酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2006年05月20日(土) 『町長選挙』 奥田英朗

 やりたい放題で言いたい放題、日本一有名(有害?)なオーナーナベツネさんをモデルにしたナベマンVSイラブン。一躍時代の寵児となったインターネット長者ホリエモンをモデルにしたアンポンマンVSイラブン。40歳過ぎとは思えない美貌とスタイルを誇る女優・黒木瞳をモデルにした白木カオルVSイラブン・・・面白かった。あまりにも馬鹿馬鹿しい戦いが妙に笑いを誘ってくれました。トンデモ精神科医イラブンの幼児性が今回も大暴走! 4篇めの『町長選挙』はどこをモデルにしたのか思い当たらなかったのですケレドモ、小さな町(島)ならありそうな騒動で、その騒動へ騒動の目みたいなイラブンが飛び込むのですから無茶苦茶間違いなしで(大笑)。読んでいて面白いなぁと素直に楽しめるってスゴイv でもこれってイラブンが架空の人物だから笑えるのであって、こんな人が実在したら、それこそ有害で大変だと思います。少なくとも私は関わりたくない。看護婦のマユミちゃんには会ってみたいけど。ウフフ。

「何もしないで若いままの人って、たまにいるんだよね」
 いるか、そんなやつ。みんな裏じゃ必死こいてんだよー。

『町長選挙』 2006.4.15. 奥田英朗 文藝春秋



2006年05月19日(金) 「ジェリーフィッシュ」 明野照葉(『澪つくしより』)

「ジェリーフィッシュ」
 多加雄は色っぽいイイ女の瑛子を伴って仲間達とディンギーに乗りに来た。ディンギーを置かせて貰っている元漁師の家は腰越と言う屋号で呼ばれている。その家には《くらげ》がいる。海にいるくらげではない。人間のくらげ。多加雄はくらげを見た時の瑛子の反応が楽しみだったが、瑛子はごく普通だった。くらげの異形に驚かない瑛子を多加雄は抱こうとする。くらげがそっと見ているのを承知の上で・・・

 くらげの名前は哲一と言い、海難事故で異形のものとなってしまう。その哲っちゃんを多加雄たちは人として見なしていない。それどころか軽んじている。瑛子はその魂の高潔さで優しさで哲っちゃんと接する。そのことに哲ちゃんは喜びもし絶望もしたことだろうなぁ。多加雄たち馬鹿者どもの愚かさよりも哲ちゃんの稀人ならではの魂の寂しさが心に迫り来ました。哲っちゃんは瑛子に出会ったからこそ、出会えたからこそ・・・せつないことです。

「馬鹿じゃないの。哲ちゃんは、言いたいこと、伝えたいことが山ほどあっても、それが表現できなくなっていた。それが哲ちゃんの一番のつらさだったんじゃないの」

『澪つくし』 2006.5.10. 明野照葉 文藝春秋



2006年05月18日(木) 『SOKKI! −人生には役に立たない特技ー』 秦建日子

 1本のカセットテープから記憶が蘇る。198×年、ぼくは早稲田大学でひとりの少女と知り合った。彼女に惹かれ、彼女に誘われ速記研究会に入ってしまった。彼女に恋をし、役に立たない速記に熱中し、彼女を巡る恋のライバルであり心の交流をする男との出会い。それはぼくの青春の時だった・・・

 不思議なものですね。本当にただ普通の青年の普通のありきたりな青春の日々が秦さんの手にかかるとユーモラスで切なくなってしまう。まるで魔法のようだなぁと思いつつ、主人公達の青春の日々に参加した気分です。私の友人の男のたちは慶応と早稲田に進学した奴らが多いので、こんなふうな時間を過ごしたのかしらナンテ想像しながら読みました。ああ、しょぱくてナンテほろ苦い。懐かしくて恥ずかしくて心の片隅にそっと仕舞っている青春プレイバックでありました。

「自分のことをね、ちゃんと認められるのって、格好いい」

『SOKKI! −人生には役に立たない特技ー』 2006.4.6. 秦建日子 講談社



2006年05月17日(水) 「かっぱタクシー」 明野照葉(『澪つくし』より)

