たちまち方舟ギルドの連絡網を通して指名手配が敷かれた。 懸賞金は親方のコレクションの鳥を全て買えるほどの高額。 懸賞金目当てのごろつきが、大挙して巡視艇を追跡した。
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ドーラには密かな勝算があった。 日が暮れるのを待つと、あえて船速を緩めて追っ手を引き付けた。 やがて土地感のある暗礁海域に差し掛かった。 彼は岩礁に取り付けられている数多のビーコンの周波数をシフトした。 さらに時間が経つとランダムにシフトするように設定した。 これで追っ手の目を奪った事になる。
巡視艇はわざと追っ手から見えるように煌煌と翼端燈を照らした。 熟練したマニュアル操作で暗礁を掻い潜っていく。 追っ手はここぞとばかり突進してくる。 しかし案の定次々に座礁していった。
二人はギルドの追跡がこのまま終わるとも思えず、 念の為どこかの人工島に姿をくらますことにした。 最寄の島は海図によればもう三日で着く距離にある。
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翌日の昼過ぎ。 遥か東の水平線には陸地が見えてきた。 リアラは鳥と戯れながらデッキで寝転んでいる。 ドーラはレーダーに注目しつつもどこか余裕があった。 オート航行に切り替えるとデッキの縁に歩み寄った。
「キミもその子も自由だよ…」
腰掛けるドーラ。
「ありがとう…」
と少女。 キスを交わす二人。 鳥が舳先に飛んでいく。 向かい風のため、まるで釣り糸でぶら下げられているかのように、 ゆらゆらと揺れながら一点に留まる。 その時だった。 さきほどから静かに並泳していた海中の魚影が海面に頭を出した。 体長4メートルあまりのテッポウカジキだ。 その鉄パイプのような鼻先が水の矢を放った。 鋭い放水が鳥に命中した。 鳥は海中に落下した。 二人はスローモーションを見てるいようだった。
「きゃぁっー!」
叫ぶリアラ。
「だめだ!」
ドーラの声も耳にはいらなかった。 彼女は反射的に海へ飛び込んだ。 大きな波に飲まれる少女の華奢な体。
踵を返す船。すでに彼女の姿は見えない。 テッポウカジキは人間を食う程大きな生き物ではないはずだが…
「リアラーっ! リアラーーっ!!」
声の限り叫ぶドーラ。 彼女は見えない。 どこにも見えない。
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