[ 天河砂粒-Diary? ]

2006年02月05日(日) バレンタインSS&フォームお返事

『言えない想いをチョコに込め』


「もうすぐバレンタインだな」
 駅西にそびえ立つ国際センタービル。その13階に位置する占い館の控え室で、黒いスーツに身を包んだ細身の男がゆっくりと椅子に持たれ、狭いキッチンに向かってそう声をかけた。神経質そうな印象を与える銀フレームの眼鏡に、窓外の夜景が映り込んで光る。
「ふーん」
 控え室の片隅でお湯を沸かしながら、ショートカットの少女が素っ気なく答えた。
「俺はブラックが好きだ」
「あーそー?」
「ミルクもホワイトも悪くはないが。ビターな方がコーヒーにもよくあう」
「へぇー」
「……」
 どこまでもそっけない少女の態度を、眼鏡の男は僅かに目を細めて眺めた。
「志築」
 小さな、けれどもはっきりと響く低い声で名を呼び、椅子から立ち上がる。
「なん?」
 志築と呼ばれた少女は、コンロの火を止めると、胡散臭そうに振り返った。
「俺は、ブラックが好きだと言っている」
「だから、なんなん? それが私に関係あるようには思えやんのやけど?」
「志築」
 眼鏡の男はもう一度少女の名を呼び、キッチンへと歩み寄る。
 ゆっくりと迫ってくる長身の黒い影に、不本意にも少女は僅かに身じろいだ。
「な、なんなん?」
「もう少し可愛げのある態度はとれないのか?」
 少女を壁際まで追いつめて、上から顔をのぞき込む。
「はぁ? 何であんたに可愛げのある態度とらんとあかんの。あんたに可愛いなんて言われた日には、私は奇声をあげるわ」
「へぇ?」
 ぴったりと壁に背を付けた状態で悪態をつく少女を、にやりと不敵な笑みで見下ろすと、眼鏡の男はゆっくりと両手を壁につけて彼女を閉じこめた。
「なん……」
 怯えたように瞳を揺らす少女の耳元に顔を近づけて、
「そんなところも可愛いよ、志築」
 眼鏡の男はそう囁いた。――刹那。
「ぎゃあぁあああああああああああああああああああああっ!!!」
「!」
 鼓膜を引き裂かんばかりの悲鳴に、男は慌てて少女の口を手で塞いだ。
「むぐぅっ」
「本気で叫ぶ馬鹿がどこに居る!」
「むぐっふむー!」
「まったくお前は――」
 呆れた顔でため息をつき、男は少女の口から手を放す。
「奇声をあげるって言うたやん」
「だからって、」
 本気で叫ぶ馬鹿がどこに、と、もう一度繰り返そうとしたところへ、控え室の壁にかけられたインターフォンが内線の着信を告げた。
「はい。……ええ。いえ、」
 電話の相手と会話をしながら、眼鏡の男がチラリと少女を見る。
「すみません。うちの馬鹿バイトが沸かしてたお湯を少しこぼしまして。はい。大丈夫です。本人にはかかってませんし。いえ。こちらこそご迷惑をおかけしました」
 受話器を置いて、男は何度目かのため息をついた。
「すごい悲鳴が聞こえましたが何かありましたかって、守衛さんが電話してきたぞ」
「知らんやん」
 少女はぷいと顔を背ける。
「志築」
 その少女の顎を優しく掴んで自分の方を向かせてから、眼鏡の男は言葉を続ける。
「仮にも婚約者である俺に対して、随分な態度を取るじゃないか?」
「仮でしかない婚約者に、優しさ振りまく必要性があるん?」
「仮でなければ良いのか?」
「……そういう問題っちゃうわ」
 顔を固定されたまま目だけをそらす少女を見つめて、眼鏡の男はふっと笑う。
「まあいい。とにかくバレンタインだ、志築。俺はブラックチョコレートを所望する」
「断ったら……?」
「バイト代をカットするだけの話だ」
「は!?」
「仮にも婚約者であり、お世話になっているバイト先のオーナーでもあるこの俺に義理チョコの一つも渡さないような、そんな礼儀のなってないバイト風情に、どうしてバイト代を払う必要があろうか」
「な……」
 唖然としている少女の顎から手を放して、満足げな笑みを浮かべて。
「期待しているぞ」
 男はそう言い残すと、控え室から出ていった。
「し……信じられやん」
 取り残された彼女はがくりと床に膝を突くと、力無く、
「それってパワハラなん違うん……」
 呟いた。

