酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2005年08月29日(月) |
『鏡陥穽』 飛鳥部勝則 |
葉子は、飲み会の帰り道に襲われ、反撃する。だが、始末したはずの男と同じ顔をした男・久遠に付きまとわれるようになり、婚約者・水谷に誤解をされてしまい・・・
うーむぅ、ハジメテ飛鳥部さんを読みきることが出来たのですが、なんと申し上げましょうか・・・「グロイ」とでも言えばいいんでしょうかね(悩)。ホラーと言えば限りなくホラーでありますが。あ、いや、ワタクシ個人的にはかなり面白かったのでございます。とんでもなく鬼畜な人間がちらほら登場しますし、「鏡」が恐ろしいことをやってのけますし。ただ、さすがにこれは拒否反応を示す人もかなり多いだろうなぁ、と。ここまでの迷宮のような世界を描ききられたことは天晴れと申しておきます。ホラー・エロ・グロがお好きな方は是非どうぞ。それ以外の方は表紙をご覧になっただけでやめられることでしょう(笑)v
『鏡陥穽』 2005.7.15. 飛鳥部勝則 文藝春秋
2005年08月27日(土) |
『犬はどこだ』 米澤穂信 |
25歳の紺屋は、<紺屋S&R>という‘犬探し専門’の調査事務所を開いた。しかしやってくる客は人探しに古文書解読と想定外。押しかけ探偵志望のハンペーと別々に捜査を始めるが、事件が微妙にリンクしてきて・・・?
主人公の紺屋は、順風満帆だったはずの仕事を想定外のどうしようもない理由で辞め、無気力になってしまいます。その彼をとりあえず表の世界へ出るように薦めてくれた、ネット仲間の《GEN》。(※紺屋は《白袴》という皮肉なハンドル) 紺屋を心配して客を斡旋してくれる友人の大南。押しかけ探偵になる剣道部後輩のハンペー。口は悪いが頼りになる妹・・・、と登場人物の人間模様が非常に温かく優しい気持ちにさせてくれました。そして真逆な事件の真相の禍々しさがナカナカよかったです。これぞ人間の光と影と言うか。 紺屋が、仕事を辞める原因になったことと言うのが、たまたま今の自分に重なるものを感じ、感情移入をいっぱいしちゃいました。どうやらシリーズ化らしいので、紺屋が次もまた「犬はどこだ」とぶつぶつ言うのを楽しみに待つことにします。
「こいつは貸しとくぜ、ボス!」
『犬はどこだ』 2005.7.25. 米澤穂信 東京創元社
2005年08月25日(木) |
『サウスバウンド』 奥田英朗 |
上原二郎は小学6年生。元過激派の父親は働きもしない自称小説家。年金の支払いを督促されると「国民をやめた」と言うような男である。そんな型にハマラナイ父親に振り回されながら、二郎は成長していく・・・
これねー、面白いんですよ。最初は伊良部センセの世界をイメージしすぎていたので、「なんでまた過激派なの?」と戸惑ったのですが、一旦イメージが浮かぶとガッチリ上原一郎(二郎くんのお茶目なパパ)にオルグされまくり〜。この男はファンタジーですね。ありえない。ありえないほど男の魅力満載。さくら(一郎さんの妻で二郎くんのママ)さんの気持ちがよくわかっちゃいました(はぁと)v 父親の破天荒っぷりに付き合わされて、東京から南の島へ引っ越ししなくてはならない小学6年生の戸惑いと不安。でも子供は逞しい。不条理を自分の目で見つめながら、自分で考える頭を鍛え上げていく。そっか、一郎さんが素敵なだけでなく、二郎くんの成長っぷりにメロメロなんだ〜。いいものを読みました。オススメ。
「これはちがうと思ったらとことん戦え。負けてもいいから戦え。人とちがってもいい。孤独を恐れるな。理解者は必ずいる」
『サウスバウンド』 2005.6.30. 奥田英朗 角川書店
2005年08月23日(火) |
『スタンレーの犬』 東直己 |
東直己さんは北海道在住の作家さんで、北海道を舞台に(特にススキノなど盛り場)することにこだわられています。探偵はBARにいるシリーズと畝原シリーズは特に好きです。 今回の『スタンレーの犬』は大好きな東さん作品なのにツルリと読めない違和感がありました。内容は面白いと思います。不思議な力を持つ「ユビ」の性格もよかったし・・・。だけど、なにか違う。やはり固定観念なのかもしれません。 ただ基本的に行き詰まる作品はとりあえずSTOP(いつか読むかも)する私なのですが、やはり最後まで読まずにはいられませんでした。不思議なロードムービーって感じでいいのかなぁ。
だが、哀しくない人生なんかないし、もしもあったとしたら、それはバカの人生だ。そして、哀しい人生の話は、誰かに話してもどうなるものでもない。だいたい、この哀しみは、そこにあるだけのもので、つまりただ単に存在しているだけのもので、どうにかすれば消える、という筋合いのものではない。 いや、哀しみというものは、全てそういうものだ。哀しみは、取り返しがつかないから、だから哀しみなのだ。
『スタンレーの犬』 2005.8.8. 東直己 角川書店
2005年08月21日(日) |
『戦国自衛隊1549』 福井春敏 |
元幹部自衛官の鹿島勇祐は、三十代半ばを越えて零細企業営業サラリーマンの身に甘んじていた。そんな鹿島に防衛庁技術研究本部の神埼怜という女性が接触してきた。六年前に殉職した的場一佐を捕捉するミッションに参加して欲しいと言う。死んだはずの的場が《過去から攻撃》をしかけてきていると言うのだ。鹿島は怜たちとともに平成の世の中を守るために戦国時代へ突入するのだが・・・!?
