○プラシーヴォ○
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山さんはまるで子供のように
職場で、大好きなあの子にちょっかいを出す
山さんがあの子を好きなのは 公認で、 でもあの子はシラっと何もないように 山さんをかわし続けている
職場で唯一の独身男性の山さんは いつも女性陣の噂話のネタにされてて
『独身だから、チヤホヤされるだけであって そんなに格好よくはないわよねえ』
なんて言われてる
確かに、男前ではないの
猫背だし、ぼっちゃん刈りだし
私と同期で入った派遣の女の子も
『山さんだけはありえない』
それにあわせて私も 好きじゃないふりをしていた
でももうとうとう
胸が痛くて
苦しくて
嘘をつく意味が分からなくなって
同期に子にだけ こっそり打ち明けた
『ずっと黙ってたけど 私、山さんが好きなの』
同期の子は一瞬言葉を失い、 カフェのソファーにどさりと背をもたせ 目をまん丸にしていた
『…いつから?』
『わりと、最初から』
『がちゃさんだけは、山さんを好きにならないと思ってた』
好きになっちゃいました
あなたの全部が好き
あなたはきっと あの子のことが好きで
でもこの時点で
『ちくしょう』って思うなら
それはもうすでに 貴方のことを好きではないんだろう
全部ひっくるめて大丈夫…??かな 胸がちくちくするけど
やっぱり好き
何をしても好き
何を言っても、好き
よかった貴方に会えて
奇跡だ
『イルカ』
いつもいつも 私が何度も聞きなおさなくては 会話が成立しないほど言葉が少ない貴方は
やっぱりポソリとつぶやいただけで 親指ほどの小さなイルカの人形を私に見せた
カシャンカシャン、と机の引き出しにイルカを ひっつけてみせる マグネットがついてるんだねえ
あなたがあまりこの人形に興味がなさそうなのをいいことに こっそりこれを私の机の上に置いて 私とあなたの間にあるプリンターの端っこから そうっとイルカの顔だけを覗かせてみる
私の向かいに座っている女性の先輩が
『それ、イルカちゃん、何?』
『イルカです こうやって、そうっと山さんを見てるんです』
そこでイルカを取られたことを 初めて気づいた山さんは ふふっと笑って、また何事もなかったように 仕事を始めた
このイルカは、私です
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