酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
DiaryINDEX|past|will
2005年06月30日(木) |
『切れない糸』 坂木司 |
アライクリーニング店の息子・新井和也は父の急死により店を手伝う事になる。商店街の中にあるアライクリーニングは地域密着の昔ながらのお店。母親、アイロン職人のシゲさんとパートの松竹梅トリオのオバサマたち、そして関わる地域の人たちやお客さんたちと関わりつつ、少しずつ成長していく・・・のだが、そこには気になる不思議があちこちに出没し、喫茶ロッキーを手伝っている友人の沢田に助けられ、解決していく。
坂木司さんのひきこもり探偵シリーズでは、主人公が人としてあまりにも未熟で読んでいて「ぶっとばす!」と何度イライラしたことか(苦笑)。でもそこが素敵(はぁと)ってな人たちも多かったので、ごく個人的な私のひとりごとってことで。でも今回の物語の和也と沢田はなかなかよい男の子です。特に和也に好感が持てました。沢田のことはもっともっと掘り下げて欲しかった! シリーズ化されるならば、今後の展開に期待ですねv アイロン職人のシゲさんも素敵だった〜(ここにはぁとウフ) クリーニングに出せば綺麗になって戻ってくる・・・なんて認識しかもっていないのだから、読んでいて恥ずかしくなりました。大人の女としてこれくらいの知識は持っておかなくちゃ、と見当違いな読み方をしちゃったのでありました。
でも、気持ちがついていかない
『切れない糸』 2005.5.25. 坂木司 東京創元社
2005年06月28日(火) |
『ともだち刑』 雨宮処凛 |
「あなた」が気になっていた「わたし」は、「あなた」が笑ってくれればそれで嬉しい。でもいつのまにか「あなた」によって「わたし」の存在はどんどんどんどん貶められていき・・・
参っちゃったなぁ。「わたし」が好意を寄せていた「あなた」(同性)にいじめを受け続ける過去の物語と、おとなになった現在の「わたし」の物語が交互に語られ、最後に「わたし」がとんでもない行動に走ってしまう・・・?と言う様な、かなり悲惨な重苦しい物語です。なんと言うかネバネバまとわりつく空気が読み終わっても取れない感じ。 いじめという行為は加害者と被害者では心に残る傷が違う。想像力を持って加害者になるか、想像力を持たず加害者になるか。いずれにしてもその罪は変わらないし、いずれの神経の持ち主はろくなもんじゃない。力や言葉で人を押さえつけようとする人間はいつかどこかでしっぺ返しを喰らっちゃう気がするわ。
『ともだち刑』 2005.3.18. 雨宮処凛 講談社
2005年06月25日(土) |
『スパイラル・エイジ』 新津きよみ |
美樹は高校時代の友人・雪乃と再会。共に40代。偶然で済むはずの再会だったが、雪乃がマンションへ転がり込んでくる。彼女は人を殺していた。雪乃に情をかけたばかりに、不倫相手の妻・暁子の殴りこみに雪乃が対応してしまう。しかも雪乃は妊娠していた! 三人の女たちの人生と激情がそれぞれに絡まりあい、そして・・・
うー、なんだか心にイタイ物語でございました。化粧品のCMなどで「アンチ・エイジング」などと言われていますが、女性にとって衰えや変化は深刻な問題になっています。ええっ。スパイラル・ポイントという言葉があるそうで(こちらは知らなかった)女性ホルモンが減少する時期(37歳〜39歳)をさすらしい。体型の変化が顕著になる・・・そうかー、そうなのかー。 三人の女たちが登場して、キィとなるのは殺人者で妊娠している雪乃。でも一番捉えどころの無い女性です。雪乃を挟んで美樹と暁子が闘うと言う感じなのですが(直接的ではなく・・・)、うーむぅ、終り方がちょっと。そこでその人が持っていっちゃうの?みたいな肩透かしをくらいました(笑)。メインの三人だけでなくとにもかくにも老いと向き合う女たちの物語です。重かった!
『スパイラル・エイジ』 2005.5.30. 新津きよみ 講談社
2005年06月24日(金) |
『優しい音楽』 瀬尾まいこ |
「がらくた効果」 同棲相手のはな子は好奇心旺盛でいろんなものに手を出す。どうせまたおかしながらくたを持って帰ったのだろうと思った章太郎だったが、はな子が今回「拾ってきちゃった」ものは可動式、佐々木さんと言うおじさんだった・・・!?
