夏撃波[暗黒武闘戦線・歌劇派]の独白

2004年02月09日(月) 「狂風記」etc.

 午前、銀座・ニコンサロンに、小林伸一郎写真展を観に行った。「廃墟」の写真を撮り続ける小林だが、今回の写真展では「軍艦島」が取り上げられていた。「廃墟」という場所が放つ不思議な空気が、写真からも感じられた。

 午後、アートスフィアで上演の『狂風記』を観に行った。石川淳の長編小説(原作は読んだことはないけど、石川淳『焼け跡のイエス』は面白かったよ)が市原悦子主演で舞台にかけられるという。そこに、「大駱駝艦」(「暗黒舞踏」の)や「花組芝居」(「ネオ歌舞伎」の)の役者も絡むとあって期待はふくらむ。それでもって、私の席は「特別舞台席」、つまり「舞台上」にあり、役者はすぐそこに見える。ただ、後ろ向きの角度で見ることが多いのだけれど。
 この芝居、やや難解で、市原を観に来たとおぼしき年輩の方々には評判がよくなかったようだ。わたしは、そこそこ面白く観られたけどね。「大駱駝艦」や「花組芝居」の役者が加わったことで芝居の幅が広がったことは確かだし、市原も好演していたと思う。というか、市原は舞台でこそ輝く役者ではないかと感じたね。ただ、石川淳の世界が十分に表現されたとは言い難いように思われたね。

 終演後は東京駅へと向かい、おにぎり等を買い、「のぞみ」に乗り込んだ。明日からまた日常に戻っていくが、満ち足りた気持ちで名古屋に戻ることができた。今回の観劇旅行での何よりの収穫は、H・アール・カオスのステージを観ることができたこと、かな。それと、女子格闘技のしなしさとこ選手の闘いぶりには「アート」を感じたね。
 旅は終わった・・・。けれども、次の旅をまた思い描いてしまう私であった。



2004年02月08日(日) 「KASANE」、女子格闘技etc.

 午後2時から下北沢・本多劇場で上演の、THEガジラ公演『KASANE』(鐘下辰男・作・演出)を観た。鶴屋南北の「かさね」をモチーフとした作品、そして若松武(かつて「天井桟敷」の役者でもあった)が出演するとのことで、ぜひ観てみたいと思っていた。
 民間伝承としての「累(かさね)伝説」とそれに題材をとった南北の『かさね』、そのいずれにおいても語られることのなかった隠された真実があったのではないか。鐘下は『KASANE』のなかでそう問いかけ、日本の村落共同体の、日本社会の体質を追及しようとした。そこに「差別」や「戦争責任」などの問題も浮き彫りにされる。面白くはあったのだが、やや理屈っぽさが鼻につく感じがあってあと一工夫ほしいところだった。

 終演後、急いで「ディファ有明」へと向かう。そこでは、女子格闘技イベント「ラブ・インパクト」が旗揚げ興行を行っている。
 午後5時すぎに「ディファ」に到着、すでに「第3試合」まで進んでいた。
 「第4試合」の「フルコンタクト空手マッチ」から観戦する。17歳の女子高生ファイター・小林由佳選手が松川敬子選手を判定で破った。勝利がコールされると、小林選手は試合中の真剣なまなざしとはうって変わって、あどけない表情に満面の笑みを浮かべた。
 「第5試合」、セミ・ファイナルは、女子プロレスのAKINO選手と、2003年スマックガール・ミドル級チャンピオンの菊川夏子選手の一戦。1ラウンド51秒、AKINO選手の右ストレートが菊川選手にヒットし、KO勝利。総合格闘技って、ホントあっけなく終わってしまうんだよな。
 さてさて、本日のメイン・イベントは、サンボ世界選手権銅メダル、総合格闘技負けなしの14連勝中という実績を持つしなしさとこ選手に、永易加代選手が挑む。1ラウンド3分17秒、しなし選手が腕ひしぎ逆十字固めを決め、永易選手を破る。これで連勝を15にまで伸ばしたわけだ。
 その後、しなし選手の祝勝会場になだれ込み、ほろ酔い気分で新宿のビジネスホテルに戻っていった。
 まだまだ発展途上の女子格闘技だが、しなし選手らの活躍とともに、どんどん盛り上がってくることを期待したい。



2004年02月07日(土) ピンク・フロイド・バレエ、H・アール・カオスetc.

