冒険記録日誌
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2014年09月29日(月) ゲームブックグルメ

 唐突ですが、私は小説や漫画で食い物の描写を重視しています。(グルメエッセーや料理漫画が好きという意味ではない)
 池波正太郎の時代小説「剣客商売」でネギしか入っていない味噌汁がやたら旨そうだったり、スティーヴンキングの「暗黒の塔シリーズ」で生まれて初めて飲むコーラに驚愕する主人公、デュマレストサーガで御影石のように固くて不味いザードル肉の鍋を確固として噛み砕いて食べるシーン、漫画「刑務所の中」の食事に出た甘い甘い小豆とマーガリン入りのパン、「涼宮ハルヒの陰謀」で長門がご馳走してくれたキャベツだけのサラダと缶入りレトルトカレーの大盛りなどなど、好きな作品には大抵、印象的な食事シーンがついているのです。
 そしてそれが実際に食えるものなら、それ以降その食い物が旨く感じられてさらに一石二鳥です。例えば私は昔、焼きそばが嫌いでしたが、ジャッキー・チェンのカンフー映画で、焼きそばを旨そうに食うシーンを見て、一気に焼きそばが好物になりました。漫画「極道めし」を読んでからは卵かけご飯が一層旨く感じられます。

 そしてゲームブックですが、生憎ゲームブックで食事シーンが印象的な作品は少ないです。
 鈴木直人作品のファンとしては、「ミツユビオニトカゲの唐揚げ」なんか印象的ですが、残念ながら現実にない食い物です。ウロコが咽喉に引っかかるがトリ肉の味と描写されていましたが、イモリの黒焼きなんかで代用にならないでしょうか?
 ネバーランドのリンゴなどでお馴染みの林友彦作品では、黒パンやハチミツなど現実的で旨そうな食い物が出てきます。しかし欲をいえば、もう少し具体的に食べている描写があってほしいところ。
 グレイルクエスト(ドラゴンファンタジー)シリーズ……は、くねくね肉がのたうっていて食欲がわきません。バルサスの要塞の食糧庫でも肉が動いていたし。食い物に食われることも普通にあるのがゲームブックの世界です。
 有名ではないですが、個人的に印象的な食い物は、双葉文庫の塩田信之作品「終末の惑星 遥かなる西の帝国」に出てくるフランス料理のフルコースやラーメンのお粥です。これは合成食糧で作られたお粥に人工的に味付けをしているもので、肉の味のおかゆとか野菜の味のお粥とか何皿もでるというもの。フランス料理のフルコースのお粥は無理ですが、ラーメンのお粥は現実にコンビニ商品で存在するので以前買ってきて試しましたが……口に合いませんでした。まあ、ゲームブックでもラーメンのお粥は水で味を流し込んだとあるので美味しくないみたいだから仕方ないか。
 考えると、そもそも旨そうに食う描写ってゲームブックにはあまりないんですよね。すぐに思いつくのがスティーブジャクソンの「モンスター誕生」で、ボビットがとても旨そうに食べられてます。でも、これは絶対真似できない。(汗)
 スティーブジャクソンといえば「ソーサリー」ですが、シャムタンティの宿屋の食事のスカンクベアーのシチューが旨そうな気がしますが味の想像ができません。(ちなみに創土社版の訳だと、スカンク熊汁となっていて不味そうです。シャムタンティの郷土料理みたいで雰囲気はあるけど。)

 やはりゲームブックでグルメなんて、無理があるかなぁと思いつつ、シチューからふと連想したのがリビングストン作品「迷宮探検競技」。
 死の競技に出場する前に提供される、パンと一杯のスープの食事。主人公はトリ肉と野菜のこってりしたこのスープをガツガツとたいらげて、最後はパンで拭って食っています。これは旨そう。
 というわけで、本日の晩飯に、トリ肉のシチューをちょっと濃い目に作ってみました。ルーはハウス食品です。
 パンは、ゲームブックでは囚人用だし、こだわらずに適当な食パンでいいや。
 今、これを書きながら食べていますが、うんまいですよ!大成功!
 というわけで、皆様も是非お試しください。まあ、要するに普通のクリームシチューですけどね。


