酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2005年12月03日(土) 『グイン・サーガ』1〜5+外伝1 栗本薫

 パロ王国の真珠と呼ばれる双子の姉弟リンダとレスムは、魑魅魍魎が跋扈する森に忽然と現れた。ふたりはゴーラ軍に襲われ、<ある機械>でワープして逃げてきたのだ。幼い絶体絶命のふたりを救ったのは豹の頭を持つグインと言う男だった。その三人に要領よく絡んでくる傭兵イシュトヴァーンとリンダを恩人と崇めるセム族(猿人)のスニ。運命に導かれた5人の戦いの日々・・・

 えーっと、こんな説明ではアノ壮大で遅遅として進まない物語を全く説明できていないとわかっておりますが・・・だって物語が進まないんだもん(笑)。
 思い立って今まで手にすることなく来てしまったシリーズものにチャレンジをしてみようと思い、挑戦したのがグイン・サーガでありました。栗本薫さんは伊集院大介シリーズが好きで、読んでいるつもりでいましたが、グイン未読をして読んだとは言えないことだけはしっかとわかりました。あれこれ言われてしまう作家さんの代表選手の栗本薫さんではありますが、やはりすごいと思います。あの頭の中っていったいどうなっているのだろう。これが20数年前から始まった、なんてスケールが大きいことに驚かされます。正直なところ追いかける先が長すぎて、途中で断念もありえるのですが、今のところは読み進める気満々でおります。はてさてグインの正体がわかるのは果たしていつの日か。

グイン・サーガ1『豹頭の仮面』
グイン・サーガ2『荒野の戦士』
グイン・サーガ3『ノスフェラスの戦い』
グイン・サーガ4『ラゴンの虜囚』
グイン・サーガ5『辺境の王者』
 やっと妙な戦いが終りました。異形のものは嫌いではないケレドモ、今回の導入は本当にキツカッタ。5巻まではシリーズ第1部で辺境篇というらしいです。救いは、真珠たちの天敵となったゴーラ軍の美少女戦士アムネリスの存在でした。生意気で根性の悪く美しいアムネリスは、魅力的v このテのシリーズものに欠かせない悪役キャラですよね〜。
グイン・サーガ外伝1『七人の魔道師』
 グイン初心者の私には、いきなりパラレル・ワールドに連れて行かれてとまどってしまった。グインはケイロニア王国の悩める王となっております。あと、本筋の物語が進むうちに、気になる素敵な魔道師が登場するのですが、この中の人物とリンクしているのかしら?(謎)



2005年12月02日(金) 『悪魔の種子』 内田康夫

 浅見光彦は、浅見家住み込みの御手伝いさん・須美子から、彼女の故郷で発生した殺人事件について相談を受けた。それを調べていると、新しい事件に遭遇し、光彦特有の事件へのアンテナが働く。不思議な扮装で踊る秋田の西馬音内盆踊りから遺伝子組み替えによる花粉症緩和米まで様々な日本の姿を浮き彫りにさせ・・・

 いつも書いていることなのですが、‘軽井沢のせんせ’こと内田康夫さんは私にとっては小説界の久米宏さんなのです。知らなかったことをわかりやすい言葉で教えてくださるんですねv 最近では、日本各地の盆踊りの形態を知ることが出来て嬉しい限り。いつかはそれを見に周りたいくらいです。そして今回知らなかったブットビネタは花粉症緩和米の存在でした。遺伝子組み替えについての賛否両論はなんとなく知っている気がしますケレドモ、その中に花粉症緩和米なんてシロモノは生まれていたとは全く存じ上げませんでした。うーん、進化しているのだなぁ。人類は。大きなビジネスとなりうる存在の背景では必ず大きな力が動いている。それって人間の利益に対する本能なのでしょうけど・・・殺しまで発生してしまうこともまた裏にある事実と言う気がします。怖いなぁ。

『悪魔の種子』 2005.11.20. 内田康夫 幻冬舎



2005年12月01日(木) 『新撰組捕物帖 源さんの事件簿』 秋山香乃

 新撰組の副長助勤の井上源三郎は35歳。故郷・日野の剣術道場試衛館の仲間たちと将軍家を守っていた。江戸の町はお祭り騒ぎで毎日ちょっとした事件に事欠かない。人のいい源三郎は、事件に関わっては土方歳三に怒られている・・・

 花火のようにパッと華やかにはじけて散ったかのような新撰組。彼らのことはNHKの大河ドラマで知った気分になっています。不思議なもので、多少の解釈の違いはあれども、登場人物たちの横顔はなんとなしに定められているようです。中でも地味だケレドモ、心優しく面倒見の良い源さんはヤッパリ小説の中でも面倒見がよくトッテモ優しかったです(笑)。彼らがあの時代になにを思い、なにを目指して生きたのか、本当のところは彼らにしかわからない・・・彼らにすらわからなくなっていたのかもしれませんねぇ。そんな流れの中で源さんが身近に起こる事件を源さんらしく解決していく物語でした。ほのぼのと心に温かな良い物語にございましたよ。源さんの淡い恋模様が素敵だったv

