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海老日記
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2007年11月20日(火)
伯爵日記・伯爵とビーム5人衆・4


 例えば、正体を隠し闇にまぎれて戦う正義の味方。なんて話は昔からある。
 読者は物語を横から見れるから感情移入もできるだろうし、正体わかってるからまどろっこしい反応にやきもきすることもできるだろう。
 けれど、実際にそういうものがあるとしたら。
 きっと、何にも知らないところで始まって、何にも知らないところで終わるんだろう。だって、一般市民にそうそう正体が割れてたら鼠小僧も怪傑白頭巾もプルトップ星人も仕事できねーもん。

 先日、プルトップ星人という宇宙人と会話をした。
 なんでもすでに地球にはよその星から宇宙人がいっぱいきてるらしく、日当のバイトしたり、学校に来てたり、プルトップ星人のように得意のビームを売ってたりするという。
 で、知り合いになった姉弟の話を聞くと、プルトップ星人と仲の悪いフラストレーション星人がなんか地球征服に頑張ってるらしく、プルトップ星人は総がかりで戦っているのだそうだ。


「そういうわけで、お姉ちゃんはフラストレーション星人の親玉透明人間X伯爵に似ているカンテラさんを襲ったのです。ごめんなさい」
「……えー」
 正直、そんな秘密告げられても反応に困る。


 何の前振りもなく宇宙人だのビームだの。
 この海老銃日記ってそういうジャンルじゃなかったのに。

「突然の設定すぎるなあ」
 と呟くと弟くんが
「そりゃまあ、現地民には秘密ですから」
「僕も地球人なのですが……」
「というわけで秘密にしてください。さもなくば姉があなたにえぐいビームを撃ち込みます」
 おい、さっきと言ってること違うじゃねーか。

 すると姉のほうも
「もうお会いすることもないと思いますし、そんな世迷いごと人に話しても信じてもらえませんから」
 言いやがった。自分らのこと世迷いごとって。

「それじゃあ、仕事があるので帰ります。ご迷惑をおかけしました」
 いいえ。
「あの、一つ訊きたいのですが、どうしてプルトップ星人さんは地球を守るサイドなんですか?」
 二人は声を揃えて
「地球、結構好きなんです」
 と言ってくれた。

 なんだろう。きっと僕のいる位置はすでに2クールくらい終わってあの姉弟のキャラ付けが終わった時に出てくるキャラクターみたいなもんなのかな。
 きっと二人もあんなこっぱずかしい台詞を平気で言えるエピソードを積み重ねているのだろうなあ。なんて冷めた目で見てしまった21の冬。

 どうやらビーム編もこれで終われるかな。






 なんて思っていた時期が、僕にもありました。


 



2007年11月01日(木)
伯爵日記・伯爵とビーム5人衆


「ご迷惑をおかけしました」
 街角でいきなり『えぐいビーム』を撃ってきた女の子は誤解が解けると普通に謝ってくれた。
 よかった、一応話の通じる人らしい。
「ごめんなさい。ぼく弟のことになると頭に血が昇っちゃって……」
 一人称が僕の女の子に会うのはこれで二人目だ。意外といるもんだなあ。

「いえ、幸い怪我もしなかったし、僕のことは忘れてください。ではおさらばです」
 僕はそろそろこの場から離れたかったので別れの言葉を切り出した。
 すると、それまで申し訳なさそうにうつむいていたあの男の子の方が僕に問いかけてきた。
「あの、何も聞かないんですか?」
 まあ、普通は知りたいんだろうなあ。
「他人の事情ってあんまり興味ないんです。誤解が解けて、僕がもうビーム」
「えぐいビームです」←姉の方
「そのえぐいビームで撃たれる心配がなくなったんなら、別にいいかなって」