「優しい音楽」と「タイムラグ」は個人的にはあんまり・・・。「優しい音楽」はちょいとイタイし、「タイムラグ」は設定が好きになれなかった。もちろん文章がいいのでキチンと読ませていただきましたけれども。でも「がらくた効果」はよかった〜。拾われてきた佐々木さんと馴染んでいく章太郎がいいの、とっても。人との関わりは本当に大切なものなのですねv
「おかしかろうが、今私たちの生きている社会の中で回っていくことこそ、大事なことですよ」
『優しい音楽』 2005.4.30. 瀬尾まいこ 双葉社
2005年06月22日(水) |
『てるてるあした』 加納朋子 |
佐々良(ささら)に一人の少女が降り立った。一生懸命勉強して合格した高校に行く事も出来ず、両親の失敗で放り出されてしまった雨宮照代。イマドキの少女にしては古風な名前の少女が少女の人生が、佐々良の町でどう変化していくのか。佐々良の町はどんな不思議が起こっても不思議じゃない町だから・・・
加納朋子さん、すごい。貪るように空いた時間に読んでいたのですが、最終に近づくにつれて涙を堪えるに必死でありました。人が変わっていける素晴らしさや、関わる人の優しさ・厳しさに気づける幸福。自分の心の目を開いてしっかりと見ようとすれば、ツマラナイなんて言っている人生が変わっていくかもしれません。この本は2005年の大当たりかもしれないなぁ。超オススメです。
「変わった」という言葉が誉め言葉になるか否か。もしくは「頑張れ」という言葉が純粋な励ましとなるか否か。すべては自分次第なのだ、という気がする。
『てるてるあした』 2005.5.25. 加納朋子 幻冬舎
2005年06月19日(日) |
『チャット隠れ鬼』 山口雅也 |
「気弱なオタ茶」<オタク・ティ(=TEA)チャー>と揶揄されている国語教師・祭戸浩実は、学院長からインターネット・パトロール→サイバー・エンジェルに推薦される。渋々引き受けた祭戸だったが、チャットの魅力にはまりこみ、主婦のハンドルネームいぜべるに夢中になってしまう。しかし、だんだんと彼女の正体に疑問を抱き始め・・・
ネット小説だったもののノベライズですから、従来の小説と違い横書き形式。小説っていうものは縦で読みなれてしまっていることを気づきます。違和感あるけどネットを表現するにはコチラか・・・。 このテのストーリーを読むと必ず書きますが、栗本薫さんの『仮面舞踏会』を越えるシロモノにはなかなか出逢えない。残念ながら。山口さんのこのストーリーは筋が読みきれましたから。面白いのですけどね。どうしたって惹かれて読んでしまうし。ネット社会では、こういう危険がいっぱいなことをこの小説を通して知って欲しいものです。
まったくネットの匿名性の裏には、どんな奴が潜んでいるかわからないから
『チャット隠れ鬼』 2005.5.25. 山口雅也 光文社
2005年06月18日(土) |
『最後の願い』 光原百合 |
劇団Φの代表:度会(わたらい)恭平は、旗揚げ公演を目指してスタッフを自分の目で選んでいる。自分が納得した相手でなければ一緒に舞台を踏みたくないと豪語する不敵な奴。そんな渡会が出逢った風見爽馬は「この人しかいない」と思わせる人物だった。ふたりが目をつける人物は皆それぞれに謎を抱えていて・・・
これはうまいですね〜、光原さんv 短篇が最後に長編となる。しかも八犬伝ばりに素敵でミリョク的な仲間が増殖していくんだもの。やられたなぁ。 ただ、最後に光原さんご自身が謝辞で触れられておられましたが、あまりにもアル舞台俳優さんおふたりを思い浮かべてしまえて、なんとも複雑でした。もちろん現実の彼らとは違うのでしょうけど、どうしたってその目で読んじゃって・・・。そこだけが個人的には残念だった気がします。舞台にも映像にも出来る洒落た物語には変わりないですけど。
俺が一目置ける相手でなきゃ、一緒にやるのはごめんですから
『最後の願い』 2005.2.25. 光原百合 光文社
