんはアイドルだ。だけど僕が会いに行くと僕にだけわかるサインを送ってくれるんだ・・・

 ・・・なんと申し上げてよいのやら(苦笑)。あきおくんはアイドルに真剣ラブ。まぁ幾つであろうとそれは自由なのかもしれない。でもご都合主義な脳内妄想は危なすぎると思うのですケレドモ・・・。リアルでない存在にそこまで思い入れを持てないので読んでいてあきおくんの必死さがすごく異質でありました。こういうのは引いてしまいます・・・。

『ぼくだけの☆アイドル』 2006.8.25. 新堂冬樹 光文社



2006年09月10日(日) 『光降る精霊の森』 藤原瑞記

 故郷から逃げて森番をしているエリは、行き倒れの少女を助ける。その少女、普通の人間には透けて見える・・・どうやら半妖精らしい。少女・ファティの側にいる喋る黒猫ゼッテは毒舌でエリを翻弄する。ゼッテに翻弄されまくり、何故だか鷹の女王を訪ねる旅に同行する羽目になるエリ。そしてエリは逃げてきた過去と対峙することとなる・・・

 ああ、いいですーv ファンタジーはこうでなきゃぁ! 不思議なキャラクター(登場人物とは言えない)たちがいっぱい。放浪癖のある鷹の女王がお気に入りです。いい味だしてるー。その女王の僕で苦労させられてるワートワーズも素敵。少女ファティの旅とエリの旅が連れてくる真実と結末。美しいことばかりじゃない真実を受け入れられた時に中途半端だったエリが最高にイイ男になっちゃいます。うふ。第1回C★NOVELS大賞受賞作と言うことで読んでみました。秋の入り口にファンタジーって合うみたいです。

ファティ、心細いのはわかるがお前がしっかり目を開けていないと、見つかるものも見逃してしまうぞ。ゼッテの方はあたしが手を貸せるが、エリを見つけるのはお前の役目だ。まだ、何か悪いことが起きたと決まったわけじゃない。落ち込むのは、結果を見てからでも遅くはないだろう

『光降る精霊の森』 2005.7.25. 藤原瑞記 中央公論社



2006年09月09日(土) 『なぜ紫の夜明けに』 吉村達也

 17歳の時に僕は自殺しようとして生き長らえた。その時に記憶の一部が消えてしまい、必死に新しい人生を生きてきた。あれから10年、いい会社で働き、美しい恋人と結婚間近な僕は至福の中にいたはずだ。なのに僕は謎の美女マリアの後を付回し、事件に巻き込まれ・・・そして10年前に失った記憶が蠢き始める・・・!?

 吉村達也さんの物語は読みやすいのでつるりと読めてしまいます。でも今回の物語はホラーなのか恋愛ものなのかサスペンスなのか・・・最後の最後まで落とし所の見当がつきませんでした。こう落としましたか。うーん(不満)。僕が選んだケジメの付けかたは私は認められない。それはないだろう、と思いました。結局どこまでいっても自分に甘いんじゃないかしらん。昔の彼女、婚約者、謎の美女と3人の女に愛されるほどの魅力を感じなかったのも残念なのでありました。こういう男にそこまで入れ込める3人の美女の感性がわからなーい。

 もしもそうだとしたら、自分が過去にやったことの報いが、いまになって痛烈な形で返ってきているとしか言いようがなかった。

『なぜ紫の夜明けに』 2006.8.25. 吉村達也 双葉社



2006年09月08日(金) 『ビア・ボーイ』 吉村喜彦

 スターライト(ビールやウイスキー会社)に入社して5年、上杉は宣伝部にいた。スターライトは宣伝に莫大な金を注ぎこむ戦略を取っていたため、上杉は好き勝手に仕事をし、そこそこに評価され、若くして天狗になっていた。酒に呑まれて手を出してはいけない女に手をだして、いきなり田舎へ左遷され、営業をやらされることとなってしまう。田舎町で灰汁の強い人間たちに揉まれながら、またまた酒で失敗をしながら、少しずつ営業力を身に付けて行く。腐敗した会社の内部にもメスを入れ、ビール戦争にも勝とうと奮闘する上杉は、いっぱしの営業マンに成長したのだった・・・。

 これはもう本当に大穴大当たりで無茶苦茶面白かったです。作者がサントリーの宣伝部にいた方なのでトッテモリ・ア・ルv ライバル会社のライオン(笑)との攻防戦は実際にそうだったのだろうなぁと思わされました。松田聖子さんの歌声でペンギンちゃんが登場したCMらしきことも描かれていて、ああこんなふうにアノCMは生まれたのかって新鮮に驚きました。あと田舎町イコール広島なのですケレドモ、ここの人々がまぁくどくて最高のキャラ揃い。主人公は人に育てられていっぱしの営業マンに成長できたって感じでした。会社の腐敗をも炙りだす爽快さ。一冊にいろんなものが詰まっていて、だからって重くなくって、喉越しさらりと後で苦い物語。秀逸。オススメ。大絶賛!

