酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2007年04月29日(日) 『まんまこと』 畠中恵

 麻之助は町名主高橋家の跡取息子。あることをきっかけに太平楽なぼんになってしまった。父親の名代に小さな事件の裁きを繰り返すうちに麻之助は成長していく・・・

 うー、相変わらずいいですねー。畠中さんの時代人情もの。ほのぼのと優しい目線で生きる人たちを見ている。麻之助と幼馴染たちの友情もいい。ああ、沁みるなぁ。言葉は要らない。ただ読んで欲しい。そんな一冊。

 突っ立ったまま、それを無言で見送る。抱えていた淡すぎる思いは、己への嫌悪とあいまって、しゃぼんのように弾け、稲荷神社の空に消えることになった。ひたすらに惨めであった。

『まんまこと』 2007.4.10. 畠中恵 文藝春秋



2007年04月27日(金) 『朝日のようにさわやかに』 恩田陸

 大好きな恩田陸さんの短篇集です。これがもどれを読んでも素晴らしい! 収録された本を読んだ短編もあれば、はじめて読むものもあり、興味深い事この上なし。シリーズものもあれば、これから出る長編の予告作品的なものもある。自由奔放に大きく楽しめる本でございます。スキだなぁ。この短編の中から私的ナンバー1を選ぶとすれば、『冷凍みかん』ですね。星新一さんのようなウマサがあふれんばかり! 想像力を刺激されました。どちらかと言うより短編より長編作家さんでありますが、こんな楽しみも捨てがたいのでたまにでいいから短編を書いてほしいものなのでありました。

 私は、自分が背負うものの大きさと、これから自分が歩む孤独な歳月を予感して目の前が暗くなった。

『朝日のようにさわやかに』 2007.3.30. 恩田陸 新潮社



2007年04月20日(金) 『ブラックストーン・クロニクル』上下 ジョン・ソール

 アメリカの小さな町ブラック・ストーンで廃墟となっている精神療養所を壊し始めた時、‘それ’は起きた。プレゼントをもらった家庭で事件が起こり、人が死ぬ。廃墟の中で黒い人影が次のプレゼントを選んでいる・・・。オリヴァー・メトカフは、精神療養所の院長だった父親のことを思い出すのだが・・・!?

 いやはや素晴らしい! ジョン・ソールの力が溢れ出ている感じです。ジョン・ソールのゴシック・ホラーが好きで今までの作品をほぼ読んでいます。ものすごい筆力でぐいぐいと読ませる力にいつも圧倒されていましたが、それでも作品にその全てを出し切れていなかったのではないかと思います。この『ブラックストーン・クロニクル』は6つのプレゼントを巡る物語で、六ヶ月に渡って6冊刊行されたそうです。それが予想以上の大人気となったそうです。それはそうだろうなぁ。これだけ面白ければねぇ。これって映像化すべきだと思うのです。『ツイン・ピークス』並みに当たると思うんだけどな〜。なんにしても好きな作家さんの最高傑作を読めるということは激しい幸福感を与えてもらえますね。シアワセな二日間となりました。

悪魔よ。なにか悪魔的なことが、あそこで起こっている


『ブラックストーン・クロニクル』上下 2006.7.1. ジョン・ソール 求龍堂



2007年04月18日(水) 『回転木馬』 柴田よしき

 失踪した夫の探偵事務所を守りながら、夫を探し続けた唯がついについに真実へたどり着きました!・・・ジーン(感涙) この失踪劇の背景やからくりや真実はケッコウ早いうちに読みきれます。それでも丁寧に丁寧に織り成すように描かれる唯の追跡や、その時々に出会う事件や人間たちの物語は心に深く訴えかけます。うまいなぁ、柴田さん。この物語は『観覧車』の続編ですが、これだけでもキチンと楽しめます。『観覧車』を読んでから唯のその後が心のどこかで気にかかっていました。フィクションなのにまるで自分の知人であるかのように。だから唯のその後をこうして読むことが出来てものすごく嬉しかったです。そう昔に馴染んだ親しい人に出会えたようで。好きな作家さんの描く物語というのは心にフィットするものなのですね。

