│←命の終る時に臨む→│
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短い夏が始まる。 セミが鳴く爽やかな昼下がりの風によせて、白いカーテンは揺れる。 君はそれに吹かれて、頬をゆるめた。 脈拍数と連動する涙の粒が、如何にも、嵐が過ぎ去った後のように。 僕は、横たわった君 君の苦しんでいる姿を見て。言葉も話せなくなってしまった君の首を絞めようとした。 でも。 僕にそんな権利は、資格は、ないのだと、思い直した。
君は。 確かに。 息をしている。
ケータイのライトに瞳孔が反応する。 君が生きて、生きていることを確かめたかった。 返事をしない君を、少しでも感じていたかった。
君は。 生きている。 死にたいんじゃない。 生きたいんだ。
風に揺れながら、瞬きもせず、窓の外を、箱の中から凝視している。 そう。君は僕の全てを見てきた。君と僕が出逢ってから、 もう、何年になるだろう。……8年も経つ。
元気で・純真無垢で、無邪気な僕と。 今、病気になってしまった僕を、全部。私は、泣いてはいけないと思った。 死にゆく生物を眼にして、涙を流すのは凄く失礼なことだと、 葬儀屋に勤めている女性が言っていたのを思い出したからだ。 泣くのは、その生物が亡くなってからでいいし、「死体を見て泣く」というのは 愛を感じない行為だと、私もまた思うからであって。 君と過ごした日々を思い出しながら、私は、涙したかった。
君の身体は、 私が高2のとき、最後の文化祭で染めた手染めの水色したTシャツと 弟が野球で使っている黄色のハンドタオルと、黄色のタオルに包まれて。 私が、耳の後ろや、顔を撫でると、瞳孔が大小スル。 静かに、静かに、、、静かに。 「大丈夫」「でこ。大丈夫だよ」 何度も君に 言った。遠のく意識の中で言葉の話せない君に。
また、会おう。きっと、会える。 そうして、私の傍に、君の面影を残しておくから、忘れない。絶対に。 守れなくて、ごめん。
=親愛なる、心愛なる、でこちゃんへ=
幸せになるからね。
今まで、本当にありがとう。そして、これからもよろしくね。 元気でやるんだよ。大好きな海老を、ママが君の傍に置いてくれたから。 白と黄色とピンクの菊の花たち。蓮の花。
いよいよ、月曜日は、君が荼毘にふす日。 舎利は、どうしよう。本当は、庭に埋葬したかった。。。
§2003年08月09日(土)§ |