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海老日記
管理人(紅鴉)
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2007年07月20日(金)
伯爵長編・カンテラ伯爵と透明人間Z・6


 僕とそっくりなもう一人の伯爵というあだ名の人も気になるっちゃあ気になったけれど、別にわざわざ確認に行くほどの興味はわかなかったのでそこは無視することにした。


 けれど、佐々木女史とは毎日会った。
 会った、というかたまたま食堂とか学校の中とかで見かける程度だけれども。
 やっぱり佐々木女史はいつものように真っ黒な服を着てカレーを食べていた。そんなにカレーが好きなのだろうか。

 ぼんやりと鳥ポンから揚げを食べていた僕は、その日ちょっと目を疑った。

 佐々木女史の隣に、僕がいた。


 いや、僕じゃあない。
 格好が若者風で、髪も茶髪だった。
 顔も違うはず。
 でも体型というか、なんか見た目が似ていた。

 すごく好感度よさそうな笑顔で佐々木女史と喋りながら食事している。
 とても会話の途中で松雄芭蕉忍者説を話題にあげたりしないような、まともそうな人だった。

 彼が、Z伯爵らしい。


 
 彼の方が格好いいぞ。


 食事が終わり、盆と食器を片付ける時、わざと佐々木女史の横を通ってみた。
 全然気づいていなかった。
 
 この時は、流石に僕が透明人間だった。


 



2007年07月18日(水)
伯爵長編・カンテラ伯爵と透明人間Z・5

 なんだか、話の脈絡もないけれど、つまりこれは僕が大学一回生になってすぐの話なわけだ。

 その当時まだ文芸創作サークル海老銃というもののことも知らずにのんきしてた一青少年で、ヘルレイザー鎌足だのリルリルだのなんてことを日記に書かなくちゃいけないような不思議の国の住人でもなかったから、変わった女の子にあだ名を呼ばれても、なんだかいぶかしむだけだった。


 気持ちの悪い子だなあ、と勝手に思っているだけで(まあ僕も、人のこと言えるほどまっとうな男の子でもなかったけれど)だからそれで終わりだった。




 はずなんだけれども。


「よう、伯爵」
 振り返ると、知らない人だった。
「これから授業?」
「いえ、今日は終わりで、これから晩御飯の買い物に行こうかと」
「今日クラスの飲み会やろ?」
 そうだっけ? っていうか、あなた誰?
「じゃ伯爵よろしくな」
「はあ……」


「伯爵おはよう」
「おはようございます」
「なぜにそんな丁寧語?」
「そういうキャラで売っているので」
「ちょっとウケルんだけど」
 そんな言葉使う人初めて見た。


「伯爵、次の教育心理学概論ってテストいつだっけ」
 僕その講義とってないんですけれど。



 といった感じで、見知らぬ人に最近できた伯爵というあだ名で呼ばれることが増えた。
 なんだ? 僕はそんなに有名人か?

 


 と思っていたら、新しく友人になった教育学部の海老原という男が教えてくれた。
「ああ、俺のクラスに伯爵ってあだ名の奴いるぜ」
「マジで?」
「マジで。ついでにお前と顔似てる」
 そういうことか。
 つまり、あの透明人間っぽい女の子も、教育学部なのか。



 



2007年07月17日(火)
伯爵長編・カンテラ伯爵と透明人間Z・4


 透明人間っぽい女の子、佐々木女史になんでこちらを見てるのか? と質問されて、僕はどう答えようかと少し首を傾げた。

 正直、変な格好してるなーと思ったからである。
 ゴシックな格好(たぶん、ゴスロリとは違うんだと思う)をした大学生が食堂でカレー食ってたら奇異の眼で見るだろう。

 しかし、正直にそう言っては相手を怒らせてしまうんじゃないだろうか? そういう常識的な回答が頭に浮かんだので「いや、特に。たまたま」と答えることにした。


 ただ、そこまで思い至るのに三秒くらいかかってしまった。

 その三秒は彼女には僕が言い訳を考えていると思わせるに十分な時間だったらしい。

「嘘くさい」

 言われてしまった。まあ、嘘だもん。
 こう言う時は正直に、オブラートに。

「いや随分とお洒落な格好だから」
「変だと思ってたんでしょう」

 いえ、透明人間みたいだとか思っていました。
 しかし、そのまま言ったら僕がイタイ子になる。
 というか、この人はどうして見ず知らずの僕にこんなになれなれしく話しかけるんだろう。
 最近の女の子って、こんなにフランクなのか?

「伯爵こそ、その格好随分とお洒落やん」
 作務衣が?
 ああ、でも最近の女の子は変わったものやゲテモノを可愛いとか表現するからなあ、と捻じ曲がった女性観の僕がぼうっとしている時間も、言い訳を考えている時間と思われたのか、佐々木女史(その当時は名前など知らなかったけれど)は会話を打ち切った。

「じゃあ、またサークルでね」
「はい、それでは」


 ううん、うまく会話できなかった。
 しかし、僕はあの子と同じサークルに所属していたっけ?
 でも、『伯爵』という僕のニックネームを知るくらいだから、そうなのだろう。
 実はあんまり人の顔を見て話をしない僕はけっこう友人の顔でさえよくわかっていない。もしかしたら、知らないだけで、同じ団体にいる人なのかもしれない。そういうの、頓着しないし。






 しかし、疑問。
 その当時、カンテラ伯爵はまだサークルというものには所属していなかったのだ。
 あの人は、一体何のサークルの話をしていたのだろう。