酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2006年07月31日(月) |
『少年陰陽師』短篇集1・2 結城光流 |
希代の陰陽師・安倍晴明の孫の昌浩は晴明に後継者と指名されている少年。その生まれ持った才と生まれ持った心根の暖かさゆえ人に愛され人に疎まれる。悩み、傷つき、その時々の困難に立ち向かう半人前陰陽師の成長物語・・・の番外編短編集を2冊読みました。昌浩を取り巻く様々な人間模様に妖怪模様(笑)に小さな恋の物語を垣間見る事が出来ました。昌浩と物の怪もっくんとのファースト・コンタクト(本当はもっくんはずっと昌浩を隠形して見守っていたのだケレドモ)のシーンは笑えます。昌浩の前にぽとりと降ってきた物の怪もっくん。猫か犬かという可愛い外見のクセして落ちた痛みを八つ当たりするように「見せもんじゃねぇぞ」と言うあたり、物の怪もっくんのキュートさ大爆裂! そして本編ではチラチラ登場する昌浩の優しい兄ふたり、成親と昌親が大活躍。同じ安倍晴明の孫でありながら、末の弟が秘めた才ゆえに後継者と名指されたことに僻むでなく己の分をわきまえ、己の才を伸ばす賢く優しいお兄ちゃんズ。昌浩は幸せものだなぁと思います。過酷な宿命に翻弄されても愛してくれる肉親や物の怪や(笑)友や恋人が愛して支えてくれているから。彰子と昌浩の小さな恋の物語も少しずつ少しずつ育っていくもので胸キュンに微笑ましいのであります。彰子は大貴族の姫君だと言うのにソノ宿命ゆえに貧乏陰陽師の家に半永久的に隠れることとなったのに、順応性抜群で賢く愛らしく美しい。昌浩ってばほんに果報者。どうしても物の怪もっくんにばかり目が行きがちな晴明の十二神たちも12神それぞれの個性や神格があり興味深い。登場人物が多いだけに番外短編集で語っていただけるとことのほか嬉しいのであります。こういう物語は読んでるうちに気分は知り合いですからね。そして短編の章タイトルごとに愛らしい物の怪もっくんの姿のイラストがあって無茶苦茶嬉しいです。結城さんは猫か小さな犬と表現されていますが、私のイメージでは兎の方が近いです。ちょいっとクールでスタイリッシュな兎。かわいいよー。
「だからお前なぁ、俺をただの動物扱いするのはやめんか」 「え、だって襟巻き扱いすると怒るじゃんか」 「怒らいでかっ!」 「気難しい物の怪だなぁ」 「物の怪言うなぁっ、晴明の孫っ!」 「孫言うなっ、物の怪の分際で!」
『少年陰陽師 うつつの夢に鎮めの歌を』 結城光流 角川ビーンズ文庫 『少年陰陽師 其はなよ竹の姫のごとく』 結城光流 角川ビーンズ文庫
2006年07月30日(日) |
『少年陰陽師 風音編』 結城光流 |
「なんたってお前は、半人前でいまいち頼りなくてまだまだ修行中だけど、一応多分きっと立派になるであろう、端くれだけど陰陽師」・・・と、まぁ(笑)いつものことながら昌浩は物の怪もっくんに慰められているようでおちょくられていた。昌浩は三つ年上の陰陽生・敏次にネチネチいじめられていた。深夜に暗躍する昌浩の事情も知らず、爺様の七光りで上層部に可愛がられているとしか見えない昌浩を妬んでいるらしい。昌浩は以前は優しくしてもらっていただけに傷ついているのだった。昌浩の加冠役(後見人)が出世頭の藤原行成であることも妬みを増幅させていた。その行成が怨霊に襲われ、瀕死となる。その背後にいたのは・・・!?(「禍つ鎖を解き放て」) 貴船の竜神が遊びに来たため深夜に相手をする物の怪もっくん。