冒険記録日誌
DiaryINDEXpastwill


2013年06月18日(火) ソード・ワールド2.0サプリメント ミストキャッスル ─蛮都からの生還─(川人 忠明/富士見書房)

 今日は自分的に最近遊ばなくなってきつつある、サイコロなどを使って戦闘をしてはヒットポイントを回復させながら冒険するような、いわゆる腰を据えて遊ぶゲームブックを話題にしたいと思います。
 本来は重量級のゲームブックは大好きなんです。でも遊ぶ時間がないんですよ。
 そのように忙しい現代人は私以外にも世間に沢山いらっしゃるようです。(ここでいう世間はアナログゲームファンの間とでもしましょうか)
 最近発売されるゲームブックの新刊は手軽さが重視されたものが多いのもそのあたりの事情があるのでしょう。旧来のゲームブックにしたって、戦闘ルールなどは適当に飛ばして、単に読み物としていて読んでいる方もそれなりにいらっしゃるようですし。
 手軽な新刊はこれはこれで嬉しいけど、やっぱり一抹の寂しさを感じるところがあります。名作といわれた鈴木直人や林友彦作品も、今の時代には受け入れられないのでしょうね。きっとファミコン版時代のウィザードリィを今遊ぶようなもんでしょうね。ソーサリーの魔法暗記システムも厳しいだろうなぁ。新訳旧訳がどうのといっていた頃ですら今となっては懐かしい。
 でもそんな時代にあっても、がっつり系のゲームブックがうけているケースもあるようです。それが今日紹介するネタである「ミストキャッスル」をはじめとしたシリーズです。
 ミストキャッスルは、大型本で人気TRPGであるソードワールド2.0のサプリメントという位置づけです。
 TRPGファンを中心に一定の人気があるようでシリーズ化され、年に1回のペースで新刊が発売されています。今年の春も5作目でありミストキャッスルの続編である「ミストグレイヴ−蛮都への復讐−」が新発売されているようです。

 山口プリンはTRPGには興味が薄く、我が本棚にある大量のゲームブックに比べると、TRPG系の本はあまりありません。「クロちゃんのTRPG千夜一夜」のシリーズと、元祖ソードワールドの方のリプレイ小説、あとはゲームブックつながりで、社会思想社などから発売されたファイティングファンタジーTRPG関連やT&Tソロシナリオといったところでしょうか。
 当然、TRPGのサプリメントは本来なら管轄外ですし、実際に本書もTRPGを遊ぶときのシナリオとして使うのが主な目的です。
 ただ、普通のシナリオ本と違うのは、本書はソロプレイも可能。つまりゲームブックとしても遊ぶことができるのです。
 発売当時、3000円の高額にしばらく購入を躊躇していましたが、ネットでの評価が高かったのにも心動かされ、最終的に購入してしまいました。
 ところが、買ってわかったことは、「ゲームのルールはソードワールド2.0のものだから、遊ぶならそっちのルールブック(文庫本全3巻)も買ってね」という衝撃的な事実。おかげでしばらく物置行きになりました。
 今思うと、T&Tソロシナリオは簡易ルールが掲載されていて親切設計だったなぁ。ゲーム自体は不親切だったけど。

 しかし、その後TRPGのリプレイ小説がちょっとしたマイブームになった時期がありまして、そのときにソードワールド2.0のルールブックを購入したのです。
 そんな長々した事情のあと、やっと遊んだミストキャッスルの感想ですが、ソロプレイの場合は本の指示をゲームマスターとして遊ぶ形になります。パラグラフが分岐するタイプではなく、街のブロックごとにこの地域の情報や、こう行動したときはこうなる、ここを調べればこんな敵にあう、といった指示や結果が書かれていますので、これにしたがっていく形です。
 街のどの部分に、どんな施設があるかは、新しい場所へ移動するたびにランダムで決まっていくシステムをとっています。このため、例えば噴水を探し出して水を汲んでくるという行為でも、すぐとなりのブロックにあるのか、街の反対側にあるのか、移動中に危険な地域(ブロック)を通過する羽目にならないかで難易度がかなり違ってくるため、何度繰り返しても新鮮にゲームを遊ぶことができます。
 しかし、中には本文の指示では判断がつきかねるシーンなど、プレイヤーのアドリブが必要なところもあり、本書をゲームブックと呼ぶかは判断の難しいところです。

