イシダ植物の「転石」
多感なお年頃、ついに三十路突入いたしました。 これから先もローリングストーンしながらトーキンバゥマイジェネレーションだよ。
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2010年02月08日(月) |
【妄想短編】港のマリー、またはヨーコ |
女(と書いてマリーと読む)はその男(と書いてアントニオ)と夜を過ごすとき、いつも酔っぱらっていた。 記憶をあいまいにするため。本気でのめりこんでしまわないため。 お酒のせいにして、酔って過ごすことで、真正面で取り組んだあとの代償=喪失感、を避けていたのだ。
♪今夜も港町のカフェで お酒ばかり飲んでる 可哀そうなマリーに 恋をしたのね やめたほうがいいわね どうせマリーは今夜も 誰も愛さない♪
マリーは同名の主人公が出てくるこの曲が好きだった。 今、この歌に似た境遇に居ることにも、少し酔っていた。 マリーの今の恋人は、放浪の旅人だった。メキシコ系アメリカ人。 浅黒い肌に、元ネイビーでスケボーが趣味という細く締まった体。 外国人だから、ふだん人に心を開くのに時間のかかるマリーもすぐに素直になれた。 旅人だから、マリーはここぞとばかりに恥をかき捨てて彼との時間を過ごした。
♪昔暮らした男は ある日何も言わずに どこか遠い国へ行く船に乗ったの♪
アントニオは2か月ののちに、何も言わず去っていった。
マリーはほんのりと楽しかったような思い出をどこかに残しながら、 しらふで食事を作り、部屋を片付け、日々を過ごす。 たまにお酒を飲んでも、遠い記憶を見るように懐かしい顔をたまにするだけ。 ただ少し、口ずさむ歌が変わっていた。 "Sweet memories" のようだ。
♪hm hm hm hm〜hm〜 hm hm hm hm〜hm〜♪
歌詞はない。知らないことはないのに、ハミングで涼しげに唄う。
泣くことはない。 マリーはお酒のおかげ、といって微笑む。
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