 宿直明けの今日、ちょっとだけ自宅に寄ってから、東京へと出発した。またしても、東京観劇旅行だ。

 まず、今日の1本目は、NHKホールにて3時開演の『ピンク・フロイド・バレエ』だ。ピンク・フロイドの音楽(一時期俺もピンク・フロイドにはまった)に乗せてのバレエの上演、ローラン・プティの振付で牧阿佐美バレエ団がステージを展開する。草刈民代、上野水香といった日本を代表するバレリーナも出演するということで、期待が高まる。
 実際はどうか。確かに技術的なレベルの高さは感じたのだが、何か物足りなかった。ピンク・フロイドの音楽に拮抗するだけのバレエが観られなかった気がする。ローラン・プティの振付があまり好みではないということなのかもしれないけど。でも、群舞の振付は面白く感じられたし、公演のなかで群舞(『吹けよ風、呼べよ嵐』)はなかなか迫力があった。まあ、逆に言えば、ソリストの踊りはあまり印象に残らなかったわけで、それじゃまずいよね。俗っぽいことを言ってしまうと、チケット代1万3千円はちと高い気がした。

 さて、公演後夕食を済ませて、世田谷パブリックシアターへと向かう。そこでH・アール・カオス公演『人工楽園』を観る。コンテンポラリー・ダンスの公演だね。
 これがとにかく凄かった。面白いを通り越して、俺には<衝撃>だったね。
 ダンス・テクニックの高さといい、力強く烈しい動きといい、官能性あふれる美的センスといい、奥深い物語性を感じさせる構成力・演出力といい、とにかく圧倒されっぱなしの70分だった。「他の追随を許さない」という言葉がふと頭に浮かんだ。H・アール・カオスのステージ、ぜひ体験してみてほしい(またしても俗っぽいことを言ってしまうが、チケット7千円がとても安く感じられた)。
 こんなステージを観てしまうと、もう生半可な芝居やダンスは観られないよな。余韻に浸りながら、新宿・歌舞伎町のビジネスホテルへと向かった。



2004年02月05日(木) パリ・ルーヴル美術館の秘密

 今池・シネマテークにて、映画『パリ・ルーヴル美術館の秘密』を観た。
 所蔵点数約35万点、常設展示されているものだけでも約3万6千点という「美の迷宮」ルーヴル美術館。華やかな展覧会は多くのスタッフの仕事によって支えられている。美術館において主役は美術作品、スタッフは黒子に徹する。その仕事の多くはハードな肉体労働だ。そうしたスタッフの仕事があって初めて美術作品が私たちの目に触れることになるのだ。
 まあ、演劇にしてみても、裏方の存在なくしては成立しないよね。表面には現れてこない裏方の人々の息遣いに触れてみることで、また違ったものが見えてくる。 美術館の「裏側」にカメラが入り、そこでの「現実」を切り取ってみせる。この映画は、とても貴重なドキュメンタリー作品となった。



2004年01月31日(土) 中西和久、山田うん、甲野善紀etc.

 今日、東京日帰り観劇旅行を敢行した。

 まずは、両国「シアターX(カイ)」にて、中西和久ひとり芝居『をぐり考』を観た。『をぐり考』は中西演ずるところの「説教節三部作」のひとつで、今回は再演だ。「説教節」は、中世以後口伝えに伝わってきた民間伝承の語り物で、「小栗判官」の物語は代表的なもののひとつである。今回の公演では、邦楽の生演奏もあり、舞台に花を添えた。
 とにかく「小栗」の物語じたいが面白い。歌舞伎や浄瑠璃でも演じ続けられてきた物語だが、今日にあっても独自の演出で取り組もうとする者は少なくなかった。例えば市川猿之助、例えば横浜ボートシアター・・・。調べてみたら、結成当初のスーパー一座も一度「小栗」をやっているみたいだ。中西の『をぐり考』も悪くはなかったが、それも元々の「小栗」の面白さに起因していると思うよ。この物語の面白さを理解していただくにはかなりの紙数を費やさなくてはならないだろうから、敢えて物語の説明はしないでおくけどね。これは芝居を観るなり、本を読むなりしていただいたほうがよさそうだよ。むかし横浜ボートシアターが上演した『小栗判官照手姫』がもの凄く面白かったんだけど、ね。時代を越えて多くの人々によって語り継がれてきたというところに強みはあるんだろうな。