ちょこっと旅へ。旅に持参する本って人はどんなふうに選んでいるのかしら。その選択基準が他人事ながら気になるところ。私は新しい本と馴染んでいて読み返したい本を必ず持っていく。新しい出会いもしたいし、馴染んだ外れの無い本にホッとしたいから。 今回のお供本は、新しい本として光原百合さんの『最後の願い』と石持浅海さんの『扉は閉ざされたまま』を。馴染んだ大好き本としては高田崇史さんの『パズル自由自在』と椹野道流さんの『暁天の星』をチョイス。三泊四日で全部読めるとは思えないけれど(笑)、どうしてもこれくらいの数は持ってたい。ライナスの毛布ですね。 いつもと違う風景の中で大好きな本を読む時間が少しでも多い旅となりますように。
2005年06月12日(日) |
『賢者はベンチで思索する』 近藤史恵 |
久里子は、服飾関係の専門学校を卒業したものの思うような就職先がなく、家の近くのファミリーレストランでアルバイトをしていた。とりあえず今日を過ごす久里子が、不思議な客と知り合い、自分の周りで起こる出来事を一緒に謎解きしていくうちに・・・
あぁっ(よろめいた)、近藤史恵さんスキ。ぱたり(失神・・・はウソ)v 犬好きの近藤史恵さんらしく、可愛いワンちゃんがたくさん登場して犬ズキにはたまらない! 生きていると、迷ったり、停滞したりする。でもなにかの出会いや突破口があって、そこで迷ったり怖気づいたりしなかったら、案外未来は開けるのかもしれない。その時に掴み取ったきっかけを生かすも殺すも自分次第。そんなふうにエールをいただいた気分でありました。素晴らしいv ブラボーvv
「そう、悪いことより、いいことの方がたくさん起こる。それに、こう考えておきなさい。いいことが起こっても、次に悪いことが起こるとは限らない。反対に悪いことが起これば、その次はいいことが起こるんだ、とね」
『賢者はベンチで思索する』 2005.5.30. 近藤史恵 文藝春秋
2005年06月11日(土) |
『零時の犯罪予報』 日本推理作家協会=編 |
「六時間後に君は死ぬ」 美緒は自分を呼び止めた若い男から「六時間後に君は死ぬ」と言われる。その男はたまに人の未来が分かると言う。美緒はその予言を覆そうと行動するのだが・・・
高野和明さんの物語は根底に優しいものが流れていてお気に入り。この短篇もラストがとても心地いい。短篇で物語をはじめて終えるって至難の技だと思う。だから短篇のうまい作家さんは好きだなぁ。 この物語は日本推理作家協会=編「零時の犯罪予報」におさめられてます。他にも素晴らしい作品ばかりで、贅沢で満足できる一冊。知らなかった作家さんを知ることができるのも嬉しい限り。今回は姫野カオルコさんをはじめて読んで興味を持ちました。薄井ゆうじさんの短篇もよかったなぁ。ああいう昔懐かしいセピアなトーンには弱いのでありました。
時はベルトコンベアだ。どんな人間も区別することなく、前へ前へと機械的に送り出してしまう。そこに不公平がないから、世の中は意外と平和なのかもしれない。
『零時の犯罪予報』 2005.4.15. 日本推理作家協会=編 講談社文庫
2005年06月10日(金) |
『禁じられた遊び』 吉村達也 |
綾は出来ちゃった結婚で順風満帆と得意満面だったが、三十歳にして夫と子育てに行き詰まってしまう。つい刺激を求めて出会い系でアル男と知り合い、禁断の世界へ足を踏み入れてしまうのだが・・・
出会い系、不特定多数の相手を向こうに回して飛び込むって無謀と言うか、世間知らずと言うか・・・。ものすごく怖いことだと思うのですよね。そうであって欲しくは無いけれど、実際世の中にはトンデモナイ人種がうようよしてる。そういう人たちが網を張っている可能性、それってちょっと考えればわかることじゃないのかしら。寂しいから、欲求不満だから、そんな鬱屈した思いを出会い系などで晴らそうとすることは危険だと気づいて欲しいなぁ。 この物語は夫に顧みられなくなった女性が、出会い系で知り合った男にトンデモナイことをさせられていくという刺激的なもの。個人的にはラストに救いがあったかもしれない。自分が自分であるために生きていくって案外むずかしいことだと思っちゃいました。
