酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2005年03月05日(土) 『恋愛寫眞  もうひとつの物語』 市川拓司

 大学生の誠人(まこと)は成長を止めてしまったような少女・静流と出会う。背が低く、おそろしく華奢な身体なのだ。不思議な彼女をファインダー越しに捕らえる。それがふたりの始まりだった・・・

 WOWOWのドラマとしての恋愛寫眞 と今回の物語は似ているようで全く違う物語となっていました。市川拓司さんはこれで2冊目ですが、市川節って出来上がっているのですね。静かで優しい言葉のやりとりは絶妙。哀しい哀しい出会いと別れも健在。でも心に残るものは優しさだったりする・・・不思議な世界を創りだす人で目が離せないわ。

 別れはいつだって思いよりも先に来る。
 それでもみんな微笑みながら言うの。
 さよなら、またいつか会いましょう。 
 さよなら、またどこかで、って。

『恋愛寫眞  もうひとつの物語』 2003.6.20. 市川拓司 小学館



2005年03月04日(金) 『愛が理由』 矢口敦子

 麻子、39歳独身。友人の美佐子の家の側にマンションを購入し、翻訳の仕事をしながら生きていた。美佐子は癌家系であることを気にして子供を作らなかった。ある日、突然美佐子が死んだ。自殺なのか、他殺なのか。美佐子の死を不審に思う麻子の前に少女と見間違えるような美少年・泉が現れて・・・

 自分にとっては何げない一言が、受けた人間にとって致命傷となってしまう。そういうことって現実にも多いような気がします。特に病気の種が自分に遺伝しているのでないかという不安は他人には理解できない事だろうなと思いますね。うかつに触れないほうがいい話題ってあるってことでしょう。自戒をこめて。
 この物語、読みやすいし、二転三転する展開が面白かったです。でももう少し人間の内面を突っ込んで表現されていたら、より面白かったのではないかしら。面白いキャラとか登場するのだけど、なんだか存在が浅いと言うか、のっぺらーとした感じで残念でした。

 辛い出来事って、人間、記憶をねじ曲げてしまうことがあるものね。

『愛が理由』 2005.2.18. 矢口敦子 角川春樹事務所



2005年03月03日(木) 『ラム&コーク』 東山彰良

 博多の墓石販売業・新納壮一郎は中国進出を考えていた。ふたりの異母兄弟のクールな冴と真っ直ぐな礼に野望を果たすべく中国へ行く事を命じる。幼馴染の大友翔子に中国語を教わる事になるのだが、翔子の祖父が強盗殺人に遭遇し・・・

 「アジア人同士のお互いの差別感情をデフォルメした作品です」と作者の東山さんが語ってらっしゃいました。その言葉の通り、登場する日本人・中国人・台湾人・米系日本人・・・人種のさまざまなこと。そして互いが互いを罵倒しあっていたり、コンプレックスを抱いていたり。差別や偏見と言う感情の根深さをからりと描かれているけれど、純粋に犯罪エンターテイメントとして楽しむには重すぎました。
 大好きな街・博多を舞台にしているのだから、もう少し街並みや博多ならではの人情や文化を匂わせて欲しかったわ。

 世界が自分以外のだれかを中心にまわっているときは、用心に越したことはない。

『ラム&コーク』 2004.10.29. 東山彰良 宝島社



2005年03月02日(水) 『もっと、生きたい・・・』 by Yoshi

 神野の元カノ梨花のもとへ届いた携帯メール。件名「down」内容「足の指」という文字。そしていきなり梨花の足の指が・・・。天才プログラマー神野は、この一連の不気味な事件に関わる事になるのだが・・・。

 ううむぅ。なんでもケータイ小説の生みの親で鬼才だそうです。1時間ほどで読める手軽さと挿絵から、漫画と小説の中間にあるシロモノだよなぁと思いました。こうして書籍となった時に、横書きは馴染めない気がしましたけど、売れてるってことは受け入れられているのかしら。本というカタチで読むにはちょっと違和感がありました。奇想天外でグロいのは面白かったですけど。