以前、窮奇に貴船を乗っ取られていた竜神は、封印を解いてくれた昌浩を気に入ったらしい。しかし、遊びに来て眠っている昌浩に完全憑依するため、物の怪もっくんは昌浩の身体が心配で仕方ない。近々またなにか起こりそうだという不穏な言葉を残して去って行く竜神。そしてその予言どおり都に百鬼夜行が近づいてきて、またもや深夜の暗躍に励む昌浩は切々とした悲しい声を耳にする・・・(「六花に抱かれ眠れ」) 晴明に怨みを持つらしい謎の女術師・風音は、背後に蠢く者のために黄泉に冥穴をいくつも穿っていた。皇子が生まれたため、寂しい想いを必死で我慢する幼い皇女・脩子の心を利用し、現世に瘴穴を穿つ呪法を使っているのだ。人の心を操る風音は、昌浩にとって一番信用する存在を使い卑劣な攻撃をしかけてきた・・・(「黄泉に誘う風を追え」) 物の怪もっくんの本性・紅蓮(騰蛇)の魂は、縛魂の術にからめとられてしまった。十二神将の中で最強の通力を有する騰蛇が異形に変貌すればかつてないほど恐ろしくおぞましい化け物となってしまう。かつてその力ゆえに晴明の命を危険に晒し、他の十二神将から遠巻きにされていた騰蛇。失いたくない存在を抹殺すべきか否かを迫られ、昌浩が下した決断とは・・・!?(焔の刃を研ぎ澄ませ」)
窮奇編のラスト(「鏡の檻をつき破れ」)で大泣きに泣かされた昌浩と物の怪もっくんと彰子たちの物語。今回は、晴明を怨みに想う謎の術師しかも超美女・風音が登場し、物の怪もっくんこと騰蛇以外の十二神将たちも続々と登場します。そして哀しみと後悔を背負った騰蛇はまたもや過ちを犯してしまい・・・と言うハラハラドキドキしかもメソメソな展開。希代の陰陽師・安倍晴明が後継者と指名した孫・昌浩は、少年ながら半人前ながら愛と勇気と美しい心で周りのもの全てを巻き込んで困難に立ち向かう凛々しさを持っています。昌浩が苦しめば苦しむほどに彼の心も力も研ぎ澄まされて行く・・・。今回、昌浩がなによりも信頼する存在・物の怪もっくんとの別れを目の前にして彼が下した決断の凄まじさは晴明を貴船の竜神をもすら驚かせてしまうほどのものでした。いやぁ、前回とは違う涙・涙にくれました。なんと言う素晴らしい物語なのでしょう。私はもうメロメロに腑抜けにされております。超オススメv
「もっくん人間と違うだろう! 一応仮にも名前だけかもしれないけど多分神様なんだから、人間ごときに遅れをとるなよなぁ!」 「その『一応仮にも名前だけかもしれないけど多分』というのに『陰陽師』とつなげてそっくりそのままお前に返す!」 「なにおぅっ!」 「文句があるか、晴明の孫っ!」 「孫言うな、物の怪の分際でっ!」 「俺は物の怪じゃなーいっ!」
『少年陰陽師 禍つ鎖を解き放て』 結城光流 角川ビーンズ文庫 『少年陰陽師 六花に抱かれて眠れ』 結城光流 角川ビーンズ文庫 『少年陰陽師 黄泉に誘う風を追え』 結城光流 角川ビーンズ文庫 『少年陰陽師 焔の刃を研ぎ澄ませ』 結城光流 角川ビーンズ文庫
2006年07月29日(土) |
『ミカエルの騎士4 緑玉杯の騎士』 前田栄 |
どんよりとした曇り空の下、途方にくれている神父がやってきた。アーサーは英国国教会信者で神父はカトリック。同じキリスト教の聖職者でも、宗派が違えば相容れない。しかし、そこは心優しい猫っかぶり(笑)のアーサーのこと、フィリップ・マルゴー神父に宿をかす。科学の話に花が咲き、意気投合をする二人だったが、実はフィリップは密命を帯びてアーサーのもとへやって来たのだった・・・!?
