酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2006年07月21日(金) |
『ひとがた流し』 北村薫 |
アナウンサーの千波、作家の牧子、カメラマンの妻の美々、40代の三人の女性達の人生の関わりあい。独身のままきてしまった千波、離婚した牧子、再婚して幸せな美々。三人三様の人生があり、その時々に見つめ、支え、守りあってきた。家族同士も交流があり、遠くて近い大きな親戚のような人たちの中、千波に病魔が忍び寄り・・・
なんという美しい物語なのでしょう。北村薫ここにあり、と心で喝采でありました。人が生きて行く時に離れていても信じてくれる、見守っていてくれる、そういう存在がどんなに心強いことか。入り込みすぎず、かと言って離れすぎず、絶妙なバランスを取りながら関わりあって生きて行く。そのカタチの美しさに潔さに心が洗い流されるような思いをいただきました。こういう美しい人生を送りたいものです。心の美しさが人としての心根が人生を左右する。美しく生きたい。
人が生きていく時、力になるのは何かっていうと、 −《自分が生きていることを、切実に願う誰かが、いるかどうか》だと思うんだ。 −人間は風船みたいで、誰かのそういう願いが、やっと自分を地上に繋ぎ止めてくれる。
『ひとがた流し』 2006.7.30. 北村薫 朝日新聞社
2006年07月20日(木) |
『女ともだち』 真梨幸子 |
楢本野江は署名入りのライターになりたくて、強烈なトリガーを見つけ出す。それは、あるマンションで発生した2件の殺人事件。ひとりの被害者は性器がえぐられ、子宮を盗まれていた。なんの関わりもないように見えた女たちが交錯、そこにあった真相とは・・・!?
うーん、内容は面白いのに、文章がばらついていてさくさく読み進めることができませんでした。ラストを読んで視点のブレ(文章のばらつきの原因)の意味がやっとわかったのですケレドモ、なんとかもっとシュッと1本軸がぶっとく通っていればものすごーくものすごーくよかっただろうに。内容も展開も落ちも面白いだけに無念なのでありました。描き方次第でますます残酷にホラーにもっていけただろうになぁ。
「人間って難しいですよね。自分では唯一無二の人だと思っても、実はそうじゃないことのほうが多いのかもしれませんね。なんか、ちょっと悲しいですね」
『女ともだち』 2006.6.22. 真梨幸子 講談社
2006年07月19日(水) |
『時の“風”に吹かれて』 梶尾真治 |
梶尾真治さんの短篇集。SFだったり、ホラーだったり、不思議だったり、と幾つかはまた舞台化されるのではないかと言うくらい良い粒揃いでありました。この中で私が気に入ったものは『時の“風”に吹かれて』と『ミカ』でした。『時の“風”に吹かれて』はタイムマシンで過去や未来に飛んで時の風に追いつかれる前にやりたいことをやろうとするもの。私も過去に飛びたいケレドモ、たぶん時の風に追いつかれて消滅しちゃうんだろうなぁ。『ミカ』は化け猫もの。犬だとほのぼのものが多いと言うのに猫だと妖しい物語になってしまう。猫ウォッチングしていると猫の神秘に魅入られてしまうから、猫って絶対に妖しい! だからこそ魅力。
「どこへ消えたんだ」 「わからない。だが、過去へ飛んだ存在を時は追ってくる。それが時の“風”だ。因果を修正するために。時の“風”にとらえられると、そのときその時点であるべき姿に変えられる。たとえば四十年後に飛んで、時の“風”に追いつかれたら、よぼよぼの爺さんの姿になってしまうだろうな。その間の生活記憶は存在しないから、若い頃の記憶しかない老人というわけだ」
『時の“風”に吹かれて』 2006.6.25. 梶尾真治 光文社
2006年07月18日(火) |
『少女七竈と七人の可愛そうな大人』 桜庭一樹 |
