酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2005年01月22日(土) |
『裸者と裸者(下) 邪悪な許しがたい異端の』 打海文三 |
月田桜子と椿子は双子の美少女。海人と出会い、海人の庇護から抜け出し、ふたりで世界に立ち向かって生きていく。悪い事も必要と割り切り、女の子だけのマフィアクループ・<パンプキン・ガールズ>を創り上げる。ふたりの未来に待ち受けるものは・・・
この物語は、いわゆるキャラ立ちしていて成功したのだと思えます。上巻の主人公・海人は悲劇をバネにしたヒーロー。頑張り屋で賢い男の子。今回のヒロインは麗しい双子の美少女。淫乱で奔放で憎めない豪胆さを持っていました。ラストは哀しいけど・・・。上下巻を重荷なく読ませる力はたいしたもんだと感じました。
「不道徳であることと、人権感覚があるってことは、対立した概念じゃないぜ」
『裸者と裸者(下) 邪悪な許しがたい異端の』 2004.9.30. 打海文三 角川書店
2005年01月21日(金) |
『裸者と裸者(上) 孤児部隊の世界永久戦争』 打海文三 |
近未来のアジア各地で内乱が勃発。父を戦争で亡くし、母の行方がわからなくなった佐々木海人(かいと)7歳は、妹・恵(めぐ)と弟・隆(リュウ)を守りながら生きる。しかし、反乱軍に囚われてしまい孤児部隊に入る事に。海人は愛する妹と弟のため、孤児部隊で必死に生き抜き、次第に頭角を現して行く・・・
ものすごい力で引き込まれる文章。戦争ものは苦手な私がとりこまれたんだから素晴らしい力を持っているはず。上巻は海人という少年が成長しながら、素敵な人間関係を築いていく様が生き生きと(と表現するのもおかしいが)描かれている。海人は学校へ行かなかったため、台詞に漢字が少ない。でもちゃんと生きて周りを見て体験してきっちりと学習し成長できる賢い男の子。海人以外もキャラクターたちがいい味だしてて、素敵。素敵。
「かんがえるのがつらくても、かんがえなくちゃならない」海人は厳しい声を出した。
『裸者と裸者(上) 孤児部隊の世界永久戦争』 2004.9.30. 打海文三 角川書店
2005年01月20日(木) |
『人のセックスを笑うな』 山崎ナオコーラ |
オレは19の時に39のユリと出会った。美術の専門学校の講師のユリ。先生としてはどうかと思うが、生徒には人気があった。ユリからモデルを頼まれ、付き合うようになった。だが、ユリは結婚していたのだ・・・
ふーん、こういう恋愛小説が今時は売れるのか(意外)。文字数も多くないし、オレがいい奴なのであっさり読める。でも泣きもしないし、感動するほどでもない。なぜならば私には年齢差の大きいカップルって生理的に考えられないから。だから19のオレをメロメロにした39のユリってすごいなぁとは思う。美人でもスタイルがいいわけでもないのに。は、やはり人間は中味だってことが言いたいのかっ!? でもユリってヘンなおばはんやけどなぁ。よーわからんが、それなりに楽しめました。はい。
しかし恋してみると、形に好みなどないことがわかる。好きになると、その形に心が食い込む。そういうことだ。オレのファンタジーにぴったりな形がある訳ではない。そこにある形に、オレの心が食い込むのだ。
『人のセックスを笑うな』 2004.11.20. 山崎ナオコーラ 河井書房新書
2005年01月19日(水) |
『クレイジーヘブン』 垣根涼介 |
坂脇恭一は旅行代理店に勤める27歳。いたってクールな反面、車上荒らしに遭い、相手を突き止めぶちのめすような執念深い男。その恭一が惹かれた女に関わった時、悲劇が起こり・・・
垣根涼介さんを『ワイルド・ソウル』で絶賛した私ですが、この物語は許せない部分が多々ありました。物語的にはテンポがいいし、面白かったのです。ただ、セックスに関する女性への蔑視みたいな言葉があまりにも出てくるので辟易。そこまで書かなくてもいいのに、とマイナスポイントだったのでした。そんな身体を綺麗にしないでセックスするような女を相手にするほうが悪い、と断言しちゃう。
ヒトの顔立ちは、その本来持っている知的な能力に比例する、と恭一は密かに思っている。潜在能力、と言い換えてもいい。だから磨けば磨くほど光っていく。考え方の方法論さえ身につければ、今見えている世界が、もっと明らかになる。もっと自由になる。
『クレイジーヘブン』 2004.12.15. 垣根涼介 実業之日本社
2005年01月18日(火) |
『PLAY』 山口雅也 |
4つの<遊び>=PALYの物語。これってかなり面白かった。落とし方がブラックと言うか、ホラーと言うか、かなりひどくて素敵(笑)。4つとも良かったけれど、「蛇と梯子」と「黄昏時に鬼たちは」はハイレベル。これを基に掘り下げて一冊の長編にしていただきたいくらい。読んでとくしたわ〜v オススメです。
「蛇と梯子」 インドへ赴任した家族が、「蛇と梯子」というゲームでカウンセリングを受ける事になるのだが・・・ このゲームが、人生ゲームみたいな感じで、ヒートアップする様がよくわかるのですネ。単純なゲームだけどつい盛り上がっちゃうものだから。それを思うので余計に怖い。
「黄昏時に鬼たちは」 引きこもりの人たちが、都会で大掛かりな鬼ごっこをして社会と接点を持とうとあがく。そこで発生した殺人事件・・・ これはうまい。「え」と声が出て完璧にだまされた。現代の闇をうまく描ききったホラーミステリーであります。かなりお気に入りv
『PLAY』 2004.9.30. 山口雅也 朝日新聞社