2014年09月28日(日) 西遊記 天竺への道(シュミレーションP研究会/白馬出版)

 白馬出版のゲームブックシリーズ、第ニ弾目の作品です。
 タイトルからわかるとおり、元ネタは西遊記です。ただし、設定はちょっと違って、本書は三蔵法師が天竺から唐国にお経を持ち帰った後の話しとなっております。
 三蔵法師の成功に釈迦如来は、今度は日本にも本当の仏教の教えを伝えようと、日本に観音菩薩を遣わします。そして菩薩の啓示を受けた道鑑という僧侶が、天竺を目指すという内容です。

 このゲーム、基本的には前日書いた「80日間世界一周」のゲームブックと同じ作りです。パラグラフ数は103しかない代わりに1パラグラフあたりの文章は長く、選択肢の多くは旅の進路をどうするかというものです。今回は4年という制限があり、1ヶ月単位で時間が消費されていきます。
 本書のキャッチコピーが「頭のよくなるゲーム本」というだけあって、道鑑の日本から天竺までの旅は、8世紀頃に日本から天竺、つまりインドまで旅をするとどうなるかを現実的にシュミレーションしています。遊んでいると当時のアジアの勢力図や、どんな航路を使われていたかを、理解することができるというわけです。
 西遊記というだけあって、孫悟空、猪八戒、沙悟浄、それから竜の化身の馬が、途中から道鑑の旅のお共になってくれますが、それ以外の妖怪は登場せず、敵がいてもせいぜい、わがままな王や山賊などといった人間たちです。
 旅の様子が現実的なだけに、悟空たちの存在が浮いてしまい、どうも中途半端な感じがしてしまいました。リアル西遊記として悟空たちを排除し現実に徹するか、原作のように妖怪変化や不思議な国の登場するファンタジーにするか、はっきりした方がよかったと思います。 

 余談ですが、白馬出版のゲームブックシリーズ第三弾目は「オペレーション・コニー グリーンベレー特殊作戦」(2002年8月3日の冒険記録日誌を参照)です。しかし、こちらは本の装幀が全然違っていますし、ベトナム戦闘を題材にしているためかゲームオーバーになりやすく、雰囲気も別物になっています。
 この作品は私のお気に入りですが、それにしてもこの路線変更は、いったい何があったんでしょう?


2014年09月27日(土) 80日間世界一周(相原冬彦/白馬出版)

 白馬出版からは3冊しかゲームブックが発売されていませんが、本書はその第一弾の作品です。
 タイトルからお分かりのように、本作には元ネタがあります。SFの父と言われるジュール・ヴェルヌの執筆した「八十日間世界一周」です。
 元ネタの小説は有名ですが、私は残念ながら子ども頃に、序盤を読んだくらいで、粗筋くらいしか知らない状態なのです。知らない人のために書くと、ビクトリア朝時代にイギリスの偏屈爺さんが、80日間もあれば世界一周は可能か否かで、クラブ仲間と意地の張り合いとなり、80日間で世界一周は可能であることを証明するため、お供の執事と一緒に2人で世界中を旅するという内容です。
 SF要素はなく、各国で登場する人物もいかにも○○人といったベタ表現(現在ならヘタリアみたいなもの?)なので、当時の世界の様子がわかるユーモラスな冒険ものとして、なかなか楽しげな様子です。この機会にちゃんと読むべきかな。

