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2007年03月22日(木) ■ |
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伯爵と25のシチュエーション |
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スーツ姿の男が、花束を持って待ち構えている。 次にこんなシチュエーションに出会えるのは、プロポーズされる時くらいだろう。しかし、それも一体何十年後の話だろう。 「T先輩、卒業おめでとうございます」 スーツ姿の男は自分にその花束を差し出した。
「ありがと」 受け取る。 受け取って、喋ってみた。 「似合わないね花束」 「いえ、とてもお似合いです」 「君に似合わないね」 「……そうですね」 この男は何を言っても笑うなあ。 なんて思って、彼女は続けた。 「でも、こんな日くらいなら、誰でにでも花が似合うね」 スーツ姿で、花束を持って待ち構えていた男は、そこで泣いた。
「ちょっと、そこは私が泣くとこなんだけれど……」 花束を肩に担ぎ、彼女は空を仰ぎ見た。
桜前線は、遅刻している。
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2007年03月15日(木) ■ |
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伯爵と25のシチュエーション |
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「Sくん、まだいたんだね」 「ああ、伯爵か」
「Sくん、結局どうするんだい?続けるの? やめるの?」 「なんでそんなにしつこい」
「気になるじゃない、友達として」 「そっか……」
「続けることにしたよ」
「へえ。なんで?」 「さあなあ。今日T先輩と話しててな、まだ、俺にも後輩に伝えられること残ってるんじゃないか、と思って。そうしたら、少しやる気が出た」
「忙しいよ? できるのかい?」 「できなくはない。ただ」
「ただ?」 「不安だ」
「大丈夫さ、君はこのカンテラ伯爵の友達だ。きっとうまくいく」 「その言葉のどこに説得力があるんだ?」
「でも、少し安心したでしょう?」 「……うん、って言ったほうがいいのか?」
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2007年03月13日(火) ■ |
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伯爵と25のシチュエーション |
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カンテラ伯爵は憤慨した。 「僕の家は駆け込み寺じゃないのだよ、わかってるかねR」 「わかってる……けれど」 「けれどじゃないのだよ。僕は晩御飯の最中だったというのに、食事の時間まで邪魔されては、仏のカンテラとてご立腹だよ」 「……ごめん」
カンテラ伯爵はため息をついた。 「まあ、そんな君に『それでもいい』なんて言ってあげられるのは、僕くらいなものか」
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