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海老日記
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2006年06月30日(金)
物部日記・『異象』

 日傘を差す人女性なんて、めったにお目にかかれない。

 私が実際に見たことのある日傘持ちなど、私の偉大な祖母か繁華街で見たゴスロリファッションの女の子か、なぜか最近知り合った白い服のあの人くらいだ。


 私は基本、目立ちたがり屋だ。
 人と違うことをして注目の目を集めて笑いを取ることが好きだ。
 それでも、しないこともある。
  


 学校までの道のり。まっすぐと続くそれなりに広い二車線道路。
「なんか暑いなあ」
 ぼやくと、隣で歩いている佐々木女史が話しかけたわけでもないのだけれど応える。
「朝倉よりは涼しいよ。こっちは湿度も低いし日陰も多いし」
 そうなのだろうけれど、今私と彼女は日陰も何もない太陽放射直撃のコンクリート上を歩いているので、気休めにもならない。と言いたいのだけれど暑くて口答えする気も起きず、
「そうかなあ」
 と適当に相槌をうつ。 
 二人、歩いていると前を、白い上と下のくっついた(後で佐々木女史に訊くとそれはワンピースという服らしい)服をきた女の人がこれまた爽やかな白い日傘を差して歩いている。
「いーなー」
 つい、口にする。
「傘が?」
 佐々木女史が訊いてきた。私は首を横に振る。
「いんや、あんな日傘が似合うシルエットが」
 私では、たぶんあんな絵にならないだろう。
「うん、物部くんってこうもり傘が一番似合いそうやからね」
「こうもり傘じゃあ、日よけになりません。……いや、なるのかな?」
 ただ、暑そうだ。


 すると、その会話が聞こえていたのか、純白の彼女はこちらの方をちらと見る。
 げっ、聞こえてたかな。

 おそるおそる、そしてごまかすように半笑いで会釈する私たちを尻目に、彼女は掌中の日傘を軽く動かして言った。
「入ります? 物部さん」


「「いえいえいえいえいえ。というかどうしてこちらの名前を?!」」

 佐々木女史と私の声が日本代表もびっくりのシンクロをした。


 日傘を差した女性が言うには、以前図書室で困っていた彼女を助けたことがあるらしい。
 でも、私は忘れてしまっていた。
 うーん、いつだろう。

 とりあえず、日傘に入るのはやめておいた。
 さすがに似合わないことをするのは抵抗がある。



 このことを別の友人にメールしたらこう返事が返ってきた。
「せっかくのフラグが MOTTAINAI」
 何が言いたいのだろう……?




2006年06月29日(木)
物部日記・『異象』


 「まあ、そんな日もある」
 そういう言葉を言う人と出会う。
 結構私もよく使う。
 人生で、妥協をするために、己に諦めを与えるために唱える言葉。


「まあ、いんじゃない?」
 私も他人によく言う。


 かれこれ十年以上前のことだけれど、ふと思い出した。



「まあ、そんな日もある」
 いつもそう言っている女の子がいた。
 その頃はただ、同じクラスの女の子、ということくらいしか関係のない、単なる隣の人だった。
 誰かがガラス瓶わったりだとか、体育の時間にこけたりだとか、忘れ物をしたりだとか、みんなが見てるドラマを見忘れたりした時に、彼女は口癖のように言っていた。
「まあ、そんな日もある」
 変な子だった。


「まあ、そんな日もある」
 面白い台詞は真似したがる私だったが、当時の自分のキャラクターと重ね合わせると、そういうことを口にするほど達観もしておらず、あんまり言う気にならなかった。
 彼女だけの人の慰め方。
「まあ、そんな日もある」




 ある夕方、車に轢かれた猫の死体が落ちていた。
 その隣には、例の彼女。
 いつもの台詞は、出てこない。
 私も、そんなことを連想できるほど死体になれていない。

「    」

 何に対してそう言ったのかはわからないけれど、その言葉に反応してか彼女は猫だったものから視線を外した。


 そんな日も、あった。





2006年06月21日(水)
物部日記・思わせぶりに言っとけば案外ごまかせる。



 なんてタイトルですけれど、今私は人生レベルの問題にさしかかっていたりする。

 ただ一言を口にするかどうかで、悩んでいる。

 それを言ったところで私の生活には何の支障もないのだけれど、アイデンティティみたいなものは傷つく。

 けれど今、それを言わずには「いられないかもしれない」

 まだ、そんな窮地にたっているわけでもないのだけれど、確実に、揺さぶられている。


 言葉は呪文

 不安は悪魔