 そしてこのゲームブック版の方ですが、ヴェルヌ作品のオマージュ作品といえ、そのもののゲームブック化ではありません。
 舞台は明治33年(ヴェルヌの「八十日間世界一周」の舞台から28年後)の中学校(現在の高校にあたる)から始まります。
 主人公の宮崎賢次が日頃から何かとライバル関係である学友と「八十日間世界一周」を読んだ感想を話したことが全てのキッカケ。話しているうちに、本当に80日で世界一周は可能か否かで議論になります。賢次は自分の主張が正しいことを証明するため、父親の小切手帳を勝手に持ち出して、下男の乙吉をお供に2人で世界一周に挑戦するという、なんだか凄いプロローグです。
 本書の見どころは、賢次の常人離れした金銭感覚であり、非常識な金の使いっぷりでしょう。
 ヴェルヌの「八十日間世界一周」の主人公であるイギリス紳士も、裕福で金に物を言わせるような性格でしたが、それでも世界一周には全財産の半分を使い、残りの半分はクラブ仲間との掛け金にしています。いわば背水の陣で旅立っているわけです。それに対し、賢次少年はただ意地とメンツの為だけに親の大金を使っているのですからね。
 この賢次の実家である宮崎家は、大貿易商ということで、とんでもない金持ちだそうです。父親も少年が勝手に世界一周に旅立ったことにカンカンに怒ってはいるものの、金銭面のことは何も気にしていない様子でしたし。
 旅が始まってからのゲーム中のシーンでも、大陸を横断する鉄道が不通なら膨大な謝礼で馬車を雇い(あなたは新幹線代わりにタクシーを使いますか?)、警備が厳しい場所ではチケットを渡すかのようにごく当たり前に賄賂を握らせて入場(父親の跡継ぎとして、こんな事も学んでいるのだろうか)といった具合。海で遭難して別の船に救出されたシーンにいたっては、そのまま目的地に向かうため、即座に救助してくれた船をまるごと買い取ってオーナーになってしまう無茶ぶりです。

 また本書のキャッチコピーが「楽しみながら地理・歴史が学べる」と書いてあるだけあって、明治時代の日本から見た当時の世界の世相や交通事情を知ることができます。
 パラグラフ数は102しかない代わりに1パラグラフあたりの文章は長く、選択肢の多くは進路をどうするかに費やされています。そのため各国での独立したミニエピソードが集まってゲームブックが成立しているようなところもあり。ある箇所では案内人を雇っての旅の最中に、偶然にも山賊にさらわれた幼い王女を見つけ、計略を使って無事王女を救出、感謝を受けながら次の目的地に向かうまでの展開が1パラグラフ内に収まっていることもありました。
 道中でゲームオーバーになることはありませんが、良くない選択肢を選べばそれだけ日数がかかることになり、日本に帰りついたときに何日目かでエンディングが変わるルールです。

 最後のオチはヴェルヌの「八十日間世界一周」を読んだ人ならニヤリとすると思います。ただし、イギリス紳士と違って、賢次少年は最初にアジア方面へ旅立っていきましたから、結果は正反対です。「八十日間世界一周」をめぐる議論がキッカケで旅立った賢次少年がこの点を気づいていなかったのは不自然な気もしますが、長旅の疲労で忘れていたと解釈しておきましょうかね。
 ちなみに私は初プレイで、78日目で東京に戻ったのですが、最後の選択肢には「79日かかったなら」からしかありませんでした。あれぇ?どこかで一日、計算を間違ったかなぁ。
(あと、パラグラフ95の方の「70日かかったなら」の表示は間違えと思います。)


2014年09月23日(火) 騎士と魔法使い 君はどちらを選ぶか? サラリンダ姫を救い出せ!(メーガン・スタイン H・ウィリアム・スタイン/近代映画社)

 ちょっと前の話しですが「サラリンダ姫を救い出せ!」を入手しました。今の私が欲しがっていた3大ゲームブックの一冊です。(残りは朝日ソノラマの「タイムバブルからの脱出」と「サンフランシスコ誘拐事件」。これが揃えば、一応ゲームブックの収集欲は満足する予定。)
 やー、これ本当に嬉しかったです。国立国会図書館にもない、本当に幻の作品でした。
 しかし、これが手に入れば騎士と魔法使いシリーズの日本版全8巻が揃うというコレクター心をくすぐる状態でなければ、ヤフオクでバカ高い値段出してまで手は出さなかったのに。10年くらい前は他の巻が、1冊1,500円程度で買えたのですが、今の相場では古本屋で掘り出し物として見つけたとかでない限り入手は勧めません。