『もっと生きたい・・・』 2004.12.25. Yoshi スターツ出版



2005年02月28日(月) 『女たちの殺意』 松村比呂美

 日常でふと芽生える女たちの殺意が5つ。「あぁ、わかる。わかる」とその殺意に同意してしまうところが一番怖いことかもしれません。どの物語も落としどころが想像とは違うところに着地されてしまいました。うまいなぁ。やられたなぁ。こういう優れた短篇を描く女性が出てこられたんだー(感動)。
 どの物語もとてもいいのですが、「アレルギー − 溢れ出る殺意」はうならされるウマサ。辛いアレルギー症状の原因の根となるものに気づき、驚愕のラストへの一気呵成の流れは映像化して見せて欲しいくらい!(映倫上むずかしいか) 「暖かい殺意」は、そりゃ殺したくもなるよ・・・と共感させておきながら、すっごくひどい結末だし。「カルシウム」はカルシウムの成分が気にかかって仕方ない。「茶箱 − 乾いた殺意」は2重に意外な展開が好み。「どうしても − 振り向いた殺意」の哀しい女の見得の張り合いは情けないど身につまされて・・・。
 要するにたぶん女性であれば共感できる「哀しい殺意の根っこ」が秀逸なのですよね。あぁっ、うまく言葉で「よかった」感を伝えられないことがもどかしい。もう是非に読んでみていただきたい。損する事はありません。怖いくらい(そこが一番怖いのか?)うまい人です。オススメv

 やっと心と体が一緒になれた。

『女たちの殺意』 2005.1.15. 松村比呂美 新風舎



2005年02月27日(日) 『エリカ』 小池真理子

 40歳のエリカは親友の急死を彼女の愛人に知らせる。旦那にも娘達にも隠しとおした親友の愛人はエリカに急接近してくる。甘い言葉、洒落た食事、誕生日に401本の薔薇・・・親友の愛人と恋に落ちる事にブレーキをかけていたエリカだったが、陥落。そしてエリカが手にしたものは・・・

 「愛してる」の大安売りをする男。そう言えば、こういうタイプの男にかつて関わった事があると、いやぁーな過去が甦った。小池真理子さんが作中で‘恋愛過多症の男’と表現していたけど、うまいなぁ。そしてそういう男は自分を愛しているだけ。
 エリカは自分をものすごく愛して欲しくて、そんな男はいるはずないと思いながら恋に溺れてく。またエリカを奇妙な視線で思う不器用な若い男の異様な一途さ。なんだかなぁ。不健全だ。
 でも面白かったです。最後に寂しさや孤独感が残るけれど・・・

「煙草はやめられるかもしれないけれど、お酒だけは無理ね。きっと身体こわしても飲んでると思う」

『エリカ』 2005.1.22. 小池真理子 中央公論社



2005年02月26日(土) 『松浦純菜の静かな世界』 浦賀和宏

 松浦純菜は大怪我を負い、2年ぶりに街に戻ってきた。純菜は新聞記事から自分の感性に触れた切り取りをし、ある日‘八木剛士’という同世代の少年の関わった事件を知る。そして彼と出会い、発生する連続女子高生猟奇殺人事件を追いかけるのだが・・・

 大好きな若きグロ大王・浦賀和宏さんの待望の新刊です。安藤君シリーズがSTOPしていることは寂しいけれど、純菜ちゃんはなかなか良かったです。純菜ちゃんと剛士くんの風貌とかキャラクターをもう少し詳しく描いて欲しかったかな。もしかしたら剛士くんの方の物語で続きが出るのかもしれないので、二人の次の事件を期待して待ちましょうか。
 しかし、やはり浦賀和宏の世界でした。激しいまでのグロさは抑え目だったけど充分に浦賀和宏で嬉しかったですね。ページ数を増やしてもっと残虐に書き込んで欲しかった、という感想は危ないのかしらん。

 やった時は、悪気なんてまるでなかったのに。
 ただの冗談だったつもりなのに。
 でもやられた相手にすれば、その傷は消えずにずっと心に残るのだ。

『松浦純菜の静かな世界』 2005.2.5. 浦賀和宏 講談社ノベルス



2005年02月25日(金) 『東京タワー』 江國香織

 透(21歳)は母の友人の詩史(41歳)と密やかな恋に落ちていた。詩史には仕事も家庭もあったので、透はいつも詩史の連絡を待っていた。透の友人・耕二(21歳)は要領のいいプレイ・ボーイ。彼女がいながら主婦の喜美子(35歳)と逢瀬を繰り返していた。ふたりの青年とふたりの大人の女、ふたつの恋の行く末は・・・

