ウラニッキ
You Fuzuki



 白珠続き〜(ネタバレ)

いま書いてるとこまで。
いきなり全消しするかもですがそのへんご愛嬌で。(笑)

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 クリスの黄金の髪を飾っていた花が、またひとつ、はらりと床に散った。
 美しく繊細に結い上げられた髪は、あちらこちらでゆがみほつれて、身動きのたびにきらきらとゆらめく。
 斜めに大きく裂けた緋色のマントが翻って、見物人の視界に赤い残像を残した。
 世にも稀なこの打ち合いが始まって、すでに四半刻は過ぎている。互いにかすり傷すらいまだなく、ただ荒くなった呼吸と額の汗と、仕立て屋が見たら歎くであろう着衣の惨状とが、その激しさを物語るものだった。
 手首の銀の菫をしゃらんと鳴らして、クリスは正面に突きを繰り出した。きぃんと金属音、弾かれた勢いを回転力に変えて脇を取り、高い位置から振り下したレイピアは虚空を薙ぐ。身軽いステップで跳び退ったエアが仕掛けてきた二段の突きを半身にかわしてそのまま真後ろに数歩、下がったところで細い踵がドレスの裾を引っ掛けた。
 バランスを崩すまいと、力を込めた左の足首が鈍く痛む。周囲に悟られぬようにこっそりと、クリスは舌打ちをした。
 ――これほどに不自由か。
 いまさらのようにそう思った。細く高い踵と指先を締めつける窮屈な爪先は足許をひどく不安定にする。一撃にじゅうぶんな体重を乗せる、力強い踏み込みなどこの靴では出来はしない。ひとつ床を蹴るたびにぐらつくバランスを、足首と膝とで強引に支えるので精一杯だ。ドレスの裾は動くたびに汗をかいた足にまとわりつくし、やわらかく肩を覆うレースの袖は、つねならば自在に剣を操る腕の障害物にしかならない。
 足許に視線を転じた一瞬に、間近に迫る気配がある。意識するよりはやく、銀のきらめきを絡めとるように跳ね上げながら懐を狙う。けれども今度も長い裾が邪魔をして、意図したよりも半歩足りない踏み込みが、間合いの外に逃げられる隙になった。
 半年、じかに教えた。だからクリスはエアの力量を誰よりも良く知っている。相当の使い手であるという自負もある。だが力量を知るからこそ、絶対に自分は負けないという自負もまた、あった。生半な腕で十七の少女が若手一を名乗れるほど、騎士隊は甘い世界ではない。
 ――それが今はよく言って互角、むしろ圧倒される場面のほうが多い。一切の手加減抜きに打ち込んでくるエアリアスに嬉しさを覚えながらそれ以上に、思ったとおりに動けない状況が歯軋りするほど悔しくて仕方がない。

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いまんとここんな感じ。でもこれ、パターン2なんですがね。

2002年11月30日(土)
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