 さて、過去の冒険記録日誌で他の巻の感想は全て書いていますが(バラバラなので日付は紹介しない)、このシリーズは伝説的な騎士と魔法使いが王の命令により、数々の冒険をするというストレートな内容です。文体もやや古めかしい、男らしく骨太といっていい世界観がステキなんです。短編といってもいいくらいの長さですが、物語の冒頭で主人公は、騎士と魔法使いのどちからから選ぶことができ、同じ事件を別々の立場で楽しむことができます。
 ゲーム性の方は最低。サイコロは使用しない代わりに、騎士がクライマックスの戦闘で「今日は何曜日か?」といった質問で戦闘の決着がつくとか(その結果、水曜日に遊ぶとゲームクリア不能とかいった事態は日常茶飯事)、魔法使いが呪文を唱えればランダムに1ケタの数字を選んで「3・7なら」魔法が失敗して自滅するとか(時を戻す魔法を使ったら、赤ちゃんになっちゃってENDとか普通の展開)、そんな調子で即ゲームオーバーが続くといった理不尽さですが、そこは世界観の魅力でカバーといったところ。そんなシリーズです。

 そして「サラリンダ姫を救い出せ!」はシリーズ3作目。
 タイトルからベタに、悪漢やドラゴンに誘拐されたサラリンダ姫を騎士と魔法使いが救出に向かう冒険かと思いきや、冒頭でサラリンダ姫が婚礼の直前に場内から忽然と消え去ったという宮廷内事件ものでした。
 さっそくヘンリー王から姫の捜索と保護を命じられた騎士と魔法使い。2人はサラリンダ姫の結婚を快く思わない人間が誘拐を企てたもので、犯人はまだ城内にいると睨んで、城内を捜索します。結婚相手である敵国の王子マーレイン卿(半ば政略結婚みたいなものですね)や、ヘンリー王の騎士で敵国とは徹底抗戦すべしなサイメリアンなど、容疑者として何人かがあげられています。
 なんとなくミステリー風味もある本作ですが、そこはこのシリーズですから、普通ではすみません。序盤に掲載されている城内の地図を見ながら、どの部屋から捜索するか選んでいくのが序盤の展開ですが、今の和製ゲームブックでは書けないだろうなーと思われる気ちがい老婆、なんでこんなところに?な封印されていた怪物、50年間も引きこもりしている男など、怪しい住民のいる部屋が盛り沢山です。
 そして今回も「読者の誕生日が偶数か奇数か?」で決着がつく、自分が生まれ変わらない限り絶対に勝てない戦いなんかもあります。
 それでもこの巻は、失敗してもやり直す機会があったり、勝てない戦いがあっても、それを避ける別ルートが用意されてあるなど、ゲーム的な理不尽さは他の巻に比べると少ないと思います。普通のゲームブックなら当たり前ですが、まさかこのシリーズでルールを守って、クリアすることができるとは……感動的でした。
 本作で印象的なシーンとしては、魔法使いが病気で我を失って、騎士と戦う展開ですね。騎士のとった解決策が、毒矢で魔法使いを射ると体の毒が中和されるという驚くべきもの。「あなた(魔法使い)自身が調合した毒だ。その毒があなたの病を消し去ることができればと思った」と騎士が解説していますが、毒を持って毒を制すとはいうけど、それありなの?
 あと楽しみにしていたサラリンダ姫のお姿ですが、終盤に登場するのみで、あまりセリフもなかったのが少々残念でした。(ちなみに8巻の「時空の支配者に挑戦!」にも姫は登場しまして、そちらではチャーミングな姫の行動を見ることができます。)
 それにしても城内の地図を見た時から思っていましたが、姫の部屋の隣が埋葬室って構造はどうなんでしょうねぇ。いちいちつっこんでたらキリがないんですが、そこも含めての本作の面白さってことにしておきましょう。


2014年09月22日(月) 孤島サバイバル(いけうち誠一/講談社)

 コミック形式のゲームブックです。遭難した2人の男と1人の女が、無人島でサバイバル生活をするという内容です。タイトルそのままですね。
 古い作品ですが、それほどプレミア価格はついておらず、また作者のいけうち誠一さんは、他にも「人食いライオンを撃て!」というゲームブックを書いており(2002年3月6日の冒険記録日誌参照)、こちらがなかなか面白かったので、期待して買いました。