憎しみの連鎖を断ち切るために、人は、法律を作ったんじゃないでしょうか。法律がなければ、人間はいずれ、憎み合い、殺し合う。そんな人間の弱さをどこまで、法律で克服できるのか、わたしにはわからない。わからないけれど、あなたがもしその手で憎悪の輪をまた繋げてしまえば、たくさんの悲しい輪が、あちらにもこちらにもできてしまうとは思いませんか。そして・・・・・・理由はどうあれ、あなたと同じ苦しみを味わう人が、たくさん、たくさん生まれます

『回転木馬』 2007.3.20. 柴田よしき 詳伝社



2007年04月16日(月) 『ハルさん』 藤野恵美

 ハルさんは実際より若く見られがちだが47歳。今日は愛娘ふうちゃんの結婚式である。最愛の妻・瑠璃子さんに先立たれ、男手ひとつでふうちゃんを育ててきたハルさんは、ふうちゃんと関わった様々な出来事を思い出す・・・

 えーん、しみじみとほのぼのと泣けました。クスン。愛する者が成長し、自分の元から巣立っていくってどんな気持ちがするのかしら。ハルさんとともにちょこっとだけ花嫁の親気分を味わったのことでありました(感動)。こういう何気ない謎解きの物語もトテモいいものです。オススメですv

(恐怖に踊らされちゃダメ。どうせ、誰もがいつかは死ぬの。だから、今ある人生を楽しんで。・・・・・・私の分まで)

『ハルさん』 2007.2.28. 藤野恵美 東京創元社



2007年04月15日(日) 『ママの友達』 新津きよみ

 45歳になる主婦・典子のもとに中学時代にやっていた交換日記が届いた。交換日記のメンバーとは今では疎遠。娘の不登校の兆しに悩む典子は、娘と同じ年だった中学時代に思いを馳せる。そして送り主のハセジュンが殺された! 残された典子と他の二人は現状の問題に悩みながら、かつて友だった少女達の互いのことを思い出し・・・

 うー、身につまされるほど面白かったですね。昔の友達との交流が途絶えていて復活するきっかっけが謎に満ちていて、しかも送り主が殺されてしまう。それぞれの人生がそれぞれの問題を抱えるもので考えさせられてしまいました。登場人物の一人の亭主の描写が吐き気をもよおすくらいに嫌な人間でいたたまれなかった・・・。そんな男と一緒にいる必要は絶対にないもの。人を見下して馬鹿にするような人間とはいっしょに暮らせない。人の気持ちをなんだと思ってるんだ!?と本気で怒ってしまいましたっ。プン。あれやこれや考えさせられる秀作にございました。オススメです。

 いまのわたしに、友達と呼べる人がいるだろうか?

『ママの友達』 2007.3.25. 新津きよみ 光文社



2007年04月07日(土) 『コーリング 闇からの声』 柳原慧

 純也は、施設で一緒だった零と「特殊清掃屋」をやっている。死者が出た部屋の清掃を引き受けるのだ。浴槽で死んだ女はドロドロに溶けていた。そこの清掃を終えた純也は見てしまった。裸で膝を抱えている死んだはずの女を・・・。その女の自殺を調べるうちに、純也は彼女の抱えていた闇に引き込まれてしまうのだった・・・。

 うーむ、これはまたすごく面白かったです。純也と零のキャラクターもいいですし、死んだ女の抱えていたいた闇が明らかにされていく過程が二転三転としていてうまい展開なのですよー! インターネットや美容整形など現代人が嵌りがちな日常の闇に気をつけて・・・。

ううん。人間のちょっとした思い遣りや優しさが世の中を変えていくって、あたしは信じてる。そんなことで人は救われたり、それが得られない場合には死ぬほど落ち込んだりするんだよ

『コーリング 闇からの声』 2007.3.23. 柳原慧 宝島社



2007年04月06日(金) 『ソウル・ボディ −魂の約束ー』 明野照葉

 真島菜緒子は歌舞伎町の雑踏で妙な感覚に襲われた。頭の蓋が開いた・・・? 頭の内側で声がして、その気持ちよさに涙あふれ。その不思議さに戸惑う菜緒子。その日その日を面白おかしく生きていた菜緒子だったが、金のために割り切ってやっていた風俗の仕事に行けなくなってしまった。菜緒子はどう生きていけばいいのか。菜緒子が辿り着く場所とは・・・。