「なんもえらいことあらしまへんえ。人は誰だって生きていかなあかん思うたら、なんとかしていくもんどす」

『新撰組捕物帖 源さんの事件簿』 2005.10.30. 秋山香乃 河出書房新社



2005年11月30日(水) 『結婚なんてしたくない』 黒田研二

 佐古翔35歳はプレイ・ボーイ(って古いか。笑)。毎夜ナンパに励み、ひとりの女を愛することなどない。藤江克実29歳はアニメ・オタク。アニメのキャラクターを愛する現実恋愛経験皆無。蒲生要33歳はイケメンでモテル好青年、だがゲイであることを隠して生きている。真鍋聡士42歳は焼き鳥屋を繁盛させていて、身の回りはオフクロさん任せ。相馬浩文27歳は、恋愛はすれども結婚に踏み切る気持ちがない。そんな5人の男たちが、奇妙な縁と事件に巻き込まれ、結婚について考えるのだが・・・

 面白かったですv 5人の男たちがそれぞれ今そこにいそうな人たちで、結婚に踏み切らない気持ちがよくわかります。特に現代って男も女も総じて子どものままなのでしょうね。恋愛はしても責任の伴う結婚→出産を避けている、と言うか。知識ばかり頭に詰まっていて、実際には大人になれていない人間ばかりになっていっているのかもしれないなぁ。それってトッテモ怖いことだわ・・・。カタチはどうあれ、信頼できる愛する人(性別問わず)の存在はあった方が、人生は豊かになると思うのですけどね。クロケンさんのオチもそれに近いかもしれないなー。

『結婚なんてしたくない』 2005.11.10. 黒田研二 幻冬舎
 



2005年11月29日(火) 『サスツルギの亡霊』 神山祐右

 カメラマンの矢島拓海は不審な存在に導かれ、兄が命を落とした南極へ赴く。日本南極地域観測隊の一員として参加した拓海が知った兄の死の真相とは・・・

 不思議なもので南極を舞台にした物語を続けて2冊読むことになり、たまたま見始めた懐かしの『Xファイル』で南極が舞台の回がありました。南極には未知の生物が凍結されていたり、未知の物体が飛来していたりしそうなのでしょうね。その未知なるものが人間を脅かす生命体となったり、人間の醜い争いの原因になったりしてしまう。なんにしても未知なるものに対する人間って小さいものなのだなぁと思いますわ。
 この物語は、兄の死の謎を弟が追いかけると言う、なかなか洒落た小細工がきいています。兄と弟は血のつながりがなく、わかり合うことなく決別していた。そこへ届く兄の死・・・いや〜それで南極まで行く弟ってなかなかいいですねー。拓海にとっては大きな未知よりも、身近にいた兄の未知が問題だったわけです。謎が解明してよかった。よかった。

 遺された者は、時として死者の記憶に囚われてしまう。

『サスツルギの亡霊』 2005.11.10. 神山祐右 講談社



2005年11月27日(日) 『グッドバイ 叔父殺人事件』 折原一

 ネットで呼びかけて集まった人たちが一緒に自殺する。その中に僕の叔父がいた。しかし叔母は叔父の自殺に疑問を抱き、僕に調べるように命じた。しぶしぶながら調べ始めると、集団自殺を手がけようとしていたジャーナリストの存在が浮上してきた。そして僕を見張る冷たい視線・・・。叔父は自殺したのではなかったのか?

 フォントを変えて語り手を変え、視線が変わる。これに騙されないぞーと意欲満々で読みすすめたと言うのにしっかり騙されました。お見事っv 騙されていた事実がひとつとは限らない。折原さんならではのウマサでありまする。すごいなぁ。最後の最後で本当にビックリしたよー。いやぁ、あいかわらずのだまされ読者>私
 物語として読んだケレドモ、題材の集団自殺については背筋が寒い思いがいたします。死にたいけど一人で死ぬ勇気は無い、寂しい。だから死にたい人たちで一緒に死にましょ・・・なんてものすごい怖いことですよ。生きていれば、そりゃぁ泣きたいほど死にたくなる時があります。無い人は幸せだ。でもやはり自殺はいかんです。生きていればいいことがあるなんて美しいことも言えないけれど・・・でも自分から死ぬのはやーめーてー。

『グッドバイ 叔父殺人事件』 2005.11.21. 折原一 原書房



2005年11月26日(土) 『凸凹デイズ』 山本幸久

 凪海は凹組というデザイン会社で働いている。先輩は大滝と黒川という変人ふたりっきり。慈極園(遊園地)リニューアルプランのコンペで凪海のキャラクターが採用されたことから、なんとかかんとかうまくやってきていた3人に変化が。火に油を注ぐような、ふたりの先輩のモト仲間の女・醐宮の存在・・・