キリスト教に詳しくないのでありますが(大学がミッション系だったと言うのに)宗教による争いが現代でも後を絶たないことを見ると、根深いものがあるようです。「緑玉杯の騎士」では、キリスト教の聖地バチカンから密命を帯びてフィリポ(十二使徒のひとり)が登場します。ミカエルの騎士はバチカンの最高機密だった訳ですね。なのでアーサーは盟主としてバチカンから狙われる事と相成りました〜。「黄玉の盾」ではウリエルの騎士アンデレが登場。傷ついて歪みながら美しい魂を持った不思議な男。アンデレの歪ながら美しい魂は大事な友・シヒルを裏切りった後悔が創り上げていた・・・。「水面に映る白き花影」はアンデレとシヒルの物語。物語には枝葉があって、それをキチンと語っていただけるところに好感を持っています。ひとつの物語に登場する人物だけの枝になる物語がある。それを語ることが出来ずにいる物語のなんと多いことか。ミカエルの騎士シリーズは、主だった登場人物の枝の物語をメインに変えて描いてくれる形式を取っていて、そのことがますます物語りのイメージを大きく膨らます事が可能でした。その上、挿絵もものすごくイメージを刺激するので読んでいて楽しかったですね。さて、物語がついに大きく動き始めました。アーサーは天然ボケで自分がミカエルの騎士の特殊な力を持っていることに全く気付かずに生きています。モチロンそれは妹の器を借りた天使と悪友のカタチでまとわりつく悪魔のおかげなのでありまして。ついに悪魔と天使の渋々ながらの紳士協定にも関わらずアーサーの運命に変動が・・・。アーサーが、マーティンが、メアリが・・・人間と悪魔と天使が創り上げた世界はどうなっていくのかっ!? 待て、次号っ!(笑)
『ミカエルの騎士4 緑玉杯の騎士』 1998.9.10. 前田栄 新書館
2006年07月28日(金) |
『ミカエルの騎士3 琥珀の夢』 前田栄 |
村はずれの幽霊屋敷を買い取った男を招待すべく、アーサーは園遊会を開くことになる。新しくやって来た金持ちの隣人に村人たちは興味深々で猫っかぶりのアーサーは妹・メアリや御婦人方の言うがままなすがまま(笑)。招待するために幽霊屋敷に赴いたアーサーとメアリだったが、主人のディクスターはメアリに好奇の目を向ける始末。器はアーサーの妹だが、中身は美しい魂蒐集が趣味の大天使であるメアリはディクスターのおぞましい魂を嫌悪する。メアリを手に入れたいディクスターはアーサーから陥落しようとトンデモナイ手段に出て・・・!?
この「琥珀の夢」では、メアリが人間の器に四苦八苦している様を読み取る事ができます。この物語では天使は身勝手な存在と言う解釈。好奇心は旺盛だが人間に対して興味はなく、変わり者エンジェルであるメアリにしても欲しいものは美しい魂のカタチであり、人間には興味がない!・・・ハズだったのだが。ウフフ。「呪われた藍玉の薔薇」では琥珀事件で体調を崩したアーサーがラベル侯爵に招かれて療養に赴いた先でのできごと。美しい未亡人と出会ったアーサーは呪われた薔薇の伝説に触れる。マーティンは暗躍しつつ、美しく薔薇を咲かせてみせましょうと言うエリックと契約をする。「あのひと」のために美しい薔薇を咲かせたくて・・・。「クリスマス・キャロル」は大掃除にミサにイベントに大騒動でマジ切れ寸前のアーサーが捨て子を見つけてしまい、ますます大騒動に。その赤ちゃんの正体とは・・・!? ミカエルの騎士シリーズはアーサーが主役だと思っていたのですが、すっかりわがままなサブキャラとなり果てていて(笑)悪魔のマーティンと天使のメアリが主役争いをしている感じになっちゃいました。本気で信じたことを具現化し、信仰ゆえ天使さえ呼び出す事ができる力を持つミカエルの騎士であるアーサー。その存在がやっかいゆえに付き纏う悪魔・マーティンと、その存在を守り、いつかは美しい魂を手に入れんとしている天使・メアリ。この悪魔と天使の攻防戦が物語の軸となっていてます。悪魔も天使も人間そのものには興味がないはずなのに・・・というくだりが最大のテーマなのかしら。
『ミカエルの騎士3 琥珀の夢』 1998.1.10. 前田栄 新書館
2006年07月27日(木) |
『ミカエルの騎士2 精霊王の月長石』 前田栄 |
アーサーが溺愛する妹・メアリが出戻ってきた。彼女の夫・ジョージが従事牧師としてインドへ旅立ってしまったのだ。アーサーへの手紙には、メアリを託す旨と一つの依頼が記されていた。ジョージの友人が、一族の中で唯一の黒髪であるという事でケルト民話にある妖精の取替えっ子ではないかと疑われているらしい。アーサーのエクソシストとしての風評を逆利用して友人を苦境から救って欲しいとあった。愛する妹・メアリのため渋々立ち上がるアーサーだったが、実はメアリは・・・!?