 待ちに待った明野照葉さんの新刊しかも上下巻です! 作品を読みたいから待ち遠しい、ソノ上に今回はある楽しみが付加されているため、ずっとずっと楽しみに待っていました。実はこの作品に私の「昔の名前」が出ています。明野さんのファンサイトで名前を使っていただける話題になり、私は昔の名前=結婚していた時の名前を希望したのでした。私は殺人犯でも殺される役でもなんでも良かったのです。それが・・・それが・・・すごくいいカタチで登場させていただきました。私が頑張っていた頃の仕事もそのまんまで(これは偶然かもしれませんが)。なんだかすごく感激感動しました。嬉しかった。
 この作品は今の時代に合っている、今の時代に必要とされていると感じました。明野さん御自身が人より進化されている気がしていましたが、作品を読むうちに明野さんの感じておられること、苦労されていること、闘ってらっしゃること、・・・さまざまなものが見えてきたように思えました。ああいう美しい魂を持ってしまった方は本当に生き辛いでしょうね。人より少し進んでいて人より少し魂が綺麗過ぎる。そういうのってつらいだろうなぁ。でも菜緒子も菜緒子の仲間達も前向きに足を踏み出していく。その清々しさに涙しました。心に美しい物語というものがあるのだなぁ。すごくいいものを読ませていただいたと感謝しています。

『ソウル・ボディ −魂の約束ー』 明野照葉 ゴマ・ブックス



2007年04月04日(水) 『蛇怨鬼』 天沢彰

 電脳霊媒師・菅原裕子を頼る人は後を絶たない。死んでしまった愛するアノヒトに会いたいからだ。ある降霊会の日、それは起こった。突然の怪異に逃げ出す参加者たち。菅原裕子は参加者たちに叫ぶ。「ダメよ逃げちゃ! このままにしておくと災いの扉がこの世に開いたままになるわ!」・・・そして参加者たちが次々と奇妙な死に方をして・・・!?

 この手のホラーものには当たり外れが大きいと思っているのですが、この本はなかなか面白かったです。現代と悪霊とが微妙に影響しあっていて古くさくなかったので。今、テレビでは占い師やスピリチュアルな方が大人気。もしかしたら電脳霊媒師などが人気を博すことになるやもしれませんねぇ。ありえそう。

『蛇怨鬼』 天沢彰 ハルキ・ホラー文庫



2007年04月01日(日) 『誓いの夏から』 永瀬隼介

 十川慧一は剣道の出稽古で警察の鷲見から1本を取りたくてたまらなかった。それはアイスドールと呼ばれる美少女・広田杏子から言われた言葉に奮起していたからだった。17歳青春真っ只中の慧一と杏子。恵まれた家庭に育った慧一と母子家庭で苦労人の杏子。惹かれあいながら一線を越えられない。そんなある日、杏子が事件に巻き込まれた。杏子の家庭教師先で殺人事件が発生し、居合わせた杏子だけが生き残ったのだった。さまざまな醜聞にさらされる杏子。そして19年後、杏子は鷲見と結婚していた・・・。

 導入は汗臭く甘酸っぱい青春物語であったものが、ヒロインが巻き込まれた猟奇殺人から一変するところがすごく面白かったです。杏子が巻き込まれた事件の真相が・・・これがもうなんとも・・・。好きでたまらなかった少女を守れなかった男の想いも心にせまるものがありました。犯人はいったい誰なのか? ふふふ。読んでみないとわからなーい(笑)。個人的にはかなり好きな物語でありました。

「ベッドでわたしに組み敷かれ、杏子はこう言って泣いたよ」
 ほおが緩んだ。唇をすぼめ、虚空を見つめた。
「十川くん、助けて、助けて」

『誓いの夏から』 2007.2.25. 永瀬隼介 光文社



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