「かっぱタクシー」
 68歳の市橋は個人タクシーをころがしている。市橋の名前は征太郎だが車体に河童の絵を描いていることから河童の河太郎→タロさんと呼ばれるようになっていた。今夜も市橋は一人の老女を乗せ、彼女の一人語りに耳を貸す。彼女の話す昔懐かしい、そして背筋の凍る河童の物語・・・

 この短編をハジメテ読んだ時の戦慄を覚えています。明野照葉さんの描く懐かしく恐ろしい世界が好きで、その極めつけでしたから。特にこの主人公が個人タクシーに乗せる女性がトンデモナイ怖さを感じさせるのです。こういうごくごく普通に主婦をやってきた人の心の奥底にこんなにも暗くて深い闇があるとは・・・。その闇を生ませたのは男。なんだか男と女って奴は・・・と何度読んでも途方にくれてしまうのです。この女性の怨念を理解できる、それは私が女だからなのでしょう。それは死ぬまで続く性と言うべきものですね。悲しいことだわ。

 だけど本当のところ参っていたのはからだではなく、心のほうだったんです。

『澪つくし』 2006.5.10. 明野照葉 文藝春秋



2006年05月16日(火) DVD『ハイド・アンド・シーク 暗闇のかくれんぼ』

 9歳のエミリーの最愛の母が浴室で死んでいた。血まみれのバスタブを見てしまうエミリー。父親で心理学者のデビッドはエミリーの心を癒そうと街を離れ、静かな湖畔の別荘地へ移転する。エミリーのために同年代の少女を家に招くデビッドだったが、エミリーは拒絶。自分の殻に閉じこもり、デビッドには見えない友達チャーリーと遊ぶようになっていく。ある夜、浴室に赤いクレヨンでデビッドを告発する文字が書かれる。エミリーは自分ではなくチャーリーが書いたと泣きじゃくるのだが、その文字はエミリーの文字だった・・・

★ ★ 感想に思い切りネタバレを書きますので
           観ていない方はご注意ください! ★ ★


 主演がロバート・デ・ニーロと言うだけで物語の筋と展開が読めてしまいました。それは勿論デ・ニーロお得意の《豹変》ですね。優しく聡明な父親が狂気に転じる・・・その父の変化に恐怖しつつも愛する娘。その流れが読めていても素晴らしい出来でしたv 物語のハジマリの母親の自殺の真相、それが父親の狂気を引き起こしてしまう。母親が火遊びをしなかったらこんなことにならずに済んだのかもしれないケレドモそれでは物語がハジマラナイ(笑)。DVDではふたつのエンディングを観ることができました。父親の狂気から逃げ出した娘エミリーのふたつのエンディング。ひとつは劇場公開されたもの。ひとつはボツになったのかな。どちらも観てみましたが、劇場公開されたぶにの方が個人的には好み。あの不気味な絵を最後に持ってくるところがウマイ。公開されなかったもうひとつのエンディングはエミリーの可愛い部屋が実は精神病棟だと言うオチ。これはわかりにくい気がする。どちらも救いがなかったケレドモ、救いがないなら閉塞的な閉じ込め終わりより放たれた恐怖の方が素敵。エミリーその後を観て見たい! デ・ニーロはあいかわらず素晴らしいけれど、ずいぶんと抑え気味の演技で子役のダコダちゃんをうまく引き立てていました。面白かった。



2006年05月15日(月) 『Op.ローズダスト(上)』 福井晴敏

 ハムの脂身・並河(公安四課の余計物)は、テロ現場で七五三のような風情の男・丹原朋希と出会う。朋希は防衛庁非公開組織ダイス所属、今回のテロリストのリーダー入江一功とダイスで親友同士だった。朋希と一功がダイス時代に愛した少女がアル工作で死んでしまい、袂を分かっていた。ふたりの愛憎とも言うべき因縁と一功たちテロリストの仕掛けているテロ「スターダスト」に巻き込まれてしまう並河と並河の家族。朋希は一功を阻止できるのか・・・?

