冒険記録日誌
DiaryINDEXpastwill


2009年08月26日(水) ルパン三世 戦場は、フリーウェイ (樋口明雄、塩田信之、吉岡平/双葉文庫)

 本書はゲームブックではありません。小説です。
 双葉文庫から発売されたルパンゲームブックシリーズは、2004年7月の冒険記録日誌などにも感想を書いていますし、この日記を読むような方なら、もうご存知の方も多いかと思います。しかし、ゲームブックシリーズ発売と平行して小説版ルパン三世も発売されていたのはご存知でしょうか?
 ゲームブック版と同じような装丁のうえ、こちらも毎巻別々の作者の手による作品です。この小説版は全6巻までシリーズ化されましたが、なかには双葉のゲームブックで馴染みのある作家が手がけている作品もあり、ルパンゲームブックシリーズとは兄弟のようなものといえるでしょう。
 そんなわけで前からこの小説版ルパンシリーズにも興味をもっていた私は、最近やっとこの全6巻を入手することができました。
 ひととおり読んで見ましたが、ハードボイルドタッチやシリアスな作品が多いです。特に「イーヴル・シティへようこそ」(4巻“ルパン三世 アムネジアの砂漠”に収録)は 、これが本当にルパン三世の世界かと思うほど悲惨な内容に、読み終わったあとズシリと気分が沈んでしまいました。名作という意見もネットで見かけましたが、アダルト向けの作品だと思います。
 私的には、ハードボイルドなルパンも大好きだけど、「泥棒さんたちの華麗な休日」(3巻“ルパン三世 エルドリア大脱出作戦”に収録)のような、すちゃらかな面のルパンを描いたノリの軽い作品がもっとあっても良かったと思うんですけどね。幅広い設定に対応でき、作風も製作者の数だけバリエーション豊かに作れるのがルパン三世の魅力と思っていますので。


 さて、本書の紹介ですが、本書は小説ルパンシリーズの第一作目で、以下の3作の短編が収録されています。

・戦場は、フリーウェイ (樋口明雄)
・泥棒さんと、殺し屋さんと、……ひとりの少女(塩田信之)
・五右衛門秘帳 −燃えよ斬鉄剣− (吉岡 平)

 まず、「戦場は、フリーウェイ」ですが、作者の樋口明雄さんは双葉ゲームブックでは定番の方でしょう。ルパンゲームブックでも「黄金のデッド・チェイス」、「黒い薔薇のノスフェラトゥ」を書かれています。
 次元の単独行動を中心にした作品で、他の仲間は終盤で少し登場する程度です。お宝を盗んだあと、ルパンと別行動をとっての逃走中に、わけありの少年を成り行きで助けてしまい、共に逃走を続けながら少年を狙う殺し屋と熾烈な戦いを繰り広げるというストーリーで、ハードボイルドの見本のような展開となっています。
 樋口明雄ゲームブックによくあるようなギャグは一切なく、殺し屋とカーチェイスをしながらの駆け引きするシーンの緊迫感はかなりの出来。もともと次元というキャラの人気が高いこともあって、ネットでの評価を見てもこの作品に対する評判は高いようです。そういえば以前、復刊ドットコムで本書の復刊が決まったはずですが、結局発売されたのでしょうか?音沙汰がないのですが…。

 「泥棒さんと、殺し屋さんと、……ひとりの少女」の作者、塩田信之さんも双葉定番のゲームブック作家ですね。ルパンゲームブックは「暗黒のピラミッド」、「謀略の九龍コネクション」、「九龍クライシス」となんと3冊も書かれています。ただ、ゲームブックの感想でも書きましたが、塩田ルパンは私の好みとは合わないんですよね。
 作品のストーリーは、慈善家だった小松原徹斎という男が死亡して、まだ高校生の養女、和美に莫大な財産がわたることになったというところから始まります。それを男の本当の息子であり悪徳政治家としても有名な小松原哲也が不服に思い、政界の影の大物に頼んで殺し屋を使って和美を始末しようと考える。そんな事情も知らず、ルパン一味は小松原家の財産を盗み出そうとしていた。盗みに入った先で事情を知ったルパン達は、当然のように和美の味方をするようになって…という感じで物語は展開していきます。塩田さんのHPによると、映画“カリオストロの城”を意識して書かれたとの事で、執筆当時はまだ高校生だったそうです。
 それと、この作品で登場する殺し屋は、人の良い性格でおよそ殺し屋家業に向いてないのに、気迫と執念で五右衛門と互角に渡り合えるほど腕はいいという、設定が破たんしてるだろと突っ込みたくなるキャラとなっています。彼のコードネームも“ラブリーエンジェル・ゴルゴ0013号”と小学生が考えたような変態チックな名前です。(雇い主がつけた名前で、殺し屋本人は気にいっていないらしい) 「戦場は、フリーウェイ」に登場したシリアスな殺し屋(コードネームはスパイダー)との落差があまりに激しいので思わず笑ってしまいました。
 あと読んでいると、妙に説明的な文章が多いのが気になりますが、まあ、その点を除けば、軽めの作風で最後は万事HAPPYENDという展開なので、そうゆうのが嫌いじゃなければ安心して読めるでしょう。

 最後に「五右衛門秘帳 −燃えよ斬鉄剣−」の作者は吉岡平さん。ゲームブック作品は、ルパンシリーズの「さらば愛しきハリウッド」しかありませんが、のちに著作の「宇宙一の無責任男シリーズ」(アニメでは「無責任艦長タイラー」)のアニメ化などで有名になった人です。
 こちらの作品は五右衛門を主人公に据えた剣豪小説といったところ。五右衛門が少年時代に入門していた道場で因縁のあった兄弟子が、五右衛門に文字通りの真剣勝負を申し出てくるお話です。この兄弟子は斬鉄剣の製法を知っており、作中には斬鉄剣の兄弟刀が何本も登場するのがちょっと面白いです。
 とにかく五右衛門がシリアスで格好良い役回りなので、最近のテレビスペシャルなどで、くだけて来たというか少しずつ三枚目的な方向に向かっている五右衛門が不満な人には、是非読んでもらいたい作品です。ラストも五右衛門らしく渋いし、天敵である女性も今回は不二子以外には登場しませんしね。他のルパンメンバーも登場しますが、完全に脇役に徹しています。
 気になったのは、少年のころの五右衛門の描写。女と間違えそうなほどの美少年剣士と書かれています。うーむ、なにか違和感あるなぁ…。


山口プリン |HomePage

My追加