 この小説はタイトルがずっと気にかかっていたので読んでみました。なにがどうしたと言うでもないのでケレドモ、ことのほか良かったのですよね。登場人物がいいからかしら。言葉が好みだからかしら。小さなデザイン会社の奮闘ぶりにもエールを送りたくなってしまうし・・・。たぶん凪海の先輩ふたり+天敵女の凸凹な3人への憧れとも言うべき複雑な気持ちがトテモよくわかったから好きになったのかもしれないわー。なかなかよい物語だと気に入ってしまいました。

『凸凹デイズ』 2005.10.30. 山本幸久 文藝春秋



2005年11月24日(木) 『恋せども、愛せども』 唯川恵

 金沢で小料理屋をしている母と祖母、東京で脚本家を目指す理々子、名古屋で大手不動産会社の総合職として働く雪緒。女だけの家族4人。そして彼女達に血縁関係は無かった。母が祖母が娘二人がそれぞれに恋にときめき、愛に惑う。血の繋がりは無くとも、家族の絆に結ばれた4人。4人がそれぞれに決める愛の行方は・・・

 恋と愛。近いようで遠い気持ちなのかもしれません。いくつになろうと恋する女はいいもんだと思いました。ときめきを忘れないで生きていくって案外むずかしいことなのかもしれません。
 血の繋がらない4人の恋愛模様よりも仕事に対するスタンスや覚悟ってものが興味深かったですね。これは男とか女とか関係なく、人としてのこととなる。きちんと意識をもって生きていけるとよいなぁ、そんなふうに感じる事ができました。あいかわらず優れものの物語でございます。さすがは唯川さんv

 大人になればなるほど、恋なんて、と照れたり、投げ遣りになったり、時には、嘲笑さえしてしまうことがある。けれども、それは強がりだ。誰だっていつだって、人は恋を待っている。恋する人を待ち焦がれている。恋ほど人を熱く燃やすものはないのだから。

『恋せども、愛せども』 2005.10.20. 唯川恵 新潮社



2005年11月22日(火) 『痛いひと』 明野照葉

「パンドラの匣」
 淑彦は避けていた満員電車に乗る羽目になり、さまざまな人間の妄想が心にダメージを与える。まさに痛勤地獄・・・

 明野さんって方の目の付け所ってスポットを当てられると当たり前なところにあります。でも普段の生活では私は気づかない。と言うか流してしまっている。そういうところが違いのワカル作家さんならではなのだなぁとアラタメテしびれてしまう訳なのです。はい。
 この主人公の淑彦さんって感知してしまう人で、人の多い場所では人に中ってしまう・・・。そう言えば私が満員電車や人込みが苦手なのってこういうことなのかもしれないなぁなどと気づかされる始末。うう、おそるべしx明野照葉。
 単純にタイトルの『痛いひと』を想像するとやられてしまいますよー。痛くて痛くて疲れてしまう。ああ、痛い。

 あちらに立てばこちらが異常。こちらに立てばあちらが異常。正常、異常の線引きは、境界線がきわめて曖昧で、考えれば考えるだけ気が滅入ってくるほどに難しい。

『痛いひと』 2005.11.25. 明野照葉 光文社



2005年11月21日(月) 『ネクロポリス』 恩田陸

 ジュンイチロウはアナザー・ヒルにやって来た。ここで<ヒガン>を体験するために。<ヒガン>は、死者と出会える祝祭。死者たちは‘お客さん’と呼ばれる存在で、彼らは決して嘘をつかないと言う。ジュンイチロウには千客万来でばんばか‘お客さんたち’にめぐり合う。そして事件が起こった・・・

 うーんと、上下巻に渡る恩田陸ゴシック・ホラーワールド(と私は解釈した)は上記のような味も素っ気もない物語ではありませんので(笑)。長くって、陸ちゃんアイテムてんこもりでうまく説明できなかったので読んでくださーい。
 陸ちゃんってば、またもややっちゃいましたねぇ(大笑)。あまりにも陸ちゃんアイテムを「これでもかー」と盛り込んでいて、もったいないことこの上なしでした。大盤振る舞いは陸ちゃんの持ち味ねv トッテモ面白かったですv
 ただ設定が死んだ人に逢えると言うシロモノで、読んでるとトシに逢いにアナザー・ヒルに行きたくなっちゃって。ほろり。嘘をつかないらしいのでトシのいろんな本心を聞きたいなぁナンテしんみりしちゃいましたとさ。あい。

 人間というのはなんと不可思議な存在だろう。極めて物理的な存在でありながら、やはり自然の一部であり、容れ物である身体に比べて。精神活動は超自然に近い。現実的であろうとする精神は、常に矛盾の間で引き裂かれつつも、その奇妙なバランスの取れた小さな一点を縫うようにして未来へ向おうとする。

『ネクロポリス』 2005.10.30. 恩田陸 朝日新聞社



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