2002年06月15日(土)
「そんなことを繰り返すのなら、もうきみに自由はやらない」 御手洗はベットにいる石岡に目を合わせて言った。 なぜかしら強い口調になって自分でも驚いている。 相手の石岡は意味がわからず、ただ御手洗を見つめ返していた。 だが先ほどのように、目をそらしたり隠したりはしていなかった。 「ぼくはたしかに好きなことをしているように、きみは思うだろう。しているさ! だからといって、どうしてそれがきみがぼくの一番ではないと思うんだ? そんなにぼくを想ってくれているらしいのに、どうしてぼくの気持ちは解らないんだ」 「あの……」 言っている内にそれが唯一の真実のように思えて、御手洗はことさら強い口調になっていった。それに怯えたように、石岡は子供のようにおどおどと口を挟んだ。 「だから……もう、いいって……言ってるんだけど…」 「ばか言うんじゃない! なにがもういいんだよ! きみがいなくなってちっともいいことなんかないよ、ぼくは! なにが外国は嫌いだよ。さっさと支度したまえ! このまま連れて行く」 「……え……?」 「起きられるだろう。そんなに余計なことを考えるだけなら、側から離さないから支度したまえ、すぐにだ!」 「え、ちょっと、御手洗」 「怒ってるんだよ、ぼくは」 「……え…………」 「こんなに時間が無いときにわざわざ帰ってきて、あげくに迷惑がられて、わけのわからないわがままを言われて友人には詰られて。それだけ口が利ければもう点滴なんて必要ないだろう。立ちたまえ」 「え……あ、ごめん………。ええと……」 御手洗のあまりの勢いに、なんだか石岡は答える言葉も状況も理解できなくて口ごもってしまった。 「ぼくの一番がいいんだろう? いいじゃないか。その意味をわからせてあげるよ」 石岡は黙った。御手洗が怖かったのだ。なんだかとんでもないことを喋ってしまったような気がする。いや、喋った。考えていた。考えて煮詰まってとんでもないことをしてしまった。自分は御手洗というものを、忘れていた。 ようやく石岡は、こだわっていた世界から外に目を向けることが出来た。そしてベットの上に起きあがった。 「御手洗」 「なんだい、石岡君」 「ごめん。そして、ありがとう」 「ふん」 「なんだか、すっきり目が覚めちゃって。勝手言ってごめん」 「そう。じゃあ、支度して」 「え」 「冗談を言ってたわけじゃないんだ。ぼくもよく解った。きみは一人にしておけない」 「…あ、いや……あの、いや、大丈夫だから、御手洗」 「大丈夫というのは自分に対してだろう。ぼくに対してじゃない。時間はあまりないんだ。つべこべ言わずに一緒に来たまえ」 変わらない強い口調のままだったので、石岡は一瞬唖然とした。 御手洗は、怖い。こんなに威圧感があっただろうか。どこまでが冗談なんだろう?本気であの北の国に連れて行かれるんだろうか。行った方がいいのだろうか? それがはたして自分の望みだったのだろうか? 石岡はしばし真剣に考え込んだ。 なぜ、一番がいいと思ったのだろう。彼の一番は最悪だ。取り返しがつかないかも知れない。どうしよう。一緒に暮らしているときにそう思ったことがあったのではなかったか。 おずおずと石岡は御手洗の顔を見た。 「おいで」 うって変わって御手洗が優しい声を出した。完全に手の内だ。 そうだな。行ってみようか。考え込むだけが人生ではないし。 彼はぼくをその気にさせるのが本当に上手い。溜息が出そうになるのは、疲れたからか呆れたからか嬉しいからか。 石岡は御手洗に笑いかけてみた。 「じゃあ、この点滴をまず、抜いてくれるかい」 「きみにしては上等な判断だ」 特有の顔でにやりと御手洗は笑い、それが何故か安心した表情に見えて、石岡は不思議な面持ちで管の付いた右腕を差し出した。自分の未来を無条件に差し出したような気分だった。
終
―――――だけどそんでこのあとどうなんの???(大笑)―――――
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