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2007年01月25日(木) ■ |
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伯爵と25のシチュエーション |
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「伯爵、そんな顔してたらみんなが心配するよ?」 そうは言われても、僕だって辛い時はあるのですよ。 「なんで?」 なんで、って。そりゃ思い入れが強かったからでしょう。 「……」 はぁ。 「ごめんね」 ……え、何が? 「伯爵は辛い時にいつも助言をしてくれるのに、私は何も言えなくて」 僕が落ち込む時なんてそうないですよ。 「今じゃん」 ……。 いいんですよ、いてくれるだけで。(落ち込んでいるのは僕なのに、なんで彼女のフォローをしているのだろう?)
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2007年01月22日(月) ■ |
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伯爵と25のシチュエーション |
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「ねえ、伯爵。あなたは私の言葉を聞いてくれている? そうありがとう。私が今から言うことは普通の人からすれば当然のことなのかもしれない。普通に二十一年生きていればわかっているような当たり前のことを、幼稚で未熟な私がここに来てやっとわかって、それを何か興奮してしゃべっているだけのことかもしれない。けれどそれを受け止めてくれる人間はあなたしかいないから、私はあなたにこれから想いを告げる。かまわないかしら? とは言ってもあなたはそんなことを拒めない性格なのよね。ごめんなさいね、嫌なら聞き流してちょうだい。私はね、怖いっていう感覚がわからなかった。子供の時から夜が怖くなかった。幽霊が怖くなかった。そんなものがもしいてもいなくても、どっちでもよかったから。学校でみんなが怖がる先生も、人体模型も、通学途中にいる野犬も、みんなの嫌いな給食も、鉄棒も、何も怖くなかった。叱られても叱られるだけだし、吠えられても吠えられただけだし、まずいものはまずいだけだし、逆上がりだってできないだけだった。進路だって、自分の受けられるレベルの学校選んでそれとなく志望動機を考えて推薦で合格した。周りの子達となじめなくても、別にかまわなかった。私は自分を知っているから、仲良くできないのも納得できた。将来に不安なんてなかった。私はどんなにがんばっても私以上のことはできないのだから、少しも怖がる必要なく歩いていけばよかった。大学も行った。卒業は簡単だった。仕事も見つかった。初めて企画を任された時も怖くなかった。やれることをやるしかないから、失敗しても納得できた。父が事故で亡くなった時も、初めて男と寝た時も、なんにも怖くなかった。それは、そういうものなんだって思っていたから。怖いってどういうことなのか、わからなかった。みんな、どうしてありもしないことを想像して一人でびくびくしているのか、わからなかった。原因を考えたら、結果なんてわかるじゃない。なのに、なんで少ない方の可能性ばかり人は求めたがるのか、理解できなかった。なのに、なのに私は今怖いってことがどういうことなのかやっとわかった。原因が、わからないから予想できない。だから結果がわからない。でも、考えなくちゃいけない。それが、こんなに苦しいことだったのね。私、私今すごく怖いのよ。ねえ、伯爵。なんで? なんであの人は私に結婚を申し込んだの? あの人が私を好きになる理由なんて考えられないのに、どうして? そして、私はその答えを出すことを求められた。どう答えればいいの? 答えの出し方が、わからない。こんなこと初めてだった。私は今、とても怖いの」
そういうことを年下の大学生に打ち明けるのは、怖くなかったのだろうかこの人。
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2007年01月19日(金) ■ |
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伯爵と25のシチュエーション |
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彼はいつも言っていた。 「頑張っただけで結果が出るようなものじゃない」
彼はみんなが喜んでいるときも輪の外にいた。 「ああいうのは苦手なんだ」
彼はみんなが必ず大会に優勝しようと言っている時に、いつも顔を曇らせた。 「変な期待をして失敗したら辛いじゃないか」
でも、私は知っている。
歯を食いしばり、努力する彼を 拳を握り、熱く静かに喜んでいた彼を 本当は誰よりもずっとみんなと勝ち進みたい彼を
今年が、私たちの最後の夏。県大会 「ねえ、F君。優勝して行こう、四国大会」 彼は初めて応えてくれた。 「ああ、行こう」
それから半年。
結果は、私たちだけの秘密。
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