酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
DiaryINDEXpastwill


2005年06月19日(日) 『チャット隠れ鬼』 山口雅也

 「気弱なオタ茶」<オタク・ティ(=TEA)チャー>と揶揄されている国語教師・祭戸浩実は、学院長からインターネット・パトロール→サイバー・エンジェルに推薦される。渋々引き受けた祭戸だったが、チャットの魅力にはまりこみ、主婦のハンドルネームいぜべるに夢中になってしまう。しかし、だんだんと彼女の正体に疑問を抱き始め・・・

 ネット小説だったもののノベライズですから、従来の小説と違い横書き形式。小説っていうものは縦で読みなれてしまっていることを気づきます。違和感あるけどネットを表現するにはコチラか・・・。
 このテのストーリーを読むと必ず書きますが、栗本薫さんの『仮面舞踏会』を越えるシロモノにはなかなか出逢えない。残念ながら。山口さんのこのストーリーは筋が読みきれましたから。面白いのですけどね。どうしたって惹かれて読んでしまうし。ネット社会では、こういう危険がいっぱいなことをこの小説を通して知って欲しいものです。

 まったくネットの匿名性の裏には、どんな奴が潜んでいるかわからないから

『チャット隠れ鬼』 2005.5.25. 山口雅也 光文社



2005年06月18日(土) 『最後の願い』 光原百合

 劇団Φの代表:度会(わたらい)恭平は、旗揚げ公演を目指してスタッフを自分の目で選んでいる。自分が納得した相手でなければ一緒に舞台を踏みたくないと豪語する不敵な奴。そんな渡会が出逢った風見爽馬は「この人しかいない」と思わせる人物だった。ふたりが目をつける人物は皆それぞれに謎を抱えていて・・・

 これはうまいですね〜、光原さんv 短篇が最後に長編となる。しかも八犬伝ばりに素敵でミリョク的な仲間が増殖していくんだもの。やられたなぁ。
 ただ、最後に光原さんご自身が謝辞で触れられておられましたが、あまりにもアル舞台俳優さんおふたりを思い浮かべてしまえて、なんとも複雑でした。もちろん現実の彼らとは違うのでしょうけど、どうしたってその目で読んじゃって・・・。そこだけが個人的には残念だった気がします。舞台にも映像にも出来る洒落た物語には変わりないですけど。

 俺が一目置ける相手でなきゃ、一緒にやるのはごめんですから

『最後の願い』 2005.2.25. 光原百合 光文社



2005年06月14日(火) 旅のお供本

 ちょこっと旅へ。旅に持参する本って人はどんなふうに選んでいるのかしら。その選択基準が他人事ながら気になるところ。私は新しい本と馴染んでいて読み返したい本を必ず持っていく。新しい出会いもしたいし、馴染んだ外れの無い本にホッとしたいから。
 今回のお供本は、新しい本として光原百合さんの『最後の願い』と石持浅海さんの『扉は閉ざされたまま』を。馴染んだ大好き本としては高田崇史さんの『パズル自由自在』と椹野道流さんの『暁天の星』をチョイス。三泊四日で全部読めるとは思えないけれど(笑)、どうしてもこれくらいの数は持ってたい。ライナスの毛布ですね。
 いつもと違う風景の中で大好きな本を読む時間が少しでも多い旅となりますように。



2005年06月12日(日) 『賢者はベンチで思索する』 近藤史恵

 久里子は、服飾関係の専門学校を卒業したものの思うような就職先がなく、家の近くのファミリーレストランでアルバイトをしていた。とりあえず今日を過ごす久里子が、不思議な客と知り合い、自分の周りで起こる出来事を一緒に謎解きしていくうちに・・・

 あぁっ(よろめいた)、近藤史恵さんスキ。ぱたり(失神・・・はウソ)v 犬好きの近藤史恵さんらしく、可愛いワンちゃんがたくさん登場して犬ズキにはたまらない! 生きていると、迷ったり、停滞したりする。でもなにかの出会いや突破口があって、そこで迷ったり怖気づいたりしなかったら、案外未来は開けるのかもしれない。その時に掴み取ったきっかけを生かすも殺すも自分次第。そんなふうにエールをいただいた気分でありました。素晴らしいv ブラボーvv