これまたトッテモ面白かったですねぇ。信じたことを具現化する力を持つミカエルの騎士・アーサー(※ただし、本人の自覚なし)は、超常現象など信じないららら科学の子。まずはこの矛盾した存在のアーサーが面白いのです。美しくて優しくて悪友マーティン以外には猫かぶりで(笑)魂の美しい存在。そのあまりにも美しい魂ゆえに悪魔も天使もアーサーから離れられない。超常現象を全く信じないアーサーの側にぴったんこと悪魔と天使がはべって取り合ってる構図がいとおかし。うまい設定だなぁと思います。と、言うことで悪魔のマーティンに対抗する天使の登場。チェンジリング(妖精の取替えっ子現象)は実際にありそうな気がするのですけどネェ。 「戦女神の星紅玉」では、メアリの夫・ジョージがあっさり殺されてしまいます。一応たてまえとして錯乱してみせるメアリでありますが、その実これでまたアーサーの側にはべれるとにんまり(笑)。そしてジョージが残したモノがまたまたアーサーを波乱に巻き込んでしまいます。 「聖母の毒薬」では、アーサーの美しい母が友人に妬まれ、おなかの子供に危険が迫る物語、アーサーの少年時代です。母の友人の女性はアーサーの母の幸福を妬むあまり、妊娠中の彼女に危害を加えようとします。それを敏感に感じ取った近所の子供達はソノ恐ろしい女を魔女と呼び始めます。アーサーは魔女など存在しない!と友達の子供達に高らかに言い放ち、その瞬間の光が悪魔・マーティンを呼び寄せ、母のおなかの子供は・・・。 ミカエルの騎士シリーズのメインキャラクターの3人の出会いと関わりが描かれた一冊でした。マーティンについてはこの一冊でおおまかに掴めます。メアリはもう少し先に詳しく語られます。ミカエルの騎士の血をひく不思議な力を持ったアーサーと彼を守る天使と悪魔。天使も悪魔もそれぞれに思惑がありながら、アーサーに純粋に惹かれ、依存していく流れが見てとれました。主役のアーサーよりも脇キャラのマーティンとメアリの存在感がものすごく強くて魅力的ですv
『ミカエルの騎士2 精霊王の月長石』 1997.8.10. 前田栄 新書館
2006年07月26日(水) |
『ミカエルの騎士1 ヴィーナスの血星石』 前田栄 |
大英帝国の片田舎にある小さな教会を守る美貌の牧師アーサー・ロイド。実はアーサーはららら科学の子。田舎牧師なら暇だから研究三昧で生活できるぞと言う父親の唆しに乗せられて牧師になったのだった。対するアーサーの悪友のマーティン・マクドナルドは医者でありながら神学マニア・・・と称して週末になるとアーサーをからかいに(?)やってくる。そんなアーサーからエクソシストの依頼が舞い込んだ。娘がヴァンパイアに狙われていると言う大英帝国屈指の貴族・ラベル子爵のために、この科学の時代に吸血鬼など存在するものか!と言う信念のアーサーは・・・!?
美貌の牧師・アーサーは、本人に自覚はないもののミカエルの騎士なのであります。ミカエルの騎士は本気で信じていることを具現化してしまう化け物じみた奇跡を起こす存在。なのでアーサーがヴァンパイアなど存在しない!と言い切ってしまえば、その存在は消滅してしまうという訳なのであります。外面ばっかりよくってマーティンには本音で愚痴や文句ばかりのアーサー。面倒なアーサーの側にぺっとりひっついているマーティンは訳ありの存在・・・うふふ。 サイド・ストーリーの「青玉の犠牲神」では、アーサーに撃退されてしまったヴァンパイア・レメーニの物語。こちらの方がゴシック・ホラーとしては秀逸。ヴァンパイアの悲哀がしっかりと描かれておりました。潔いほどにアーサーもマーティンも登場しません。こういう構成は物語に深みを与えてトテモ面白いと思います。一冊に収録されたいくつかのエピソードが呼応しあって理解が深まりました。使い捨てのキャラクターではないところに好感が持てますねv
『ミカエルの騎士1 ヴィーナスの血星石』 1997.4.10. 前田栄 新書館
2006年07月25日(火) |
『世紀末大バザール 六月の雪』 日向旦 第15回鮎川哲也賞佳作 |
1999年5月の終わりに28歳の本多巧は東京を逃げ出して大阪にやってきた。世界の滅亡と言う史上最高のイベントまでは生き延びようと、お好み焼き中毒になりかけている巧は妙な二人組みと知り合う。ちょっとした謎解きをしてあげてちゃっかり職を斡旋してもらいたがる巧は、なにが出来るのかと問われ「探偵だ」と答えてしまった。その答えを聞いた男は、家出少年の捜索を依頼。アジトは泉州地方南部、関西空港の近くにある半非合法なショッピングモールだった。さまざまな不思議人間たちと美少女風オカマと少年を探し始め・・・!?
