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2003年12月14日(日) わたくし、ずるいんです〜小津安二郎『東京物語』を観て〜

 12日は小津安二郎の命日でもあり、誕生日でもあった。自分の生まれた日に死ぬのはどんな気分だろう。聞いてみたいが、誰に聞こう。
 BSの小津特集の最終日。『東京物語』を観る。尾道に住む父(笠智衆)母(東山千栄子)が子供らの住む東京へ上京する。出世したと思っていた長男は貧乏な町医者で、美容室を営む長女にも特に歓迎はされず、たらい回しにされる。戦死した次男の嫁(原節子)だけがふたりにやさしく接する。老夫婦と子供らをめぐる絆の物語。

 この時の笠はまだ49歳で、とても老人というには早すぎる年齢なんだけど、その円熟した演技は見事というしかない。若い頃の作品を見ても、この台詞の言い回しはすでに完成されていた。その間が小津作品にとてつもなく合う。
 原節子は『晩春』のイメージが強すぎて、「わたくし、ずるいんです」のラストシーンは圧巻ではあったけど、その衝撃まで至らない。小津との最初の出逢いもこの『晩春』だったのだけど、その出逢った最初の衝撃で撮った作品をなかなか越えられなかったらしい。ただ、『晩春』の親子とは対をなすような、血の繋がってない義父と娘の関係は巨視的。10代の僕ではきっと理解できなかったかも知れない。あと10年後に観るとまた違う感慨深さがあるのだろう。

 「原節子が居なかったら、小津は大監督にはならなかったよ。大監督は女優が作るもんだ。原節子はいいよね。あの笑顔が誘ってるみたいじゃない?」とアラーキー。体調不良など不運もあったが、小津の死を機に原は女優を引退。ふたりの関係が言葉では言い表せない、ただならぬ関係なのは周知のこと。ただ、私生活ではふたりが結ばれることはなかった。そういう関係ってすてきだけど、何だか歯がゆい。生涯家庭を持つことなく、独り身だった小津が描く家族がとてつもなく胸に沁みる。

 ふと思ったんだけど、中崎タツヤの『じみへん』(ビックコミックスピリッツ)はちょっと小津チックかもしれない。あの寂しそうな間がね。

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