「そう、悪いことより、いいことの方がたくさん起こる。それに、こう考えておきなさい。いいことが起こっても、次に悪いことが起こるとは限らない。反対に悪いことが起これば、その次はいいことが起こるんだ、とね」

『賢者はベンチで思索する』 2005.5.30. 近藤史恵 文藝春秋 



2005年06月11日(土) 『零時の犯罪予報』 日本推理作家協会=編

「六時間後に君は死ぬ」
 美緒は自分を呼び止めた若い男から「六時間後に君は死ぬ」と言われる。その男はたまに人の未来が分かると言う。美緒はその予言を覆そうと行動するのだが・・・

 高野和明さんの物語は根底に優しいものが流れていてお気に入り。この短篇もラストがとても心地いい。短篇で物語をはじめて終えるって至難の技だと思う。だから短篇のうまい作家さんは好きだなぁ。
 この物語は日本推理作家協会=編「零時の犯罪予報」におさめられてます。他にも素晴らしい作品ばかりで、贅沢で満足できる一冊。知らなかった作家さんを知ることができるのも嬉しい限り。今回は姫野カオルコさんをはじめて読んで興味を持ちました。薄井ゆうじさんの短篇もよかったなぁ。ああいう昔懐かしいセピアなトーンには弱いのでありました。

 時はベルトコンベアだ。どんな人間も区別することなく、前へ前へと機械的に送り出してしまう。そこに不公平がないから、世の中は意外と平和なのかもしれない。

『零時の犯罪予報』 2005.4.15. 日本推理作家協会=編 講談社文庫

 



2005年06月10日(金) 『禁じられた遊び』 吉村達也

 綾は出来ちゃった結婚で順風満帆と得意満面だったが、三十歳にして夫と子育てに行き詰まってしまう。つい刺激を求めて出会い系でアル男と知り合い、禁断の世界へ足を踏み入れてしまうのだが・・・

 出会い系、不特定多数の相手を向こうに回して飛び込むって無謀と言うか、世間知らずと言うか・・・。ものすごく怖いことだと思うのですよね。そうであって欲しくは無いけれど、実際世の中にはトンデモナイ人種がうようよしてる。そういう人たちが網を張っている可能性、それってちょっと考えればわかることじゃないのかしら。寂しいから、欲求不満だから、そんな鬱屈した思いを出会い系などで晴らそうとすることは危険だと気づいて欲しいなぁ。
 この物語は夫に顧みられなくなった女性が、出会い系で知り合った男にトンデモナイことをさせられていくという刺激的なもの。個人的にはラストに救いがあったかもしれない。自分が自分であるために生きていくって案外むずかしいことだと思っちゃいました。

「新しい自分になりたかったら、見た目じゃなくて心を変えなさい。容れ物ばかり変えたところで何になるの」

『禁じられた遊び』 2005.4.25. 吉村達也 集英社文庫



2005年06月07日(火) 『魂萌え!』 桐野夏生

 59歳の敏子の夫が心臓麻痺で急死。専業主婦だった敏子に襲い掛かる夫の秘密に子供達の遺産争い。さまざまな経験を重ね、敏子が選び取っていくもの・・・

 やー、桐野夏生って人がまたやってくれましたって感じ。またもヤラレタ。こういうヤラレ感は爽快です。なにを書こうとも桐野夏生パワーの底力をビシバシに受けとめてしまう。でも今回は桐野さんにしては抑え気味かしら? 人が死ぬって本当にすごいこと。当たり前にそこにあった生がいきなり消滅してしまう。そこから波及すること、遺された人の心に及ぼすこと、とても多いのです。実感しながら読みきりました。
 いきなり死んじゃった旦那の秘密を知った時、敏子は動揺し、取り乱し、本来持っていた己を呼び覚ます。秘められていた敏子の猛々しいパッションが心地よかったです。苦しみや悲しみや嫌な事を受け止めながら前へ進む。それを人それぞれのペースでやっていけばいいんじゃないかな。なにかに遭遇したときポキリと折れないで。ちょっと骨折して治しながら前へ。不細工でいいじゃない。カッコ悪くていいじゃない。自分が自分らしく前へ。それでいいじゃない。そんなこと思いました。