 酒はドラッグや。一種の麻薬なんや。
 最初は陽気にやってきて、ちょっとした心の隙にするっと入り込む。それから身も心もどんどん絡め取っていく。
 でも酒は悪ない。飲んでる本人が悪いんや。そこに酒があると、つい飲んでしまうのは人間や。
 身体の疲れには甘いもの、心の疲れにはアルコールが効く。大人になると、誰しも心が疲れる。たましいが疲れる。アルコールは大切な薬になってくれる。それも確かなことや。
 要は加減の問題や。プラスとマイナス。その加減をとるのが、人間は下手くそなんや。


『ビア・ボーイ』 2006.7.20. 吉村喜彦 新潮社



2006年09月07日(木) 『行方不明者』 折原一

 埼玉県蓮田市で摩訶不思議な神隠しが起こった。一家四人がある朝忽然と姿を消したのだ。五十嵐みどりは取材を通して一家の姿を浮き彫りにさせようとする。また都内では売れない小説家の「僕」が痴漢に間違えられ、その相手が連続通り魔犯と知り、小説のネタに犯人を追いかける。ふたつの事件が交互に語られて・・・

 うーん、さすがの折原マジック! またもやしっかりやられてしまいました。相変わらず幻惑されてしまうなぁ。折原さんの手口(笑)は語りと時差だとわかっているのに・・・それでも読んでいるうちに折原迷宮に迷い込み、そうなるともうお手上げです。あれよ、あれよと騙されてしまうのでありました。まぁ、そこが魅了vなのですケレドモ。ちょっとしたホラー落ちもグーv 

 君は二つの顔を持っているんだね。

『行方不明者』 2006.8.5. 折原一 文藝春秋



2006年09月06日(水) 『赤い指』 東野圭吾

 松宮脩平は、恩がある伯父を見舞っていた。容態の良くない伯父を見舞う事をしない息子の加賀恭に不信感を抱く。しかし、伯父は脩平の仕事を気遣い、自分は看護士相手に将棋をしているからだいじょうぶと強がる。父とも慕う伯父の後を追い、刑事になった脩平は新しい事件で恭さんと組むことになる。恭さんもまた刑事で有能だった。ふたりが関わった事件は幼い少女殺人事件だった。事件の背後にある哀しい真実、そして死に行く伯父と恭さんの真実とは・・・!?

 やられました。完敗です。いやはや東野圭吾に敵無しっ! 今回の物語ですごいと思ったのは主要人物のそれぞれの家族模様でした。これが巧妙に織り込まれていて、最後の最後まで柄が見えなかったです。タイトルの意味の奥深さには唸りました。幼い少女を殺した犯人を庇おうとする愚かな親心。でもそれって結局は子供のためと言うよりは自分のためなのではないかなぁと感じました。そして子供の人格を形成する要素に家庭が両親が家族が大きく大きく影響する事は間違いないですね。なんとも痛ましい物語でありましたが、ラストの厳しさ美しさには救われた心持がしました。なんにしても東野圭吾はスゴイ。やはり賞を取るべくして取った作家さんですよね。惚れ惚れ。

どういうふうに死を迎えるかは、どう生きてきたかによって決まる。あの人がそういう死に方をするとしたら、それはすべてあの人の生き様がそうだったから、としかいえない

『赤い指』 2006.7.25. 東野圭吾 講談社



2006年09月05日(火) 『ありふれた風景画』 あさのあつこ

 高遠琉璃は高校2年生。3歳年上の姉・綺羅はモデル並みの美女で自分磨きに余念が無い。でも琉璃は爪の手入れをするだけ。琉璃は過去に付き合った男たちからウリをやっていると噂される。真実ではない噂を信じる周囲から孤立する琉璃。ある日、琉璃に彼氏を取られたと勘違いした上級生に呼び出された屋上で、綾目周子と言う神秘的な美少女に救われる。烏と意思疎通ができる不思議な周子に琉璃は惹かれ、そして・・・

 『バッテリー』では少年と少年の心の触れ合いを描いたあさのあつこさんが、今回は少女と少女の心の触れ合いを描かれました。・・・心の触れ合いと言っていいのかどうか疑問ではあるケレドモ。登場人物のほとんどが女性で、一番興味深かったのは、琉璃と綺羅と言う美少女姉妹の母親です。父親が他の女の元へ走っているため、壊れかけていて過食症になり、娘に執着しているのですね。なんだか痛い母親で、美しい姉の綺羅の苦悩がわかる気がしました。琉璃は、まだ子供だったから姉や母の苦悩には無頓着で目の前の自分の悩みにしか目がいかなかったことに気づく。そのことに関する姉と妹の会話がトテモ良かったです。琉璃と周子の関係よりも綺羅と琉璃の関係の方が好きかもしれないなぁ。

太りすぎに決まってんじゃん。そんなに、ぶくぶくになったら、心臓も腰もどうにかなっちゃうの当たり前でしょ。一日中ぶつぶつ言ってるヒマがあるんだったら、もうちょっとしっかり考えて、ダイエットでもしなさいよ

『ありふれた風景画』 2006.8.10. あさのあつこ 文藝春秋



2006年09月04日(月) 『駐在刑事』 笹本稜平

 この女は犯人ではないのではないか・・・そう思いながら取り調べていた女が目の前で服毒自殺した。上層部の意向に従っただけだったのに、警視庁捜査一課から青梅警察署水根駐在所所長へ左遷されてしまった江波淳史。自然と人々との触れ合いの中で江波は再生していく・・・

 素晴らしいv アクションだけの冒険小説ではなく、自然と融合した警察小説でありました。生き馬の目を射抜くような警視庁捜査一課から、自然に恵まれた駐在所に左遷された男が、後悔や出世欲と葛藤しながら、人として警察官として美しく逞しく生き直す姿が本当に素敵でした。爽やかだったなぁ。主人公が山歩きをする姿が羨ましくって。こういう生活に憧れますねぇ。人が人として美しく生きていけそうなきがするもの。シリーズ化希望。

『駐在刑事』 2006.7.27. 笹本稜平 講談社 



酔子へろり |酔陽亭酔客BAR
enpitu