邦画の中でも強く印象に残っている作品がいくつかあって、その中に『戦国自衛隊』があります。あの戦国自衛隊は、偶然戦国の世にタイムスリップしてしまった自衛隊の人間たちの物語で、主演の千葉真一さんが強烈に鮮烈にカッコよかったです。今の世では生き辛い人間が戦国時代で生き生きと生きる・・・ものすごく辛辣な話だけれども。 今回の物語は、前回とは違い、タイムスリップした人間が確信犯的に歴史へ関与する。自分が生きている平成の時代を変えてやるとばかりに。そして歴史は果たしてその暴挙を許すのか?・・・とハラハラドキドキ。前回があって今回があると言う感じでダブルに面白いと思います。今回の映画を見損なっているので観てみたいものであります。
「なにかに依存しすぎると、それがなくなった時に壊れてしまう・・・・・・。そんなふうにはなりたくなかったから。自分をこの世界に繋ぎ止めておくなら、もっと揺るぎのないものでないと」 「揺るぎのないもの?」 「キャリアとか、仕事とか。主観に左右されない、客観的な価値のあるもの。・・・・・・親の愛情で満たされなかった子供が考えそうなことです」
『戦国自衛隊1549』 2005.5.20. 福井春敏(原作:半村良) 角川書店
2005年08月20日(土) |
『ポセイドンの涙』 安東能明 |
昭和52年北海道松前郡吉岡村は、青函トンネル建設のために人で溢れ、標準語が喋られていた。小学生の由貴と政人と連は子供ゴコロに親の行動に苦しめられていた。青函トンネルゆえに賑わった村は、トンネル建設が終れば人も去り、賑わいも消えてしまう。そんな時、ウェンカムイとあだ名をつけられ、嫌われていた由貴の父親が消えた・・・そして平成16年、青函トンネルから死体が見つかり・・・?
大きな公共事業の裏には利権の争いがあり、笑う人も泣く人もいる。そんな悲哀を感じさせる壮大な物語でした。ただ個人的に残念だったのは、主要登場人物の3人の心情が克明に描かれていなかったこと。それが出来ていれば読後に「浅い」と感じず、すっごく感動できたのではないかしら。こういうドラマは人間の心を読みたいと願ってしまうのでありました。
『ポセイドンの涙』 2005.7.10. 安東能明 幻冬舎
2005年08月19日(金) |
『ストーミーマンディ』 牧村泉 |
5歳の時に母親、11歳の時に姉を殺した倉田諒子。31歳になる諒子は、惰性で生きていたつもりだった。しかし、執拗ないたずら電話に悩まされ、不倫を清算した途端、不思議な家出娘ミチルを拾ってしまう。ただ余生を生きていたつもりの諒子だったが、ミチルとの出会いによって本当の破滅へ導かれてしまう・・・
うー、えぐかった。鬼畜系も平気で読んでしまうワタクシでありますが、これはかなりのものでした。ここまで諒子を追い詰めるの?と気の毒に思えてしまう残酷っぷり。人生に翻弄されてる哀しい女だったなぁ・・・。
誰もきっと自分の人生を、少しずつ隠しながら生きているだろう。ちょうど月そのものは同じなのに、その表面に落ちる影のせいで、姿が変わって見えるように。
『ストーミーマンディ』 2005.7.10. 牧村泉 幻冬舎
2005年08月18日(木) |
『2005年のロケットボーイズ』 五十嵐貴久 |
カジシンは文系の男なのだが、運命に翻弄され工業高校に入学。ツマラナイツマラナイと毎日を過ごしていたカジシンが、キューブサット設計コンテストに参加することになる。友人のゴタンダに相談し、ヘンコツ変わり者の大先生を巻き込み、なんとか参加。すると何故だか入賞してしまい、キューブサットカムバック・コンテストに参加することになり・・・