 舞台の方ですが霧の街(ミストキャッスル)という街の中に絞られます。
 この街は300年ほど前に、蛮族(人外のモンスター)に占領され、そのまで現在にいたるまで支配された街で、この町では人間は蛮族の食糧や奴隷として最下層の扱いを受けています。一言で説明すれば北斗の拳の世界です。ヒャッハー!
 蛮族のレストランにいけば、人間が生きたまま鉄板で焼かれるとか、見たことあるシーンが結構あります。モヒカン男並みの知能の蛮族もウヨウヨいますし。普通に歩いているだけで、蛮族に殺されかねない荒廃した世界観ですが、他の蛮族の奴隷は勝手に食ってはいけないなど蛮族には蛮族なりの秩序はあります。こういった世界観はTRPGやゲームブックの題材としては、今まで意外にありそうでなかったので結構良いのではと感じます。
 街中で発生するイベントが多彩で充実しており、主人公がかかわる数々の事件や人間ドラマ的なエピソードも粒ぞろいの内容で飽きさせません。個人的には蛮族の宴用の生贄に予定されているハイネという少女のエピソードが特に印象的で、これは藤子・F・不二雄の知る人ぞ知る短編漫画の傑作「ミノタウロスの皿」のオマージュではないかと思います。

 さて、ゲームの主人公はこの街の住民だったり、依頼を受けて街に潜入した冒険者だったりと複数の設定があります。種族や職業(スキル)の選択に制限はなく、自由にキャラクターを作ることができますが、ルール通りだと主人公は駆け出しの冒険者なので、雑魚相手はともかく、名前のある蛮族と戦うにはレベル的に相当厳しいゲームバランスです。
 TRPGならゲームマスターがある程度手加減してあげることも可能でしょうが、ソロプレイは、よほどよく慎重に行動しないとあっという間に絶滅します。
 殺されても救済処置はありますが、狂った科学者タイプの蛮族に魔改造という、身体にモンスターの肉体をくっつける施術を受けた状態で復活するのでクリアしてもハッピーエンドといえるかどうか。でも、この魔改造はゲームブックファンとしては、スティーブジャクソンの傑作「モンスター誕生」に出てくるマランハの魔法を思い出しますね。
 正義感だけでは生きていけないと割り切って、物騒な蛮族たちに怯えながらも街をあちらこちらとさ迷い、味方となる住民を見つけては依頼を受け、使命を達成して経験値を稼いで成長し、少し強くなればたまに強い蛮族も退治してみるという展開になりそうです。
 なりそうです、と書いたのは私自身はあんまりやりこんでないから。やはり純粋なゲームブックではないので、やりこむには私の守備範囲外という気持ちが大きいです。
 ただ、箱庭的な世界の中で小さな依頼をこなしながら成長するというTRPGのキャンペーンゲームを一冊で再現したゲームブックは、ゲームブックブーム当時の私が待ち望んでいたものです。もし元祖ソードワールドが流行っていた当時に、この手の作品が出ていたら、夢中で遊んでいたと思います。個人的に世界観も2.0より元祖の方が好きでしたし。
 私は勝手にレベル15のプレイヤー(「滅びのサーペント」というリプレイ本に登場する英雄のステータス)に設定して遊んでいました。このレベルだと、さすがに楽勝でケンシロウ気分で蛮族どもをなぎ倒せるので、これはこれで楽しかったです。戦闘技能は拳で戦えるようにグラップラー(拳闘士)を取得。エンハンサー(練体士)技能もとって、戦闘前に怒りに筋肉を増やし、服をビリビリやぶるという脳内演出をしてました。こんな自由な遊び方もできるよ、という一例と思ってください。(笑)

 最終的には霧の街を脱出すればゲームは終了してエンディングに進みます。冒険中には霧の街を人間達が奪還するヒントをいくつか、ゲーム中で発見できますが、本編では霧の街が陥落するところは書かれていません。冒険者がもともとメインとしていた使命を果たしていればハッピーエンドといえるでしょう。
 霧の街のその後の運命については続編「ミストグレイヴ」の方に期待というところでしょうか?
 やり込みの足りない私ですが、奥深い設定があり読み物として隅々まで読むことでも満足のいくものでした。完成度は高い作品だと思います。

 ちなみに、このシリーズ第二弾は「フェアリーガーデン ソードワールド2.0サプリメント ―妖精たちの空中庭園―」という、妖精の世界を舞台にした冒険です。
 こちらはうって変わって明るい世界観でして、戦闘バランスもゆるくなっています。
 冒険を進めると妖精郷の機能が増えていく仕掛けが面白く、前作とは違いゴールになる明確なハッピーエンドが存在するので、こちらの方がややゲームブックの感覚に近いかもしれません。
 3作目以降は未購入。ここから先は新ルールに対応していて、さらに拡張ルールブックも購入しないと遊べないらしいので、結構な出費になりそうだからです。
 商売だからもうけないといけないのはわかるのだけど、もうちょっとユーザーに優しくしてくれないものかなー。


山口プリン |HomePage

My追加