25歳の川村優奈は《辻斬りのように男遊びをしたいな》と思った。ある朝とつぜんに。そして衝動の赴くままにふしだらになった。旭川という北のひんやりとした小さな街で。ほんの一月の間に七人の男と寝た川村優奈は娘を産み落とす。恐ろしいまでの美貌を持った娘・七竈を。地方都市であまりの美しさを持った七竈は呪われた存在となり、孤高を貫き生きている。そして七竈は・・・
桜庭一樹さんは注目している作家さんなのですが、この物語で桜庭さんの根底に流れるものを読めた気がします。個人的な感想で言えば、乙一くんの流れを汲む人なのではないかしら、と思いました。ものすごく不思議なトーンなのです。不気味で異形でじっとりしていて切なくて。もしかしたら恩田陸の系譜とも言えるかもしれないなぁ。キチンと人間を描いてらっしゃるし。美しすぎる人間は小さな町では呪われた悪目立ちする異形の存在となってしまう、それって仕方の無いことなのでしょう。だから七竈の選んだ道は、おそらく正解。その選んだ道での七竈のことも知りたいですね。雑踏の中に紛れてしまうのか、綺羅星の中ですら輝きを放ってしまうのか。そういうのってホント運命の人って感じがします。望むと望まざるとに関わらず生まれ持った宿命、宿業・・・さらりと描かれていて奥がトッテモ深かったです。脱帽。
ああ、大人になってしまうと、女は男をばかだと思うようになるのだろうか。いまの、少年を神のようにおそれる気持ちは、失われてゆくのだろうか。たがいを、あなどる。男と、女。ああ、それはちょっとばかりさみしいことであるなとわたしは考えた。
『少女七竈と七人の可愛そうな大人』 2006.6.30. 桜庭一樹 角川書店
2006年07月17日(月) |
『押入れのちよ』 荻原浩 |
荻原浩さんのホラー短篇集です。ちょっと切なかったり、あまりにも悪意が心に痛かったり、怖いはずなのにほのぼのしたり。するするっと読めるので寝苦しい夜に一編ずつ読んで寝るがいいかもしれません。私が一番気に入ったのは「コール」で、恐ろしいと感じたのは「介護の鬼」でした。「コール」はかつてドリカム編成だった男ふたりと女ひとりの男一人が死んじゃって墓場で再会。そこに亡くなった男の意識を感じて・・・と言う流れ。なんだかありそうでね、ほのぼのしみじみ泣いてしまいました。こういうのあっていいよね。亡くなった人だって遺した人のこと気にしてるよね、きっときっと・・・。対して「介護の鬼」はもうドロドロであります。寝たきりとなった舅を介護のふりして苛め抜く鬼嫁。鬼嫁は鬼嫁になる前に舅と姑に苛められ、怨みがあったので介護という名を借りて嬉々として復讐していると・・・・・・ラストがそらまぁ怖いデス(涙)。人間同士って言うのは仲良くウマク愛しあい尊重しあう方が難しい生き物なのですね。なにやら暗澹たる思いが残りました。あとネコが妖しに変化したらしき物語「老猫」も面白かったです。マイブームが近所の猫ウォッチングなので猫をテーマにしてる物語にはトテモ興味があって面白く読めましたv 読後感は悪臭が漂っていやんxなものであったとしても(苦笑)。なかなか優れもののホラー短篇集にございました。
この木が桜であることを、なぜ知ったかを二人とも口にはしない。納骨の日は四月初め、桜が満開の頃だったのだ。桜は無慈悲なぐらい美しかった。人の都合に関係なく、時期が来れば咲き、時期が終れば散る。人間の生き死にと同じだ。
『押入れのちよ』 2006.5.20. 荻原浩 新潮社
2006年07月16日(日) |
『春夏冬館にようこそ 散花の記憶』 前田栄 |
小柄なことがコンプレックスな高校生の倭タケルは何故だか例の喫茶館でアルバイトをしている。両親を必死で説得してまでのアルバイト。なぜなんだろう。まぁ、マガタマちゃんはネコ耳コスプレを除けば超美少女で性格はいいし、賄いは美味しいし・・・しかし、オーナーの美青年・祈常(きじょう)は変な奴だし、爺には嫌われている。いったいなにがどうしてここでアルバイトなんだろう。操られるかのように春夏冬館でアルバイトをするタケルの前にまたまた美少女が現れる!