 ゲーム冒頭にサイコロを一つふることになりますが、その出目によって流れ着いた3人のうちの一人の視点からゲームすることになります。
 3人はそこそこ広い無人島にバラバラに流されたようで、漂着してしばらくは自分だけが生き残ったと思い、食料を探したり、洞窟を探検したり、救援の方法を模索するなど、単独で冒険をしています。つまり、序盤は3つの展開が用意されているわけです。
 選択肢ではちょっとしたサバイバル知識を試すものが多く、絵柄もせいもあって学習用マンガのような雰囲気。雑学コラムのような欄もあって、グァムで28年間サバイバルした横井庄一さんの例をよく引き合いに出してきています。大事なところで間違った選択をすると、死です。
 あと、女性パートだけ天然の温泉を発見できる展開はお約束ですな。学習マンガのような絵なので、読者サービスとまでいえるかは疑問ですが。
 物語が中盤になると、一部の展開を除いて、3人が合流して共同生活が始まります。パラグラフ的にもここで統一されるので、終盤の展開はほぼ一本道です。序盤の3人が別々に冒険をスタートする点を除けば、シンプルなゲームブックなので、ここまでくればクリアは目前と思っていいです。
 全体的に購入前の期待通りというか、予想通りの内容だったので、遊んでそこそこ満足しました。
 ただ、救助の船がくるかどうかがランダムで50%の可能性しかなく、ここで救助がこなくてENDというのは不満だったなー。


2014年09月17日(水) 失われた体 魔法使いディノン1(門倉直人/新紀元社)

 創土社編集の酒井さんの退社とともに、新紀元社へ版元を衣替えしたディノンシリーズですが、無事1巻「失われた体」が出版(復刊)されました。
 入手した本の帯には今年の11月には2巻「闇と炎の狩人」も発売予定と書かれており一安心。酒井さんのゲームブックへの情熱には頭が下がります。

 さて、知らない人に説明するとディノンシリーズは昔、早川書房のゲームブックレーベルから出ていた全2巻のゲームブックでして、幻想ファンタジーという言葉がぴったりくる雰囲気の作品です。
 ストーリーは、主人公がユルセルームという異世界に呼び出され、謎の男に体を乗っ取られてしまうという、冒頭からピンチな展開。主人公は謎の男のものだった体を使い、自分の体を取り戻すため、ディノンという魔法使いとして未知の世界を冒険するというものです。
 ゲームブックというのは文体が素っ気ない作品が多いですが、ディノンは艶めきのある文章が特徴です。
 例えば選択肢の表現なんかすごく回りくどい。鳥がディノン目がけて急降下してくるシーンの選択肢で、普通のゲームブックなら、「とどまって戦うか(73へ)」「鳥をかわすか(166へ)」と書いてすませる2択が、ディノンだと「ディノはその鳥が降りてきたところに一撃を食わえるべく、この場所に足を踏みしめてとどまった。(73へ)」「ディノは目の前の情景にもはや確信が持てなかった。そして。とにかくこの攻撃を回避すべく、とっさに横にとんだ。(166へ)」と長々と読ませてくれます。これ、選択肢の重みが増す効果を感じたので、ストーリー重視のゲームブックには案外いい手法かもしれません。
 そういったこともあって、小説部分に重点を置いている作品と思いきや、ゲーム性も特徴的です。
 戦闘はサイコロ一振りで決着がつく簡潔なもので、能力値は「知力」や「体力」の2つのみと、あとはフラグチェックと、ルール面は比較的シンプルですが、魔法システムが独特。2003年04月25日の冒険記録日誌でも一度紹介していますが、物語中で突然主人公に湧き上がる山や鎖や蝶などのイメージ映像を読み解くことで、魔法の力を発揮することができるというもので、これがこの物語の幻想性をいっそう高めつつ、この作品のゲーム性に直結しています。