これは面白かったです。語り口の妙が素晴らしい。登場人物のアヤシサもすごいのです。ひとりの探偵(?)が来たことで、とんとんとんからりんっと大小さまざまな事件が発生し続けて、タイトル通りの在庫一掃大バザールが始まります。それがどういうふうに一掃されるか、さぁお立会いっ!って感じでした。うまいなぁ。 なんでも鮎川哲也賞の審査でかなーり揉めに揉めたそうです(大笑)。何故ならば、これが果たして本格や否や、と言うところがネックとなったらしいです。アハハハハv なるほどねぇ。うふふ。おかしいっ。まぁ本格か否やナンテ問題はそういうのが好きな方々にお任せするとして(苦笑)、面白ければなんでもありありな私にはただひたすらに面白かったので読めてトッテモ嬉しかったです。内容の中には切ないこと痛いこともサラリと盛り込まれていましたケレドモ、逞しく生きる人間達の賢さ強かさには脱帽しました。こういうタイプの物語は好きだなぁ。読んでいてニッコリしてしまう。私的には超オススメv
でも源さんはもういらないと言った。 「物を集めるとそれに執着してしまう。物はなくなるけど、人間はなくならない」 ぼくはぽかんと口を開けた。何を言いたいんだろう。 「人間がなくならないのは心があるからだ」
『世紀末大バザール 六月の雪』 2006.6.30. 日向旦 東京創元社
2006年07月24日(月) |
『花よりもなほ』 是枝裕和 |
元禄十五年、仇討ちに賞金が出た時代。仇討ちまでの期間にも奨励金のようなものが支払われる妙な時代。侍はいても戦いの無くなった時代。宗左衛門は父の仇討ちのために江戸に出てくる。この宗左衛門、実は滅法弱くて逃げ足だけは何故か早い。ひょんな仇討ち三文芝居を見た宗左衛門は、芝居を演じた人々の住む深川の長屋に移り住む。美しい未亡人に心惹かれ、妙な長屋の住人達にたかられながら宗左衛門は仇討ちの意義を考え始める。そして父の敵を見つけた宗左衛門は。おせっかいな長屋の人々は・・・!?
俳優としてめきめきと色気を貯えつつあるアイドル岡田准一くん主演の時代劇。監督はアノ(『誰も知らない』)是枝監督で共演の美しき未亡人に宮沢りえちゃん。岡田くんがどんなへっぽこ侍を演じるのか観たいと思いつつ観そびれてしまいました(残念)。そこで監督自らノベライズ化された小説版『花よりもなほ』を読んでみましたら、これが素晴らしい出来で人情モノにほろほろほろりでありました。巻末に配役も記されていたので配役を確認しつつ読み進めてみたならば、観ていないのに映像が頭に浮かぶのです。それくらいに文章が映像してました。これはまたすごいことだなぁとノックアウトされましたv 仇討ちに賞金が出ると言う今では考えられない仕組みを頭を使って小賢しく悪用するタフな貧乏長屋の住民達。ただ仇討ちをしなければならないと思い込んでいた宗左衛門が彼らと生活を共にするうちに何が一番大切なのかを知るのです。滅びの美学もいいケレドモ、こういう底辺で蠢く小賢しく立ち回る逞しさもまた美しいものだなぁと思います。キィパーソンとなる長屋の貞四郎を古田新太さんが演られているようで、これは絶妙な演技だろうなぁと。ああ、映画を観たい観たい観たいですーっ!!!