 友人が映画を観て「うっとり」していたけど、詩史が透の母親に水をぶっかけられたところで我に帰ったと聞いていました。どうも原作にはそのシーンはなく、しかもエンディングも全く違うようですね。私は映画を観ていないけれど、聞いた限りでは原作の方が好きだなぁ。友人曰く映画のハッピーエンド(?)は<おばちゃんのおとぎ話>だそうで言いえて妙かも(苦笑)。
 基本的に恋愛モノは読まない。観ない。なぜなら恋愛は自分でやるものだからvなんちゃって。あまりラブストーリーに感動する性質ではないのでしょう。でも、江國香織さんの描く恋愛モノはキライじゃない。すっと心に沁みこんで来るから不思議。
 透より耕二の方が好きで、タイプで言うと私は喜美子だろうな。喜美子のぎらぎらした感じが暑苦しくてとっても同族嫌悪だったわ(苦笑)v

「でも時間はつくるよ。必要なものには時間をつくる」

『東京タワー』 2001.12.7. 江國香織 マガジンハウス



2005年02月24日(木) 『ユージニア』 恩田陸

 三世代が同じ誕生日で有名な丸窓の屋敷の青澤家。当主の還暦祝いとおばあさまの米寿の祝いの場で無差別大量殺人が発生。その時にその場に居合わせた少女が大人になり、当時の関係者に取材をして「忘れられた祝祭」と言うタイトルの本を出す。数十年を経て真実は明かされるのか? 誰が真実を語り、誰が真実を隠しているのか・・・

 恩田版「ツイン・ピークス」!!って惹句はいかがなものなのか? かつてツイン・ピークスにはまった私には意義アリ。
 うーんと正直「今はよくわかりませ〜ん」。時間を置いてもう一度読み直したほうがいいかと思っています。勿論、力はあるし、ぐいぐい読ませていただきました。でも・・・陸ちゃんならではの魅力的な人物がいなかったのよ(ごく個人的に)。漠然と感じたのは、桐野夏生女史のように真実を示さない放置プレイを狙っているのかなってことでしょうか。新しい形を模索中なのかしら。似たような手法の『Q&A』は気にいったのだけど・・・。

 つまるところ、俺は人間というものの正体が知りたいのかもしれない。恐らくは、自分がどういう人間なのかを。

『ユージニア』 2005.2.5. 恩田陸 角川書店



2005年02月23日(水) 『サウスポー・キラー』 水原秀策

 セ・リーグの人気球団オリオールズのサウスポー・ピッチャー沢村は入団から1年半。全試合テレビ放送をされ、他の球団とは別格のオリオールズ。実力のある沢村だが、オリオールズの風潮には馴染めずアウトロー。そんな沢村が八百長疑惑に巻き込まれ・・・

 プロ野球ファン(しかしアンチ巨人)の私としては、巨人をモデルにしたとしか思えないこの野球ミステリー(と言うよりハードボイルドだ)は非常に面白かったです。アンチ巨人はファンの裏返しと言われますが、それは違うと声を大にして叫びたい! 巨人にも好きな選手は数名いますが、どうにもあの球団の金・金・金のやり方に反発をしてしまうのですよねぇ。まぁ贔屓チームに金が無いだけとも言えるのですが(苦笑)。結局やっかみか?(笑)
 オリオールズに在籍する選手達のオリオールズと言うブランドへの異常なまでの執着が手に取るようにわかります。全てはそこから始まっていると言えましょう。はい。現実もそのようなことがよく見て取れます・・・

 しかしね、おれはもういやになったんですよ。ひざ小僧を抱えて、ずっと壁を見つめるだけの生活は。自分に降りかかった疑惑は自分の手で晴らす、そう決心したんです。

『サウスポー・キラー』 2005.2.10. 水原秀策 宝島社



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