「人が一人死ぬと、いろんなことが変わるんだね。あたし、今回すごくよくわかった」

『魂萌え!』 2005.4.10. 桐野夏生 毎日新聞社



2005年06月05日(日) 『秘密クラブ、平安の都へ!』 椹野道流

 奪われた理事長の体を取り戻すために、真透と要平は陰陽師・小野篁に導かれ平安時代へ。要平のアーチェリーの技に真透の力を乗せて妖魔に立ち向かうのだが・・・

 椹野道流さんの物語には素敵なイラストつきシリーズが多く、イメージを呼び起こしやすくて嬉しい。物語にあったイラストって相乗効果バッチリ。今回の秘密クラブシリーズのイラストも素敵なんですよね〜。こういう清潔感のある高校生っていいわ〜。だらだら。
 さて。椹野道流さんモノでは御馴染み(?)の男の子と男の子の妖しい微妙な関係。笑顔が必殺技の真透に振り回されっぱなしの硬派・要平。要平のあたふたっぷりが見ていて(読んでいて)オンナゴコロくすぐるのでありました。うふふ。今回は現代の高校生が平安時代で大暴れ・・・小暴れかしら。シリーズ化なのでこれからも登場が楽しみな陰陽師の小野篁も素敵だったな〜。
 単純に読んで楽しめる、私の読書の基本のような物語でありまする。

 考えてもみろ。好きなことだけやっておれば、いつかは飽きる。ただの一度の人生だというのに、あっという間に面白うなくなってしまうわ。

『秘密クラブ、平安の都へ!』 2005.5.1. 椹野道流 小学館



2005年06月04日(土) 『シーセッド・ヒーセッド』 柴田よしき

 新宿二丁目で無認可保育所の園長をやっているハナちゃん(花咲)は、副業で私立探偵をやっている。美形のヤクザ山内練に借金を抱えるハナちゃんは、保育所を守るために、危ない依頼に挑むのだが・・・

 ハナちゃんは人気者。男女ともに評判いいですねぇ。私も勿論ハナちゃん大好きだけれども、練ちゃんの前にはかすむ、かすむ〜。このハナちゃん探偵シリーズでの練ちゃんはちょっとだけ人間らしい温かみを感じさせる。今回は練ちゃんの子供? 事件にはらはらどきどき。これってまだまだ続いていくかもしれない。練ちゃんはハナちゃんによってどこまで変わっていくのかなぁ。気になるぅぅぅ。

「人は・・・・・・人がこの世に遺していくものは、金とか物とかだけじゃない。思い出、ってやつだって、あるんじゃないですか?」

『シーセッド・ヒーセッド』 2005.4.25. 柴田よしき 実業之日本社



2005年05月30日(月) 『黒笑小説』 東野圭吾

「インポグラ」
 広告代理店に勤める‘おれ’は友人から開発した薬を売り出してくれと頼まれる。その薬とは飲めば二十四時間は何があっても勃起しないというシロモノ。そんなモノが売れるかい、と思ったものの、いろいろ使用法とはあるもので・・・

 本当に東野圭吾さんって人は怪物みたいな作家さんですよね。シリアスでダークなものからSFほろりのうえにこんなバカっぱなしまで(いい意味ですよ?)! 文壇のネタまで惜しげなく披露してくださってます。新人作家と過去の人と呼ばれる作家さんの話は心がさむーくなりました。なんて怖い世界なんだ(汗)・・・
 文壇ネタも面白かったのですが、男の悲しい性ネタが私はお気に入りです。男と女はそう違わない生物だけど、こういうとこは男のほうが切ない気がする(苦笑)。アノ東野圭吾がこんな話も書くのねシリーズの新刊。オススメです。

 男ってのはまったく、脆い生き物だなあ。

『黒笑小説』 2005.4.30. 東野圭吾 集英社



酔子へろり |酔陽亭酔客BAR
enpitu