 いやはや、ものすごい重厚なエンターテインメントです。どうにも登れない福井晴敏さんの上下巻モノに無謀にもレッツチャレンジ! なんと今回はキッチリ上巻を登りきれましたっ(満足)。これで何故だか今まで読むに進めなかった福井さんモノにも登れそうです(にっこり)v 私の頭と心がやっとついていけるようになったと言う感じなのでしょうねぇ。しみじみ(嬉)
 さて『Op.ローズダスト』はトテツモナイ物語であります。最初の過去と現在の入り乱れと登場人物を一生懸命頭で整理をしながら読みました。今回なんとかかんとかついていけたのは公安のはみだしモノ並河さんの存在ゆえですね。なんだか素敵な人なんですよ。過去に失敗も後悔もありつつ、今を自分を生きている。妻と娘を愛し、愛されている。そこで出会う朋希が並河ファミリーに癒されて人間らしさを取り戻すあたりホロリとしちゃう。王道なのですケレドモ(笑)。そして朋希と一功の因縁の確執にドキマギ。ふたりはどうなるんだろうなぁ。
 福井さんモノを登れなかった原因のひとつにテロへの無知(私の知識としての)があると思います。テロについて知ろうとも考えようともしてこなかった。今回のコノ物語でかなりテロについて国について考えますね。今のままじゃ駄目だよニッポン侍魂を取り戻せナンテ思っちゃいました。娯楽でありながら考えさせられる力を持つってスゴイことだ。さぁ今から下巻に突入です。どうなってしまうのかなぁ。朋希は、一功は、並河は・・・。

「おまえがどんな過去を抱えているのかは知らん。だがなにがあったとしても、同情する気はないし、おれがされるつもりもない。誰にだって、辛い過去のひとつや二つはある。中には後悔なんて生やさしいもんじゃ済まない、一生苦しまなきゃなんない過去を抱えている奴だっているだろう。忘れちまえばいいとか。時が癒してくれるとか、そんなおためごかしはなんの役にも立ちゃしない。救われようってのが、どだい虫のよすぎる話だ。
 だから背負っていくしかない。それがどんなものでも、背負って生きるのが人生だとおれは思う。もし赦される時があるとしたら、潰されないで歩ききった時だけだ。それは過去の中身がどうこうって話じゃない。そいつの足腰が強いか弱いかっていう、いまこの瞬間の話なんだ」

『Op.ローズダスト(上)』 2006.3.15. 福井晴敏 文藝春秋



2006年05月14日(日) 『裏京都ミステリー ぶぶ漬け伝説の謎』 北森鴻

 京都の名刹(?)大悲閣千光寺の寺男・有馬次郎は破天荒な新聞記者・折原けいとスチャラカ元(笑)作家のムンちゃんに振り回されて、今回もまたまた妙な事件たちに首を突っ込んで行く。

 おもしろーい! 北森鴻さんのコノ路線も侮れないなぁ。パロディやナンセンスやギャグ満載。あ、けい&ムンちゃんの漫才も満載!(大笑) あのふたりトンデモナイなぁ。かつて裏社会にいたアルマジロくんならではの裏探偵っぷりが爽快でした。京都ならではの謎解き(解釈)の妙は素晴らしいですね。でも白味噌の妙はご勘弁を・・・。

『裏京都ミステリー ぶぶ漬け伝説の謎』 2006.4.25. 北森鴻 光文社



2006年05月13日(土) DVD『ショーシャンクの空に』

 アンディは銀行副頭取だったが、妻と妻の愛人殺しの濡れ衣で投獄される。独特の空気をまとうアンディに刑務所の顔で調達屋レッドは興味を抱く。人と馴染む事を拒んでいたアンディだったが、レッドに或る物を調達依頼して少しずつレッドとレッドの仲間達と打ち解けて行く。アンディたちを取り締まる看守や所長の金の管理をはじめたアンディは刑務所でどんどん親しまれて行く。図書室を作り、若い囚人に勉強を教える。アンディはレッドに希望の大切さを訴える。しかし、アンディに濡れ衣を被せた真犯人の存在を知り、所長に直訴した時、所長は自分の利益を守るために殺人を犯し、アンディを刑務所に縛り付ける。希望を断たれたアンディは・・・