 夕方、三軒茶屋「シアタートラム」にて、山田うん独舞公演『テンテコマイ』を観た。
 山田は、7歳の頃から民謡踊り、器械体操、新体操等で活躍していたが、13歳の時に膠原病慢性関節リウマチが発病しリタイア。だが、心身のリハビリのためモダンダンスを始め、それが今日の山田の踊りにつながっていくことになる。どこかぶっきらぼうな、醒めたような表情で踊る山田だが、時々刻々と変化し続け、やがてその独特な世界に引き込まれていく。初めは踊りらしからぬ動き、けだるそうな動きから入り、そこから「運動」とも「踊り」とも「戯れ」ともつかぬ動きになったり、変幻自在に動く。いい具合に力が抜けていて、コケティッシュな部分もありながら、山田の作りだす空気はとぎすまされた感じがする。暗黒舞踏の影響も受けたであろうが、そこに縛られない自由な踊り。とても新奇なイメージだ。当分の間山田うんのダンスから目が離せないゾ。
 公演後、古武術の甲野善紀と山田うんの対談があった。いろんな話があったが、甲野の言ったあるひとことが印象に残っている。「昨今、『身体』ということに大きな関心が寄せられてきているが(例えば、総合格闘技の隆盛など)、それは逆に『身体』に対する危機感の表れではないか」と、大体そのような趣旨のことを語っていた。

 「のぞみ」でとんぼ返り、帰宅したのは0時近く。明日は、宿直入りだというのに。やれやれ。



2004年01月29日(木) 氷上の格闘技

 仕事が終わってから、名古屋市総合体育館レインボーアイスアリーナに急行。日本アイスホッケーリーグ「王子製紙vs日本製紙クレインズ」の試合観戦をした。現在進行中のフジテレビの連ドラ「プライド」でキムタクや坂口憲二らがアイスホッケー選手を演じている(らしい)ということもあってか、アイスホッケーも多少は注目されているみたいだ。とはいえ、日本でアイスホッケーはマイナーなスポーツだよね。
 俺、アイスホッケーを観るのは今回が2回目。最初に観たのが大学時代だから、およそ15年ぶりか。えっ、もうそんなに経ってしまったのか(ちょっとショック!)。
 観る機会は少ないけど、俺、アイスホッケー、大好きだよ。あのスピード感といい(F1のレースでも観ているかのよう、とか言いながらF1を観たことはないんだけど)、動きの激しさ(まさに「氷上の格闘技」)といい、たまらないね。でも、あまりに目まぐるしくいので、気をつけないと瞬きしてる間に得点入ったりするんだよね。つまり、目が離せないってこと。
 あと、選手同士でエキサイトして乱闘になったりもする。今回も(すぐ収まったけど)3回ほど小競り合いがあったよ。「火事と喧嘩は江戸の華」ってわけでもないだろうにね。
 今日の試合、8対4で王子製紙の勝利だったけど、勝敗よりもゲームの面白さで十分楽しめたね。名古屋ではなかなか観る機会は少ないと思うけど、一度ぐらいは観て損はないと思うよ。
 とか言ってるうちに冬も過ぎていくのかな? ウィンタースポーツもやってみたいな。と言っても、普通のスキーやスノーボードはあまり興味がないんだ。今いちばんやってみたいのが、山スキー(というか、ここ3年ぐらい関心を寄せているのだが)。あと、わかさぎ釣りとかも冬場だよね。とまあ、冬は冬の楽しみがあるってことなのさ。



2004年01月28日(水) 旅から旅

 今日は、今池・シネマテークで映画2本を観た。

 まずは、連句アニメーション『冬の日』。生涯を旅に生きた俳人・松尾芭蕉の連句『冬の日』が国内外のアニメ作家35名の競作によって新たな生命を吹き込まれた。それぞれの作家が前の句を受けながらも独自の解釈と手法によって芭蕉の世界に対峙しているのが、映像のなかからうかがえた。ユニークな試みであったが、とても面白く鑑賞できた。

 その後で、ミカ・カウリスマキ監督のドキュメンタリー映画『モロ・ノ・ブラジル』を観た。ブラジル音楽の源流を探る旅のなかで、各地に暮らす人々と出会い、そこに息づいている多種多様な音楽と出会う。情熱に満ちあふれた音楽と、人々のみなぎる生命力。音楽は人々の生活に密着し、時に激しく魂を揺さぶり、時にやさしく心に沁み入ってくる。思わずスクリーンに見入りながら、音楽に身体を揺さぶってしまう私であった。



2004年01月27日(火) マイブーム2004冬(その2)