 この作品を前に遊んだのはずいぶん昔ですが、ディノンシリーズは正直好きではなかったです。しかし、今回は改めて遊び直してみたところ、意外にも面白かった。
 昔に比べると、いろんなゲームブックを遊び倒したおかげで、面白いと感じるストライクゾーンが広がったせいもありますが、昔の山口プリンは悪い奴を倒してハッピーエンドという結末が当然と思っていたので、敵の正体や物語の結末に納得できなかったんですね。
 「失われた体」のストーリーが受け入れられるようになったのは、それだけ山口プリンが大人になったということなのでしょう。うんうん。(しみじみと頷く)
 ヒロインのフィリオンに対する主人公の心理描写とか、終盤の「深遠なる国」での狂った世界の緊迫感など、読み応えのある小説を読んだような気分になりました。パラグラフ数が227しかないうえ、難易度はさほど高くないので、ボリューム的にはあっさり終る印象はありますが、ゲームブックを「自分で選択できる小説」と定義するなら、ディノンシリーズはピカ一かもしれません。


2014年09月14日(日) ツァラトゥストラの翼(岡嶋二人/講談社)

 本格的ミステリーゲームブックという煽り文句付きのゲームブックです。
 最近はあっさりしたゲームブックばかり遊んでいた私としては、パラグラフ460というボリュームも久しぶりで、ミステリー部分だけでなく、ゲームブックとしても本格的に遊んでいる気分がしました。
 以前、Kindle本で途中まで挑戦してみたのですが、今回は文庫本版で最後までクリア。
 電子書籍版の時はパラグラフ移動が頻繁な割に画面切り替えがもたつくし、指が別リンクに当たって違うパラグラフに飛んだりと、操作にイライラしてしまい、途中で挫折したのです。それにアプリではなく、Kindle版だからしょうがないとは思いますが、せめてメモ機能をつけたりフラグ処理を自動化してくれないと、電子書籍版のメリットがないですわー。

 本書の主人公は、私立探偵の会社に勤める冴えない下っ端探偵です。鹿島清志という事業家から、値のつけようもない高価な宝石「ツァラトゥストラの翼」を見つけ出してほしいという依頼を受けて、捜査を開始するという内容です。「ツァラトゥストラの翼」は義父で資産家の鹿島英三郎が大事にしていたものですが、鹿島英三郎は何者かに殺され、ツァラトゥストラの翼」も盗まれてしまったのです。
 本書が独特で面白いと思ったのは主人公と読者が別人格で、主人公の脳内に語りかけて行動を指示していくという設定。
 何かあると「これからどうしよう。あんた(読者)ならわかってるんだろう?なあ、教えてくれよ。」などと聞いてきて、「どうして金持ちの家はこう広いんだろうね。おれ、疲れちゃったよ」とか愚痴をぶつぶつ言いながら事件現場を捜索する主人公が何ともいい味しています。
 あと、全ての場所や登場人物や証拠品など、大抵のシーンがイラストで表示されているのが地味に凄いと思います。ただ、本で豊富な挿絵で表現しているのが凄いのであって、電子書籍版だとTVゲーム感覚に近いから当たり前に感じるだけかも。
 ゲーム性としては、非常によく出来ていまして、他のよくある探偵ものゲームブックと違い、ゲーム中で主人公が勝手に推理して解決してくれることはなく、ヒントになりそうな情報をかき集めて、本当に読者が考えないと犯人を見つけられません。
 殺人現場でもある鹿島亭邸は広く事件と無関係の場所も沢山あり、また依頼の目的はあくまでもツァラトゥストラの翼を取り戻すことなので、犯人捜しを後回しにして秘宝探しを優先しても良いなど、行動の自由もそこそこあります。もっとも推理が間違ったり、無茶な行動をすると、ボスに怒られて仕事をクビになってゲームオーバーとか、必要な情報を取りそびれたり、反対に間違ったフラグを拾って終盤で手詰まりになるなどの展開も多く、クリアできるルートはある程度絞られてしまいましたが。
 あと秘宝を見つけ出すために、絶対に解く必要のある暗号が途中で登場するのですが、これが難しい。私はお手上げでした。巻末の答えを見ると、そう複雑な解法ではなかったのですが、きっとさらに数時間考えても自力ではわからなかったと思います。パズルとか好きな人ならわかるのかも。
 殺人犯探しについては、犯人の仕掛けたトリックを見破れるかが、解決のカナメなのですが。うーん、なんで犯人がわざわざ密室殺人にしようとしたのか、今でもわからない。被害者の自殺に見せかけようとしたわけでもないし、犯人側のメリットがないと思うんだがなぁ。
 また物語の登場人物に魅力的なキャラがおらず、みんなステレオタイプばかりです。もっとも、人間ドラマ的要素を排除して、純粋に推理ゲームとして楽しめるようにあえてそうした可能性はありますがね。
 そんな風に欠点をあげようと思えばいくつかあげられるとはいえ、このタイプの推理ゲームブックは他にはありません。本格的ミステリーゲームブックとしては及第点と思う作品でした。


