【独言】
キョウキノウアシタ


2002年07月10日(水) HEAVEN

子は、ブラウン管越しにその男をぼうっと見つめた。
男は今しがた、その箱の中で、対話のもとで独白をした。
自分は見つけたのだと、そう、言った。
「いいな…」
子が呟く。
男が羨ましくて堪らなかった。
何故なら生まれてから一度も子は感じた事が無かったから。
だのに、自分は受け容れられていないという、それだけは知っていた。
現実を現実として認識できていないという、それだけを。
だが、男はようやっとそこから抜け出たのだと言う。
男がそれまでに掛かった年月を思えば、それを自らに換算して、子は少々気の遠くなる思いがした。
それまで、居続けられる根拠はどこにも見い出せない。今は、まだ。
まして、男と子の思考能力諸々の差を考えれば、男のそれよりも遥かに時間が掛かるだろう事は明白な気がする。
子は、泣きたい、と思った。
それでも、涙は出ない。
己を覆う皮一枚向こうに、現実が鎮座する。
それだけだ。


カナデ |MAIL

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