タケルの魂は神仙武将なのですケレドモ、普段は意識になく、神仙武将が意識に表れてきた時の記憶は失ってしまうので祈常にどうして魅入られているのやら全く訳がわからないのであります。祈常(きじょう)は《キツネ》、妖狐。タケルの魂の神仙武将は祈常を見張る役目にありながら、ひょんな成り行きから一緒に闘ったりする羽目に。爺は若様がとっとと立派に変化して欲しいのに道楽に走る若様に頭を抱えているのですね。だからタケルが目障り。マガタマちゃんは祈常に助けられて飼い主との再会を待ちわびるキュートな化け猫ちゃん。この4人の前に種類の違う美少女登場なので楽しくて仕方アリマセン〜。めろめろ。この喫茶館に行って美味しいものを味わいながら妙な体験をしたいものなのです。
『同じ内容でも言葉を変えれば、聞く方の気持ちは変わる。・・・・・・たぶん、君は「同じことだ」と言い捨てるんだろうが、時として、それはとても大事なことだ』
『春夏冬館にようこそ 散花の記憶』 2005.12.1. 前田栄 角川ビーンズ文庫
2006年07月15日(土) |
『春夏冬(あきない)喫茶館(カフェ)にようこそ』 前田栄 |
倭タケルはちょっと小柄な高校生。濃霧に迷い、レトロな喫茶館に辿り着く。お小遣いを考えると高いかも・・・と二の足を踏むタケルをメイドコスプレ超美少女しかもネコ耳尻尾つき!?に引きずり込まれる。そこはゴシックな店内でパオが似合いそうな爺さまと、これまた異様に美しい青年がいた。美味しそうな食べ物&飲物を御馳走になってしまうタケルの代償は? 風変わりな人々とタケルの正体は・・・!?
タイトル惹かれ久々の大ビンゴ!です。倭タケルと言う本人に自覚はないものの謎の正体を持つ少年と、美青年・美少女・古めかしい爺や・・・そして不思議な館とくれば舞台はバッチリv 内容もすっごく面白かったですし、なにより言葉のテンポと会話のセンスが絶妙。これはオススメだなぁ。4人の正体や抱えているものがトッテモいいです。このままシリーズ化としてどんどこ読みたい物語です。アニメ化もいいかもv
人は心に陰と陽を持つ矛盾した生き物。仙の視点から見下ろせば塵芥とも見える彼等なのに、光り輝く刹那を永遠に繰り返す、不思議な生き物。
『春夏冬喫茶館にようこそ』 2004.5.1. 前田栄 角川ビーンズ文庫
2006年07月14日(金) |
『うそうそ』 畠中恵 |
病弱な若旦那が湯治にオデカケ。でもトラブルを呼び寄せる若旦那のこと、行く先々で事件発生。いろんな妖かしもわんさわんさとやって来て、若旦那の病状はかえって・・・!?(笑)
アハハ。病弱で両親からも兄やたちからも異様に過保護にされている若旦那がナント湯治に遠出!? いやぁ、そうか。この手があったのか〜。でも若旦那以外のみんなと同じく「だいじょうぶか?若旦那・・・」な不安はヤッパリ的中で若旦那はいつだって大変でいつだって病弱(大笑)! 兄やたちは相変わらず過保護まっしぐらでてんやわんや。可愛らしいキャラクターも続々と登場して安心して読めるほのぼの病弱若旦那シリーズなのでありました。笑える。けど、元気になって、若旦那! タイトルの《うそうそ》とは、《たずねまわるさま。きょろきょろ。うろうろ。》だそうで嘘嘘の意と思い込んでいたので少し知識が増量いたしましたv
「黙れ! 言い訳がありゃあ、何をしてもいいっていうのかい」 『うそうそ』 2006.5.30. 畠中恵 新潮社
2006年07月13日(木) |
DVD『NIGHT HEAD THE TRIAL -審判-』 ※ネタバレあります! |
直人と直也は雑踏で残留思念に遭遇する。その男は、いつか直人と直也がこの場所を通ると知っていて待ち続けていたのだ。彼の痕跡を辿り、女子校に入り込んだ直也は悪意が澱んでいることに苦しむ。直也のアンテナの先にあったプールで5人の少女の水死体が上がり、たった一人生き残った少女がいた。彼女の名前は天元早紀枝。彼女は自分の感情を人々に感染させる力を持っていた。その能力ゆえ、幼い頃から忌み嫌われ、己の感情を押し殺して生きてきた早紀枝に直人と直也は同情を禁じえなかった。そして早紀枝の力を狙うアーク・コーポレーションと全面戦争となる・・・!?