 バレンタイン当日出勤してきた眼鏡の男は、控え室の机の上に置かれたむき出しのチョコレートを見下ろして、しばらく言葉を亡くした。
「さすがに、ちょっと追いつめすぎたか……」
 えもいわれぬ存在感のある、一辺が20センチはあろうかと思われる立方体の黒い塊からは、少女の言葉無き執念が漂っているようだった。


おわり




……うーん。だから何?
(いや、書いた本人がそういうこと言っては駄目なんでは……)
とある長編の番外編にあたるかもしれない気がしないでもないワンシーンでございました。
一辺が20センチもあったら、多分囓れないと思います。
そんなバレンタイン。
今日は欲望渦巻く百貨店の催事場で、バレンタインチョコをしこたま買ってまいりました。これからコツコツ食べていくんだ〜♪ 楽しみ楽しみ。

あ! 新連載に「面白かったら押すボタン」押してくださった皆様、どうもありがとうございます!! みんな優しい!(笑)
……次回の更新に向けて、がんばります。

続いて、コメントありがとうのコーナー!

まずは、新連載の感想フォームから頂きました。
>期待期待! ふと思ったのですが、三紀さん、男子主人公多いですよね。ふと。ではでは。
……ふと。思わず数えてみたりして。
数えた結果、サイトに上がっているのは10対13くらいなので、特別男子主人公の方が多いということもないのではなかろうかと思ったのですが。
しかし、サイトにあげてない分(同人誌の分とか)や、書いてないけどストックしてある分や、「キャラ」として立っている度合いを見た場合、確かに男の子の方が多いかもしれません。ふと。
実際、男の子主人公の方が、考えていて楽しいのでありました。
具体的には、女の子に翻弄される男の子が好きです!!(笑)

続きまして、エンピツフォームから。
>……三紀さんが食べるの!?(笑)>チョコ 毎年バレンタインデーはドイツ方式なNより(笑)
ドイツ式ってどんなだろ。と、調べてしまいました(笑) なるほど。チョコとは限らないし、恋愛の告白とも限らないのですね。
で。もちろん、私が食べるのです!
今年はですねー、毎年買っているオレンジピールのチョコと、オレゴンのチョコケーキと、黒豆チョコと、ナナイロクレヨンという7種類のガナッシュチョコを買いました♪ 食べるのが楽しみです。
……でもひとまず黒豆チョコは微妙でした。不味くは無いけど、特別美味しくもない感じ。
ちなみに私は、学生の頃はチョコは貰うものでしたよ。女の子から!
そして、ホワイトデーにお返しをする青春の日々でした。

>チョコほしー!(何) いつか遊びたいですねー! そんなことをのほほんと思う今日この頃でした
わー。あまきくんおひさしぶりです。
チョコは、私が独り占めです!(何)
そして。本当に、いつかお会いできたらいいですねー。カシマシーズがお迎えしますよ。帝國に来て頂けるならば。……でもちょっと遠いですよね。
でもでも、お互いにネットが繋がっている限りは縁も繋がっていますから、きっとそのうちお会いできますね。楽しみにしております♪

さて。それでは今回はこの辺で。
次回はですねー。……土曜日かな。(かなって……)
最近「コメディ作家」という評価をとある方から頂いて、「いや、違う! コメディ作家というのは“へいじつや”さんくらいのパワフルな笑い発信者を言うのだ!」と、心から弁明したい三紀藍生がお送り致しました。


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