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2007年01月17日(水) ■ |
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カンテラ伯爵と25のシチュエーション |
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Eの車に乗って、岬を目指す。 どうでもいいことを話して、僕は相槌を返すだけ。
でも、要は返し方だ。 話題をつなげられるようなうなづき方をすれば、相手はいくらでも喋ってくれる。そのうち話題は本筋を離れて、就職活動の話をしていたはずなのに気がついたら「平成狸合戦ぽんぽこ」について語っていた。 変な感じだった。彼は院に進むのか就職するのかと質問していたのに、四国では狸が神様であることについて答えていた。
なんだか、変な感じだが、いつもこうだ。 だったらいつも変なのだろうか。
こんどは後輩の可愛い女の子についての会話になったはずなのに 「なあ、カンテラ。俺ってお前にとってどんな奴なの?」 Eが突然訊いて来た。 即答。 「そんなこと、今更口にするような間柄じゃないでしょうに」 彼が求めていたのは、そういう言葉ではないことを知っている。 それでも、こうしか答えられない。
恥ずかしいじゃないか。
外を見る。 ガラスに反射したEの顔が見えた。
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2007年01月16日(火) ■ |
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伯爵と25のシチュエーション |
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始発電車に揺られて、目的地を目指す。
左隣に座る女学生。 身の細い、お下げの彼女はうつむいている。
前の車両から学ランを着た男が入ってきた。
彼は彼女を見つけると近づいて、彼女の目の前に立ち止まる。 彼女は顔をあげた。
彼と彼女は少しの間目を合わせて、
「二ヶ月ぶりか、君はどこに行ってた?」 「ちょっとね、学校休んでたの」
力なく笑う彼女に、彼は冷めた目をして言った。 「一応言っておく。あけましておめでとう」 そして頭を下げた彼に、彼女は何を思ったのか、少しだけ笑みを増して会釈した。
そして彼はわざわざ彼女から離れた席に座る。
それを見ていた私は今年も、もう半月経ったのかと少しため息をついた。
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2007年01月14日(日) ■ |
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伯爵と25のシチュエーション |
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サニーマート。 下りのエスカレーター。 僕と彼女は二人並んで乗っている。
前には家族連れがいた。 大柄な父親。髪の長い母親。 厚着をした娘。 父と娘がじゃれて、母親がそれを見ている。
隣の彼女に聞こえるぐらいの声で言う。 「僕は思うんだ」 「何を?」 「僕がいつか大人になった時には、休日に買い物に行くだけでも家族ででかけて、あんな風に家族で楽しめる。そういう大人になりたいと。すごく、そういう平凡にあこがれるんだ」 「そう……」 「こんなこと言うなんて、僕は変かな」 彼女は少し考えて 「それはプロポーズでもしているつもりかな?」 僕はまったく普通の声で 「いいや、違うよ」 ちょうどエスカレーターが下りきったので、僕たちは同時に歩き出した。
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