【独言】
キョウ|キノウ|アシタ
子は、ブラウン管越しにその男をぼうっと見つめた。 男は今しがた、その箱の中で、対話のもとで独白をした。 自分は見つけたのだと、そう、言った。 「いいな…」 子が呟く。 男が羨ましくて堪らなかった。 何故なら生まれてから一度も子は感じた事が無かったから。 だのに、自分は受け容れられていないという、それだけは知っていた。 現実を現実として認識できていないという、それだけを。 だが、男はようやっとそこから抜け出たのだと言う。 男がそれまでに掛かった年月を思えば、それを自らに換算して、子は少々気の遠くなる思いがした。 それまで、居続けられる根拠はどこにも見い出せない。今は、まだ。 まして、男と子の思考能力諸々の差を考えれば、男のそれよりも遥かに時間が掛かるだろう事は明白な気がする。 子は、泣きたい、と思った。 それでも、涙は出ない。 己を覆う皮一枚向こうに、現実が鎮座する。 それだけだ。
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