深夜ドラマ枠のラストでアーク・コーポレーションと言う謎の超能力集団の存在が示されて終りました。そのアーク・コーポレーションが研究していたのが《NIGHT HEAD》計画、使用されていない脳の眠った部分を揺り起こそうと言うもの。そして予知能力者・奥原晶子は争いの果てに世界の頂点に立とうとしていた・・・のを直人と直也が打ち破っちゃうのですね(笑)。それが劇場版なのでありました。 美しいイケメン兄弟のくせしてグズグズいじいじした直人と直也は(笑)、互いが互いのためになら悪魔にもなれる!と気付き、またしても強くなり、またしてもボーイズラブまっしぐら(大笑)v この物語が異様に受けたのってなにより豊川さんと武田くんの危ない禁断の愛をそこに見てしまうからだったように思います。それほどに恋人構図びったりなおふたりなのでありました。また武田くんが怯えちゃって豊川さんにしがみ付きまくるのですものー。きゃー。 驚いたことはプロローグの男性が松尾スズキさんだったことと早紀枝の妹の超美少女が奥菜恵さんだったこと。松尾さんは今の風貌とは違うのでエンドロールで「えっ!?」っと本気で驚いてしまいました。超美少女の奥菜恵さんは登場してスグわかりましたが、あまりにも美しくて恐ろしいほどでした。あの悪魔的な美貌は罪だ。美しすぎるって怖いことなのね・・・。 10数年と言う時を経て、アニメ化されたNIGHT HEAD。この劇場版を最後に映像化はされていません。さすがに豊川さんと武田さんで続編はもう不可能でしょう。ああ、残念すぎます。妖しく美しい異形の兄弟をまた観たいもの。アニメもいいかもしれないけれど、私は映像で観たい。彼らが行き着く岬を観たい。
2006年07月12日(水) |
DVD『NIGHT HEAD』vol.5 |
21 THE ARK −方舟− 直人と直也は双海翔子の兄・芳紀から助けを求めるメッセージを受け取る。芳紀はアーク・コーポレーションでナイト・ヘッドに関する研究を進めていたが、疑問を感じてパラドックスを起こしてしまう。直人と直也の吸収に失敗したアーク・コーポレーションは二人を排除しようとする。危険を察知した翔子が直人たちを違う時空に運び、直人は敵を倒す。翔子はもう人間の形を保てないと二人に別れを告げ、芳紀もまた電脳世界に入り込んでしまう・・・「ミサキデマツ」と言う謎の言葉を残して。
THE OTHER SIDE 無関係な男女が殺し合うという事件を追う刑事が、新興宗教の能力開発セミナーに辿り着く。百目鬼法一と言う会の主催者はかつて御厨と共に超能力を研究していた男だった。自分は大丈夫だと思っていた刑事だったが、だんだんと洗脳されていき・・・
私がNIGHT HEADを見たのはリアルタイム放映時よりずっと後のことで特別編集されたものでした。欲しい欲しいと思いながらも高額で手が出なかったビデオは破格の売れ行きだったそうです。今回、久しぶりに、しかも全てを通して観ることが出来てなんだか積年の胸のつっかえが取れたような気がしています。通して全てを観ると流れがよく見える・・・。出来れば世にも奇妙な物語の常識酒場とトラブルカフェも入れて欲しかった。 THE ARKはテレビ版のラストでありながら、大きな謎を積み残しました。直人と直也に迫り来るアークコーポレーションのナイトヘッド計画。それが後に映画化されましたし、そのまた後はノベライズにもなりました。なので直人と直也の物語はなんとなく行き先が見えているような気がします。また直人が姿を変えて『アナン』という素晴らしい小説になったとも思っています(勝手に)v THE OTHER SIDEでは、世にも奇妙な物語の常識酒場とトラブルカフェで直人役を演じた今井雅之さんが刑事役で登場されています。洗脳されていく狂気をトテモうまく鬼気迫る感じで演じられています。舞台を観ているような感じでしたね。 御厨と岬老人に守られていた研究所を飛び出したふたりの超能力者・直人と直也。ふたりの彷徨い進むロードムービーは心になにかを残します。彼らの悩みも迷いも苦しみも人間だからこそ。普通でいたいのに普通でいられない彼らの姿は神々しいまでに美しいのでありました。
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