2014年09月01日(月) 闇をさまようもの(友野詳/創土社)

 「闇をさまようもの」とは、創土社から発売されているクトゥルー神話のオマージュ・アンソロジー・シリーズの最新作「闇のトラペゾヘドロン」に収録されているゲームブックです。クトゥルフファンでない私には、全体の3分の1しかないゲームブックパートの為に、値段も高い本を買うのはわりと辛いです。
 そんな思いで読んだ「闇をさまようもの」の感想ですが、うーむ。これは買って久しぶりに駄目な感じでした。まったく遊べません。
 ゲームブックとして悪いという意味じゃないんです。読み手を選ぶというか、クトゥルー神話を知っている人前提で書かれているから、予備知識のない私にはそもそも書いている内容の意味がわからないという状態なのですよ。

 ストーリー的にはのっけから世界中に天変地異が発生する中、主人公が輝くトラペゾヘドロンの中に吸い込まれてしまいます。そして精神的存在として?いろんなクトゥルー作品的な場面を体験していくという内容です。
 ゲーム性は、作者は友野詳さんということで半分予想はしていましたが、「ゾンビーズ?ゾンビーズ!−テキサス・ゾンビーズ ゲームノベル−」(2013年6月13日の冒険記録日誌を参照)のような新紀元社から出ているネオゲーム文庫のゲームブックシリーズと同じ仕様です。(つまり何か選択をする場面になると、6つ程度の単語の中からその状況に適した単語を2つ選んでそれに対応したパラグラフにジャンプするというもの。)グループSNEは本当にこのルールがお気に入りなんですね。私は正直飽きてしまって少々うんざり気味ですが。
 それでこの作品の場合、最初の選択肢が「はいよる混沌、顔のない悪魔めいた生き物、蛸を連想させる巨大な生物、ウミユリ状の知生体、のちに南極と呼ばれる大陸、あの強大な存在がおりたった海、月面にある夢の国」の中から2つの単語を選ぶという、いきなりマニアックなもので、これらの言葉の意味にピンとこない人は、この時点ですでにおいて行けぼりです。
 次々に切り替わる場面も登場する得体の知れない生命体達も、知っている人にはどんなシーンかわかるのだろうなぁ、と思うのみ。
 もっとも雰囲気自体はコズミックホラーという言葉が似合う、スケールのデカさがあっていい感じです。中には「シュゴスでメイドなテケリさん」みたいな、ライトノベルやらなんやらの二次創作ネタを仕込んでいるところもあって、クトゥルフがどっぷり好きならニヤニヤしながら楽しめる内容かと思います。

 ちなみに友野さんはゲームブック以外に、他にもクトゥルフ神話関連のTRPGやゲームブックのミニエッセー的なことも本書に書いていました。
 トラペゾヘドロンというと、私はゲームブックブームの頃に創元推理文庫から発売されていた「暗国教団の陰謀〜輝くトラペゾヘドロン〜」(2006年2月8日の冒険記録日誌を参照)を連想していましたが、これは友野さんも意識していたようで、今回のゲームブックをストレートな内容にしなかったのは、先行作品とネタがかぶらないようにしたかった的な事を書いています。
 だからといってこんなマニアックに走らなくても、と言いたいですが、一見さんを切り捨てたある意味いさぎよい作りともいえます。確かに、このシリーズを買う人は、大抵は熱心なクトゥルー神話のファンと思うので問題ないかもしれません。
 これから購入を検討している人は参考にしてください。


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