「新しい自分になりたかったら、見た目じゃなくて心を変えなさい。容れ物ばかり変えたところで何になるの」
『禁じられた遊び』 2005.4.25. 吉村達也 集英社文庫
2005年06月07日(火) |
『魂萌え!』 桐野夏生 |
59歳の敏子の夫が心臓麻痺で急死。専業主婦だった敏子に襲い掛かる夫の秘密に子供達の遺産争い。さまざまな経験を重ね、敏子が選び取っていくもの・・・
やー、桐野夏生って人がまたやってくれましたって感じ。またもヤラレタ。こういうヤラレ感は爽快です。なにを書こうとも桐野夏生パワーの底力をビシバシに受けとめてしまう。でも今回は桐野さんにしては抑え気味かしら? 人が死ぬって本当にすごいこと。当たり前にそこにあった生がいきなり消滅してしまう。そこから波及すること、遺された人の心に及ぼすこと、とても多いのです。実感しながら読みきりました。 いきなり死んじゃった旦那の秘密を知った時、敏子は動揺し、取り乱し、本来持っていた己を呼び覚ます。秘められていた敏子の猛々しいパッションが心地よかったです。苦しみや悲しみや嫌な事を受け止めながら前へ進む。それを人それぞれのペースでやっていけばいいんじゃないかな。なにかに遭遇したときポキリと折れないで。ちょっと骨折して治しながら前へ。不細工でいいじゃない。カッコ悪くていいじゃない。自分が自分らしく前へ。それでいいじゃない。そんなこと思いました。
「人が一人死ぬと、いろんなことが変わるんだね。あたし、今回すごくよくわかった」
『魂萌え!』 2005.4.10. 桐野夏生 毎日新聞社
2005年06月05日(日) |
『秘密クラブ、平安の都へ!』 椹野道流 |
奪われた理事長の体を取り戻すために、真透と要平は陰陽師・小野篁に導かれ平安時代へ。要平のアーチェリーの技に真透の力を乗せて妖魔に立ち向かうのだが・・・
椹野道流さんの物語には素敵なイラストつきシリーズが多く、イメージを呼び起こしやすくて嬉しい。物語にあったイラストって相乗効果バッチリ。今回の秘密クラブシリーズのイラストも素敵なんですよね〜。こういう清潔感のある高校生っていいわ〜。だらだら。 さて。椹野道流さんモノでは御馴染み(?)の男の子と男の子の妖しい微妙な関係。笑顔が必殺技の真透に振り回されっぱなしの硬派・要平。要平のあたふたっぷりが見ていて(読んでいて)オンナゴコロくすぐるのでありました。うふふ。今回は現代の高校生が平安時代で大暴れ・・・小暴れかしら。シリーズ化なのでこれからも登場が楽しみな陰陽師の小野篁も素敵だったな〜。 単純に読んで楽しめる、私の読書の基本のような物語でありまする。
考えてもみろ。好きなことだけやっておれば、いつかは飽きる。ただの一度の人生だというのに、あっという間に面白うなくなってしまうわ。
『秘密クラブ、平安の都へ!』 2005.5.1. 椹野道流 小学館
2005年06月04日(土) |
『シーセッド・ヒーセッド』 柴田よしき |
新宿二丁目で無認可保育所の園長をやっているハナちゃん(花咲)は、副業で私立探偵をやっている。美形のヤクザ山内練に借金を抱えるハナちゃんは、保育所を守るために、危ない依頼に挑むのだが・・・
ハナちゃんは人気者。男女ともに評判いいですねぇ。私も勿論ハナちゃん大好きだけれども、練ちゃんの前にはかすむ、かすむ〜。このハナちゃん探偵シリーズでの練ちゃんはちょっとだけ人間らしい温かみを感じさせる。今回は練ちゃんの子供? 事件にはらはらどきどき。これってまだまだ続いていくかもしれない。練ちゃんはハナちゃんによってどこまで変わっていくのかなぁ。気になるぅぅぅ。
「人は・・・・・・人がこの世に遺していくものは、金とか物とかだけじゃない。思い出、ってやつだって、あるんじゃないですか?」
『シーセッド・ヒーセッド』 2005.4.25. 柴田よしき 実業之日本社
|