夢見る汗牛充棟
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「過去のことば」
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*輪廻があるなら ひとのいないほしの
おおきないっぽんの きになりたい
あやしい空間の あるようなないような
世界にたち 風に葉は震え 雨に幹はうたう
そのうたは 百や千の水晶やらでできた
音楽のように透明で すがしいといい
至る場所へと その音楽はしみてゆき
共鳴するといい 万物と調和して
溶けあえるといい。
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*といず ほう みみすませ
といず ほう めをこらせ
すべてのことわり ことばのむすびめ
おりめただしく いろなすちょうわを
あらわすように めいずるうた
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*二人は 異なる世界に立っている
平行世界の住人たちは
形式的には肉体が肉体を生み出したが故に
相互理解の重責を負い
届かぬ魂に 両の腕を差し伸べて喘ぐのだ
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*愛のために 正当に喰う
思考を 力を 両腕を 両足を
精神の隷従者は わずか一つまみ残された思考力を
感情の漬物に変える
最後に一つのことばが残る
消えてしまおう!もしくは、消えちまえ!
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*たんぽぽ茶
とぽんっ
淡い黄金色をした紅茶のなかで
夢がぐるぐる 泳いでいる
獏がそれを食べたくて 追いかけて泳ぐ
ぐるぐるぐるぐる
紅茶の色は お日様の色
季節を間違えた たんぽぽが
カップの中で花を開いた
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*こんぺいと
仏像が首をかしげてわらう
生きてるの?
不思議だったから そう聞いた
さてね
はすの花から こんぺいとがあふれだす
転がり落ちて 仏像は埋まる
両手をさしだして それを受け止めながら
わたしも埋まる
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*旅をしようと思います
とおく とおく 野山を越えて
歩いてゆこうと思います
くまなく続くいかなる道も
一番はきなれた一足の靴で
この身で計る真の距離を
感じながらゆきたいのです
背中の袋に 好きな本
上着のポケットには ちいさな笛
昼は両手に地球をかかえ
夜は銀の星を背負ってすすむ
歌いたい歌をくちびるにもてば
あとは四方にゆくだけのはなしで
そうして旅は始まるみたい
『ねこ、ときどきねこ』
「ただいまー」 と言って、帰ったマンションには、当然だけど誰もいない。もちろん、そんな事は知っているから、気にもならない。ここは、私の家でもあるから、好き勝手に過ごす。
現在の同居人は、仕事が忙しいからあまり構ってくれないし。 最近は「あー、忙しい、忙しい」と言いながら、ますます家にいる時間が減っている。帰ってきたら、すぐに寝てしまうし。 私が、せっかく甘えてあげているのに。5分も私を構っているとそのうち気が遠くなるみたいで。朝は朝で、つっついたって起きやしない。疲れてるのわかるけど。まぁ、踏んづけて強引に起こしちゃうけど。
でも、そういうの、ちょっと寂しかったりする。 けれど、言わない。私、自立してるから。 正直いうと、「言わなくても、わかれ、莫迦」って気分もあるの。
しばらくして、退屈になってきた私は、ソファの上に寝転がる。 ソファの上には薄情な同居人の脱ぎ捨てたTシャツが転がっている。 薄情な上に、だらしがないなんて駄目駄目だと思う。 でも、まぁ、Tシャツからは好きな匂いがするからずっとだらしがないままでいいなぁって思う。そゆうの枕にしてみたりなんかして、私もけっこう可愛いところがある。 ぐるぐるぐるぐるぐるるるるぅ。 知らず知らずのうちに喉からもれる歌。 微睡ながら 夢をみる。…優しく撫でる暖かな手を。
私は、きれいなオッドアイの黒いねこ。 とても、しなやかな身体をしていて、踊るように魅力的に歩く。人間だけじゃなく、猫だって私に見惚れている。でも、私は猫なんか眼中にない。なぜなら、私は昔人間だったねこだから。本当よ?だから人間の言葉だって、わかる。なんで、ねこになったのかって?何でかしら?人間やめたからじゃないのかなぁ…。知らない、そんなの。不都合なんか、なにもないし。
だって、私にとって大事なのは、撫でてくれる優しい手、甘やかなことば。欲しがって、欲しがって、欲しがって、それだけだと人間は見捨てられる。 今は、ねこだから大丈夫。 抱っこして欲しければ、抱っこしてもらえ、なでて欲しい時はなでてもらえる。膝の上にのっかっても怒られない。飽きるまで、匂いをかいでいられる。 優しく語り掛けてもらえる。ひたすらに甘やかされて、ぐるぅ…と懐いて、こどもに戻っても許される。 だから、そうね、ずっとねこのまんまでいいわ。
「おーい」 頭の上から、声がふってくる。 「なー」 「……なぁ、じゃないぞ、こら!目、開けろよ、何やってんの?」 薄目を開けるとソファの傍らに仁王立ちに突っ立って、同居人が私の事を見下ろしている。帰ってきた!ぴんと直立するしっぽ。 「………」 もちろん私はTシャツから、本物に乗り換える。 出し抜けに起き上がった私に飛びつかれた同居人は、狼狽して声をあげた。 「ぅわぁ!」 「なんだぁ?なんだ、何なんだ?」 すりすりすりすりすり。
「……何してんの?」 しばらくされるがままになっていた同居人の声が、頭の上から降ってくる。私は、きれいなオッドアイの黒いねこ… 「…ねこごっこ」 沈黙がおりた。それから、はーっと呆れたようなため息。軽く小突くように手が頭の上に。 そして、最後は言葉。 「へんなおんな」 「へっへっへっへぇ」………どうせね。
「今日は、早かったね、最近ないくらい」 「うん。ここんとこ、ずっと遅かったから、頑張って早く帰ってきたんだよ。そうしたら、あんた人間やめてるし。どうしようかと思った。 ……んで、飯は?」 「できてる。…ちなみにお風呂もいれた。だから、私がねこになってようが、なんだろうが、それは空き時間なんだから、いいの!」 「…なに、威張っているんだか…。ようは、俺がいないと寂しいってことだ」 「違うって!………でもだね、たまにはね、ちょっとくらいひっついても、いいんじゃ、ない……かな?…」 「ま、いいだろう、許可しましょう」 同居人は笑いながら言った。 「なに、いばってんのよ…」
ねこときどきねこな時間のおはなし。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おしまい・・・・・・
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