これねぇ、いいんですよ。すごく。言葉のノリのよさにのっけられて訳のわかんないキューブサットなんちゃらなんてものをサラ〜っとうまく読ませてしまうの。うまいなぁ。 簡単に言えばオチこぼれクンたちの青春奮闘サクセスストーリーでしょうか。カジシンの元に集まってくる風変わりな仲間たちがいいんですv 中でも翔さんは最高にいい男で泣かされました。こういう男が好きだっ! カジシンと家族との関わりも考えさせられるものでした。
だけど現実はシビアで、おれはここにいる。学校は学校だし、家は家だ。彼女はいないし、いいことはないし、どっちにしたって何も変わらない。そう思っていた。でも、そうでもなかった。おれがいるのは同じ場所だけど、スタンスを変えたらちょっぴり違う風景が見えた。そういうことなのかもしれない。
『2005年のロケットボーイズ』 2005.8.5. 五十嵐貴久 双葉社
夏休みでお母さんに連れられたチビッコギャングたちに混じって(笑)『妖怪大戦争』を観て来ました! 主役の天才子役・神木隆之介くんが最高に可愛かった〜。少年が頑張っちゃう物語は今も昔もひどく弱いのであります。両親の離婚のために姉と父と離れ、東京から鳥取へ母と引っ越した少年・ただし。田舎のヤンチャ坊主たちにいじめられながら、少年が愛と勇気と友情で逞しく成長していくのだ! く〜ぅ、いいですねぇ。ベタだけどメロメロv 少年以外の主要登場が妖怪ばかりと言うことで、この人は誰だろう?と悩む妖怪さんも多々(笑)。当然出てくる京極の旦那はお約束としても宮部はん(妖怪じゃないけれど)が出てきた時には噴出してしまった。びっくり。お茶目な作家さんが多いものよのう。神木くん以外では河太郎役の阿部サダヲがいい味だしまくり。ナイナイの岡村君も出てるのだけど、今は阿部サダヲの方が面白い。さすがに今をときめくクドカンファミリィ、勢いが違います。そして裏切り者の妖怪アギを演じた栗山千秋(あれ、明か?)ちゃんのコスプレが涎もん〜。パンチラ衣装はドキドキよー。河姫役の女の子の素敵な太股もたまりまへん。やっぱ女の子は熟しきる前がよいですのう。ふぉっふぉっふぉ(スケベ親父だな)。 残念だったのは、どうしちゃったの豊川さま、でありました。豊川さまが魔人役で出ていると知り、観に行ったのに・・・。出番が少ないし、出ていてもオーラがないし、なんだかなぁ。豊川さま役者として停滞中? もっとギトギトに悪役演ってくれているものと期待していただけに残念なのでありました。 神秘的で「鳥取へ行こう」と思わされる夢いっぱいの映画なのでしたよ。ふふふ。
2005年08月16日(火) |
『かたみ歌』 朱川湊人 |
今から三十年近い昔、東京の下町にあるアカシア商店街に住んでいた人たちが体験した懐かしく心に温かくせつない不思議の数々・・・
先だって、『花まんま』で直木賞を受賞された朱川湊人さんの受賞後第一作を少し早くに読ませていただく光栄に預かりました。朱川さんは、この物語たちを書かれた時期が『花まんま』と近かったため、兄弟のような感じとおっしゃっています。『花まんま』は関西の下町での不思議。『かたみ歌』は関東の下町での不思議ですね。『花まんま』にも泣かされましたが、『かたみ歌』にも感動しました。こんなふうに心にダイレクトに温かい物語は最早‘癒し’です。読めたことを感謝する物語で、オススメですv 7つの不思議の中からあえて何かを選ぶことが難しいけれど・・・個人的には「夏の落とし文」と「栞の恋」がよかった。そして7つの物語をリンクさせた「枯葉の天使」は、ひとりの登場人物の謎が明かされるとともに、一緒に救われた気分になります。うーん、結局、7つとも全部好きですねぇ。たまらない贅沢さでした。朱川さんはもっともっと素敵になられる気がします。
「だから、向こうで会えるのを楽しみにしてますって。でも、なるべく、ゆっくりゆっくり、来てくださいって」
『かたみ歌』 2005.8.20. 朱川湊人 新潮社
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