「嘘を抱えて毎日暮らすってのはなかなか大変だが、それはそれで人間を大人にするよ。艶っていうのはそういうとっから出てくるんだよ。馬鹿正直ってのは面白みに欠けていけねえや。長屋のはきだめ連中みてみろ。嘘なんておつなもん抱えて生きてるやつなんかひとりもいやしねえ。野暮もいいところだ。この、色男。風呂上りっ」
『花よりもなほ』 2006.6.3. 是枝裕和 角川書店
2006年07月23日(日) |
『少年陰陽師 窮奇編』 結城光流 |
希代の陰陽師・安倍晴明の孫の昌浩は13歳。晴明と神将の本性を隠し持つ物の怪もっくんは昌浩の眠れる才能を見抜いていた。半人前の昌浩がナントカかんとか修行に励み、打倒!安倍晴明の精神で日夜頑張っている。そして内裏で事件が起こり、藤原道長の姫・彰子と出会う。彰子は見鬼の力を持つ少女だった・・・。(『異邦の影を探しだせ)』 力を持つ彰子を贄にしてパワーを得ようとする異邦の妖怪・窮奇の影響が彰子の幼馴染・圭子にまで及んでしまう。貴船神社で丑の刻参りをする圭子。まだまだ半人前ながら彰子の願いを聞き入れて圭子を助けようとする昌浩ともっくん。そんなふたり(?)を冷ややかに見守る安倍晴明の配下にある十二神将のひとり清龍。清龍はもっくんの本性である紅蓮(騰蛇)を晴明が死にかけたある事件から許せずにいた・・・。(『闇の呪縛を打ち砕け』) 彰子は自分の願いのせいで傷ついた昌浩を想い、周囲の異変を訴えられずにいた。そんな彰子に会いに来た昌浩は、貴船で見た蛍の美しさを語り、次の夏に一緒に見に行こうと約束をする。心がよりそう二人。しかし、彰子に入内の話が舞い込み、動揺した彰子は彰子を付け狙う窮奇につけこまれてしまう・・・。妖しに囚われた彰子を昌浩は助け出す事が出来るのか。ふたりのささやかな約束は叶うのか・・・!?(『鏡の檻をつき破れ』
マイブームでライトノベルを読んでいます。その中で見つけた作家さんが前田栄さんと結城光流さんのおふたりであります。ライトノベルとあなどるなかれ。このおふたりは本当に力をお持ちだなぁと読んでいて感心してしまいます。そしてライトノベルの魅力は表紙や中身に登場するイラストですねv 文章以前に視力に訴えかけるイラストに魅力を感じないとまず手に取る事はありえません。そこにいくとこのおふたりの物語にマッチしたイラストは激しく魅力的なのであります。 少年陰陽師は安倍晴明の孫の成長物語のようです。昌浩を影に日向に見守り助ける物の怪もっくんと爺様の安倍晴明がすごーく素敵。また昌浩ってばおちょくり甲斐があって(大笑)可愛くて〜めろめろ。こういう切り口で陰陽師を物語に創り上げている結城光流さんの才能を大絶賛なのであります。オススメv
こそりと、緊張した硬い声が昌浩の耳に届いた。 「ぬかるなよ、晴明の孫」 ぶちっ。 頭のどこかで何かが切れた音がする。反射的に昌浩は怒鳴り返した。 「孫、言うなっ!」
『少年陰陽師 異邦の影を探しだせ』 結城光流 角川ビーンズ文庫 『少年陰陽師 闇の呪縛を打ち砕け』 結城光流 角川ビーンズ文庫 『少年陰陽師 鏡の檻をつき破れ』 結城光流 角川ビーンズ文庫
2006年07月22日(土) |
『海のふた』 よしもとばなな |
西伊豆に戻って大好きなカキ氷屋を開いた私は、母の親友の娘はじめちゃんと一夏を過ごす。心に傷を負ったはじめちゃんはさらさらと過ぎて行く時間と自然と共に少しずつ少しずつ再生して行く。それを見守る私は・・・
よしもとばななと言う作家さんは恐ろしい人だなぁと思います。人間の本当の姿が見えているのではないかしら。彼女はトテモ美しく生きているのだろうと感じます。こういう人に出会えたら関われたらどんなに心豊かに生きれるだろう。文章を通してのヒーリング。彼女はそういう作家さんなんだなぁ。
人が人と出会うとき、ほんとうは顔なんか見ていないのだと思う。その人の芯のところを見ているのだ。雰囲気や、声や、匂いや・・・・・・そういう全部を集めたものを感じとっているのだと思う。はじめちゃんの芯のところは、全くぶれていなかった。たいていの人が何かしらあいまいなところを印象の中に持っているのに、はじめちゃんはただただすっとまっすぐで、少しかげりがあって、とても強い感じがした。
『海のふた』 2006.6.25. よしもとばなな 中公文庫
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