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2006年06月05日(月) ■ |
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物部日記・ことばのからくり |
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これは父さんに出されたことのある質問だ。
「太平洋のどこかにうそつき島がある。そこにすんでいる島民はみな嘘吐きで質問にはかならず逆のことしか答えない。ある探検家がうそつき島を探して、海の真ん中にある島にたどりついた。しかし、そこが嘘吐き島なのか、普通の人間の島なのかはわからない。さて、島民にどんな質問をすればそこがうそつき島と証明できるだろうか」
よくある問題である。これはどういう種類の学問になるのか知らないけれど私にもわかっているのは、二択を迫る質問では証明できないということ。 例えば「この島はうそつき島ですか?」という質問にはそうであってもそうでなくても「NO」という答えが返ってくる。「この島はうそつき島ではないのですか?」と質問すれば必ず「YES」と返るはずだ。 この場合、相手のことを質問すると、嘘吐き島と普通島の区別はできない。 違う質問がいる。
例えば、島民に対して「私はこの島の住人ですか?」 けれど実際にそんなことを質問したら気味悪がられるだろうなあ(というかまず未開の島で言葉が通じるのか?)
その論理を父に説明したら、突然こんなことを言い出した。 「でも、嘘吐きと正直のまじった島もあるかもしれない」
それを言い出したらこの手の問題の主旨が変わってしまうよパパン。
……けれど、どうなのだろう。 「正直島と嘘吐き島と両方が半分ずついる島の三島を分けることが、質問だけでできるのだろうか?」
私は、できないと思う。
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2006年06月02日(金) ■ |
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物部日記・『真夏の夜の夢・再び』 |
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去年の六月のことだ。 一人の女性と知り合った。 正体不明。職業不定の若い人。
ミステリアスと言うよりも、ちょっと困ったさんな何故か夜中原付で仕事にでかけて日が昇ることに帰ってくる。隣に住んでいるのか、二階に住んでいるのか、わからない。 大学キャンパス内で白衣を着ているのを見たこともあったが、本当に大学生だったのかも怪しい。 教えてくれた名前も源氏名らしい。
嘘っぽいと言われるが、会ってしまったのだから仕方がない。
結構、好きだったけれど、今年の春に実家に帰ると本人から聞いて、それから会っていない。
結構つらかった時期に、話を聞いてくれた、私の恩人のような人だった。
あの人とお別れしてから、平凡な毎日が続いている。 もう、猫の幽霊なんて見ないし、不思議な言語で喋るお隣さんも見なくなった。 おかしいことは、全部なくなった。 起きたまま見る夢は、もう終わり。
夜中、チャイムがなって、玄関を開けると、男が二人立っていた。 「え、と。はい?」 用件を聞こうとすると、男の一人が突然言う。 「こちらにヘルレイザー鎌足さんはいらっしゃいませんか?」 私はまったく言葉が出なかった。 「ああ、申し遅れました。わたくし、秘密結社長谷川会のキャッシュバック桜井、こちらは助手のデンドロビウム矢野と申します」
どうやら、六月はまた始まるらしい。
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2006年05月31日(水) ■ |
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物部日記・『牙』 |
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人間は牙を持たない。 確かに口の中には犬歯が存在し、噛み切る能力は残っている。 けれどそれを牙とは決して言わない。
人間はもう、研ぎ澄まし喰らいつくことなど必要としていないから、鋭い牙なんていらない。
「物部君……もしかして膨らんだ?」
言葉と言う、もっと鋭い得物を人は手に入れたのだから。
がくっ……
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