 「女子格闘技家・しなしさとこ」の巻

 毎週月曜日の25時58分から26時28分までテレビ愛知(テレビ東京系)で女子格闘技番組「肉力強女」(司会・テリー伊藤)が放送されている。その番組に毎週出演している現役ファイター・しなしさとこ選手に注目しているところだ。
 サンボ(ロシア発祥の格闘技)の世界選手権で銅メダルに輝いた実績もあるしなし選手、女子格闘技デビュー以来負けなしの14連勝を飾っており、「PRIDE」への参戦も取りざたされている。軽量級のしなし選手、対戦相手がなかなか見つからないというのが悩みではあるようだ。でもね、彼女のきびきびした動き、ひたむきな闘いぶりはとてもすがすがしく、一遍にファンになってしまったという次第だ。
 プロレス&格闘技から目が離せなくなってしまった私、ヒョードル選手(現在「PRIDE」の頂点に君臨している)なんかも好きだけど、女子格闘技界のトップをひた走るしなし選手に大いなる期待を抱いている。



2004年01月26日(月) マイブーム2004冬(その1)

 「詩人・塔和子」の巻

 マイブームは数々あって、それはもう節操もないくらいに。でも、いいものはいいのだからしょうがない。今年は、マイブームを随時紹介していこうと思うが、今日はその第1弾。詩人の塔和子さんだ。
 塔さんは元・ハンセン病患者として瀬戸内海の小さな島にあるハンセン病療養所に入所してられるが、数年前に詩が高く評価され高見順賞を受賞している。残念なことに詩集は書店にはあまり出回っていないようだが、とてもいい詩がたくさんある。ハンセン病療養所に住まう人達のなかには、本当によい詩や俳句・短歌を詠まれる人も少なくない。過酷な状況に身を置いた人にしかできないであろう表現がひしひしと伝わってくるのだ。そのなかで特に塔さんの詩は素晴らしいと思う。
 そういえば、先頃塔さんの日々に密着したドキュメンタリー映画が完成し、全国で上映会が開かれているとの話もある。詳しい情報は得ていないが、それもぜひ観てみたいものだ。
 今日は、塔さんの詩を1篇だけ紹介するので、味わってみてほしい。題は、「雲」。

  意思もなく生まれた ひとひらの形
  形である間 形であらねばならない痛み

  風にあおられて 流れる意思もなく流れ
  出合った雲と手をつなぎ
  意志ではなく へだてられてゆく距離

  叫ぼうと わめこうと
  広い宇宙からは かえってくる声もない

  そして 消える意志もなく
  一方的に消される さびしさを ただようもの



2004年01月25日(日) テーマは「反戦」&「ハンセン(病)」

 今日は、詩の朗読会「ぽえ茶」の日。まずは、ハンセン病療養所入所者・塔和子さん(高見順賞受賞詩人)の詩を3篇読む。塔さんの詩って、心の深い部分に自然としみこんでくるような、何度読み返してもその度に新たな感動が湧き起こってくるような、そんな素晴らしい詩なんだよね。いい詩はいっぱいあるけど、そのなかから「苦悩」という詩を紹介しよう。

  私のなかで/おまえによらないで産れるものはない/
  おまえの土地/おまえの海の中から/
  私の花は咲く/私の明るさは満ちる/
  おまえを深くもつことによってのみ私であり/
  周囲の色彩が華やかだ/
  苦悩よ/私の跳躍台よ/
  おまえが確かな土地であるほど/私は飛ぶ/
  深い海であるほど/私は浮き上がろうとする/
  そしておまえは/
  私がどこまで跳ねても/もどってくる中心/
  おお/なれ親しんだ顔/
  いつの場合もそんなことをして楽しいかと/
  私の中をのぞく/奧の奧なる声よ/
  私を救うものはただひとつ/おまえであるような/
  それでいて/おまえは決して私を安らわせてくれない/
  私の/黒い土地/黒い海

 いい詩でしょ。塔さんの詩に、私、かなりはまってるよ。今年は、塔和子ブームを私の周辺から起こしていこうと思ってるんだ。
 2巡目は「ちいちゃんのかげおくり」という絵本を朗読。「反戦絵本」と呼ぶべき物語だ。
 3巡目では、辺見じゅんさんのノンフィクション作品『戦場から届いた遺書』のなかで紹介されていた特攻隊員の「遺書」を朗読した後、即興で「永遠のさようなら」という詩を詠んだ。

 今日の「ぽえ茶」、いつもの参加者の他に、高校の現代文の先生がいらして「国語」の授業さながらの詩の朗読をされた。なかなか新鮮で面白かった。


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