 本当のところは半分はそろそろおなかが減ったから帰りたいであり、もう半分はそういうことであったけれども。



「できれば、今あったことは、秘密にしてもらえないでしょうか」
 少年はそういうけれど、先月寝冷えビーム売ってたのに……。
「僕たちプルトップ星人は地球では、商業目的以外でのビームは禁止されているんです」
 ああ、つまり弟の敵討ちにビームを撃つのは駄目なんだ。
「それなら大丈夫ですよ。僕はどこに申告すればいいのかも知らないですし。っていうか、弟くんですよね、ビーム撃てなくされたって怪我でも負わされたのですか?」
 それはちょっと心配だった。
「いえ、大丈夫です。『骨バキバキビーム』を指に当てられただけですから」
 そいつもビーム撃つのかよ。
「あの、今更ですけれど、最近はビーム撃てたり宇宙人だったりって、普通のことなんですか?」
「はい、地球には今350名のプルトップ星人が出稼ぎに来ているのです」
 ふうん。じゃあ
「あなた達お二人もその、プルトップ星人なわけですか。まあ、ようこそ地球へ」
「ありがとうございます」
「でも、その透明人間X伯爵もプルトップ星人なわけですか」
「いえ、伯爵は高知県を支配するためにやってきたフラストレーション星からやってきた悪人です。寝冷えビームを使える僕を仲間に引き込もうとしたのですが、拒否したら……」
 ひどいことをするもんだなあ。さすが悪人だ。
 でも僕だったらお姉ちゃんの方を誘うけれども。
 えぐいビームとか、頭に血の昇る性格とか……。

「でも、あれですね。水面下で高知県危ないことになってきてるんですね。僕にはあんまり危機感の感じ取れない話ですが」



 つまりあれか、プルトップ星人は出稼ぎ労働者で、フラストレーション星人は外国のギャングみたいなものか。



「あの、もう一つだけ教えていただいてよろしいですか? お二人学校行かれてます? その制服とか」
「ああ、これですか。ホームステイ先の三井さん宅の娘さんの服を借りてます」
 もうちょっと、普通な服借りればいいのに。


 



2007年10月31日(水)
伯爵日記・伯爵とビーム5人衆・2


「くらえ伯爵! えぐいビーム!」

 色々とツッコミどころの多い台詞の後、まつげ辺りからまばゆい光を放たれた。
「うあっわ」
 なんとか避けることができた。昔からドッジボールなども結構最後まで残ることができたりした。そういう微妙な運動能力には定評のある伯爵である。
 いきなりビームを放ってきたのは誰かと撃ってきた方向を確認すると女子中学生だった。

 一応、近くの中学校の制服着てる女の子だから、女子中学生なのじゃないだろうか。
「ち、避けやがった」
 そんな台詞、僕は聞きたくなかった。
「ちょ、タンマタンマ」
「何だ!」
 そこで「問答無用、死ねー!」とか言われなくてよかった。
「あの、なんで僕にビーム」
「えぐいビームだ!」
 ああ、そうかい。なんだよその効果が最悪なのだろうけれど実際どういうことになるのか予想しにくいビームは!
「その、えぐいビームとか浴びせようとするんですか?」
 年下っぽい子にも敬語なのは僕の癖であり、びびってるからとかではありません、多分。
「うるさい、お前がぼくの弟をいじめた透明人間X伯爵だろ!」
 畜生、どこからツッコミいれたらいいんだよ」
「あの、まず僕は透明人間X伯爵じゃなくてカンテラ伯爵です」
「嘘をつくな。弟が言ってたぞ。弟を寝冷えビーム撃てなくしたのは肩幅が大きくて坊主頭の牛乳瓶の底みたいな眼鏡した、作務衣の男だってなー!」
「いや、この広い地球、そんな人間いっぱいいるでしょう」
「でも、この南国市にはお前しかいないぞ! だから死ねー!」
「えー! 何、『えぐいビーム』って当たると死ねるビームですか?!」
「当たったものがえぐい形になるまで破壊するビームだ!」
「なんでそんな夢も希望もないビームまつげから出すの! いやまずこの状況がおかしい!」
「うるさい! 弟だけでなく僕のビームまで馬鹿にするな!」
 なんだよこれもう。


「待って! お姉ちゃん。その人じゃないよ」


 声のする方を見ると、先日僕にビームを販売しようとした、あの少年だった。
「お姉ちゃん、その人は普通に接してくれた、ただの地球人だよ」
 

 こんちくしょう、またそれ系の話かよ。