 本と映画、このふたつが人生で大切な私の娯楽。映画は今より以前のほうが本当によく観ていました。今、今までの人生で心を打った作品をせっせと集めていて、この『ショーシャンクの空に』も迷わず購入しました。大好きな映画の中でもトップクラスにランクインするほどに愛してやまない作品です。
 物語の原作は、スティーブン・キングの「刑務所のリタ・ヘイワース」でアンディがレッドにプレゼントされ監獄に貼る最初のポスターです。原作のラストと映画のラストは違っていて、映画のラストの美しさに軍配をあげますね。涙がとめどなく頬を伝います。何度観ても胸がいっぱいになって・・・。
 この映画でティム・ロビンスと言う優れた俳優さんを知り、ファンになりました。童顔の大男のティム・ロビンスは魅力あふるる演技で私を魅了し続けてくださいます。飽きることがない俳優さんですね。日本での露出が少ないから飽きないのかもしれないです。ジャン・レノも大好きなのですケレドモちょっと露出が多すぎて・・・うーんと思ってしまうので。
 この映画を観たことがない方には是非にレンタルに走っていただきたい。特に高校生くらいの瑞々しい感性の方には必ず見て欲しいですね。希望を捨てないで生きる難しさと尊さを映像で学ぶ事ができます。何度も何度も繰り返し観て希望を失わないことを確認したい最高の映画です。超オススメ。



2006年05月12日(金) 『幸せのかたち』 松村比呂美

 紗江子は友人の香織と共同経営のリサイクルショップのことで衝突し、気まずい喧嘩別れをしていた。新しい仕事を探さなければ・・・と思う紗江子に声をかけてきた昔の同級生の美幸だった。美幸は転校を繰り返す地味でおとなしい少女だったのだが、今は堂々とした女っぷり。強引に美幸のマンションに誘われ、モデルルームのような整然とした部屋に通されて妙なものを見てしまう。それは紗江子そっくりの女性が浮かんで見えるクリスタルだった。偶然の再会と自分の顔が閉じ込められたようなクリスタル、そして紗江子はソノ日から・・・!?

 待ちに待った松村比呂美さんの新作しかも長編です! 前作の『女たちの殺意』は優れた短編集で女ゴコロの複雑さを堪能できましたケレドモ、今回は長編となり、またまたしっかりと女ゴコロの捩れや複雑さを楽しませていただけましたv トッテモ面白かったので思わず二度読みをして『女たちの殺意』も読み返したくらいです。物語には作者自身が投影されているものと思うのですが、比呂美さんの鋭い観察眼やオシャレな生活の断片を拝見できて興味深かったです。つくづく物語りに惚れると言うことはイコール作者に惚れると言うことなのだなぁと思います。ものすごく好きな作家さんって本当に素敵な方ばかり。まさしく文は人なり、ですね。だからどうしたって合わない文章の作家さんとはきっと現実でも駄目だろうなぁ。松村比呂美さんとはいつかどこかでお目にかかれたらいいなぁと思う魅力的な作家さんのおひとりです。しかし・・・物語を紡ぎ出す才能はやっぱり特別な人に与えられた文章の神様からの贈物なんだなぁ。うーん、憧れます。素敵だv 私の幸せのかたちってどんなカタチだろうなぁ。

 かたちの見えるものにとらわれて、もう少しで、今の幸せを見失うところだった。

『幸せのかたち』 2006.5.20. 松村比呂美 双葉文庫



2006年05月11日(木) 『ノアの徴』 新井政彦

 健人(けんと)は小学4年生の時、レンゲ畑で見た同級生・直子の太股とソノ奥に衝撃を受ける。早熟な直子の誘いで健人は太股と下着の下まで見てしまい・・・なにかが壊れた。直子は転校し、健人はイケテルもて男になり大人になって心理学者となった。全くタイプでもない年上の×1大学教授(心理学者)と結婚をし、自分の内なるモンスターと向き合い、猟奇殺人を繰り返して行く。イケメンで素敵な男の仮面をつけたままで・・・

 うー、面白かった。このテの物語を面白いナンテ言うと危ないと思われてしまうのかしら。でもこういう外面と内面が乖離したモンスターの言動って興味あるのですよね。ものすごーく! 健人の異常な性癖と行動は周到に計算されていて、まさか完全犯罪か!?・・・なんてそうはいかないもので。まぁこのエンディングは個人的にはツマラナイと言うか、もったいないと言うか。もっと残酷なもっと非道なエンディングが望ましかったのだがなぁ。悶々。

 モンスターは誰の心のなかにもいる。
 この言葉は真実だが、同時に虚偽でもある。なぜなら、モンスターは人それぞれ違った姿をしているからだ。

『ノアの徴』 2006.3.25. 新井政彦 光文社



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