2005年01月17日(月) |
『聖者の行進 伊集院大介のクリスマス』 栗本薫 |
伊集院大介の愛する『クラブ樹』のオーナー藤島樹。女を愛す美貌の女。樹の店に過去からの訪問者が次々と現れ、樹は事件に巻き込まれてしまう・・・
読まなくてもいいようなものの、読まないでいられない伊集院大介シリーズ。もう『天狼星』を超える事件はないのだろうなぁ。哀しい事です。 伊集院大介は性を感じさせないニュートラルな存在。そしてその彼が惹かれるのは両性を兼ね備えたような者たちばかり。神に愛された特別な者達でもあります。 樹は、自然体で生きているだけで己のカリスマ性を意識しない。一国一城の主として己のスタイルを貫いて生きている。そこがやはり素敵だと感じる。栗本さんが描くゲイは、男性より女性の方がとても魅力的。
『聖者の行進 伊集院大介のクリスマス』 2004.12.16. 栗本薫 講談社
2005年01月16日(日) |
『NO.6』#1〜#3 あさのあつこ |
2013年9月7日、紫苑は12歳になった。その日、紫苑の住む都市NO.6を台風が直撃。超エリートの紫苑は、ずぶ濡れで負傷した少年ネズミを助けたため、さまざまな特権を剥奪されてしまう。聖都市と呼ばれるNO.6から逃亡し、紫苑は本当の自分を模索し、まやかしの都市の実態を知ろうとする・・・。
近未来サバイバルもの、でいいのかな。あさのあつこさんが『バッテリー』とは違う角度から頑張る少年を描かれています。温室育ちのエリート紫苑とサバイバルで野生的な美貌の少年ネズミ(イブ?)。対照的なふたりの少年の心の交流がいいんです。ほろほろしちゃう。ぬくぬくとエリート街道まっしぐらだった紫苑が、ネズミを助けたばかりに脱落してしまう。けれど紫苑はそのことを全く後悔をしない。そこが非常に美しく、すがすがしい。ここまで凛々しいと惚れちゃう〜v 紫苑が辿り着くNO.6の真実っていったい何なんだろう。どきどき。
「絶望しちゃいけない。何があっても、諦めちゃだめだ。絶望して何もできないと諦めてしまったら、本当に負けてしまう。諦めたほうが楽かもしれないけど・・・・・・」
『NO.6』#1〜#3 あさのあつこ 講談社
2005年01月15日(土) |
『火のみち』 乃南アサ |
昭和のはじめ、南部次郎は14歳にして一家の運命を抱えてしまう。病気の母、幼い弟妹。頼りは姉がどこかから仕送りをしてくるわずかな金のみ。母が死に、金に困った南部次郎は谷やんという男に妹・君子を売りとばせと言われ、谷やんを殺してしまう。岡山刑務所で服役し、伊部からきた備前焼作家から陶芸を教えられ、南部次郎と彼を支える妹・君子の人生は大きく動いていく・・・
上下巻に恐れをなし、しばらく放置してあった物語に一気に引きずり込まれ読了しました。昭和から平成へかけた南部次郎と妹・君子の波乱の人生。豊かな時代に育った人間には理解しきれない辛さ・悲しさが詰まっていると感じました。当たり前のように<読み・書き>できる幸せがある。字が読めない、書けないだけで人生は厳しく、楽しむことすらできない。そこで自棄になって努力をやめるか、勉強をするか。そんなことが人生の分かれ道となってしまう時代があった・・・。ものすごくズッシリとしたものを読んでしまったと言う感覚で麻痺しています。
結局、この手で人の生命を奪った事実は、どれほどの時が流れたとしても消えることはなく、法の上での償いを終えた後も、次郎はずっと、その事実を背負い続け、さらにこれまでの人生を、ずっと怯え続けてこなければならなかった。人の言葉に。人の目に。血の色に。雨の晩にー。
『火のみち』 2004.8.3. 乃南アサ 講談社
2005年01月14日(金) |
『グラスホッパー』 伊坂幸太郎 |
妻を殺され(一応、事故死扱い)復讐をしようと頑張っている鈴木と妙な殺し屋たちが風変わりに交差する物語・・・
これを面白いと言っていいのか、どうか悩むところです。いつも残虐極まりない物語も大喜びをしているくせに変ですね・・・。殺し屋達の闘いに巻き込まれてしまう鈴木さんが愛する妻の思い出をあまりにも語るので(それだけが武器なのだろうけど)心に痛すぎたのかしら。
亡き妻はいつだって、自分が忘れられることを恐れていた。
『グラスホッパー』 2004.7.30. 伊坂幸太郎 角川書店
2005年01月13日(木) |
『霧の迷宮から君を救い出すために』 黒田研二 |
杉村亮治は、会社の先輩・米里由希に頼まれ会社の売り物<安心シェルター>へ訪れる。そこで何者かに襲われ、脳に損傷を受け、動くものを認識できなくなってしまう。動くものは霧が発生したように見えなくなってしまったのだ。そして<安全シェルター>で殺人が・・・
なんだか悲しいなぁ・・・読後感はそれでした。黒田研二さんの描かれる世界に触れたとき、せつなく悲しく孤独になってしまうことがよくあります。それだけ人の心の深いところを軽いタッチなのにうまく表現されているからだろうな、と。 当たり前のように見えていたものが、霧の中にいるようにしか認知できなくなったとしたら、ものすごく孤独でしょう。そこで必要なのは愛する人、愛してくれる人なのに。うまいけど悲しすぎるエンディングでした。
「いまどき三流のミステリ小説でも、そんな陳腐なトリックは登場しないと思いますよ」
『霧の迷宮から君を救い出すために』 2004.10.25. 黒田研二 ジョイ・ノベルス
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