[ 天河砂粒-Diary? ]

2004年05月25日(火) 煽りだけ書きまショー『パパはラフレシア』

注意:
これは、「煽りや一話にあたる部分だけ書いてみよう」という、橘さんがその昔、創作日記で公開されていた企画であり、基本的に続きは書かないという無責任でふざけたコーナーです。
くれぐれも、そのつもりでお読みください。



「パパな、実はラフレシアなんだ」
 そのひと言に、まなかちゃんとのチャットデートにいそしんでいた僕は手を止めた。
 無言でパパを振り返る。
 パパは固唾を呑んで、僕の反応を伺っている。
 僕はどういう反応を返したらいいのか判らなくて、ひとまず、もう一度、パソコンへと向き直った。
 部屋に入ってきたときから、パパの様子はちょっと変だった。
 控えめなノックの後に、そーっと顔をのぞかせて、
「マサル、今、ちょっと良いかな?」
 とか言ってきたパパ。まず、部屋に入ってくることがそもそもあまり無いし、もし入ってきたとしても、そんな、僕のご機嫌を伺うような話し方は、普通、しない。
 珍しいこともあるなぁと思いながら振り返ったら、やけに逡巡した様子で、
「あ、いや。チャット中なんだろう? 続けなさい」
 なんてことを言う。
 普段から礼儀に厳しいパパとは思えないその言葉に、僕は我が耳を疑いつつも、まなかちゃんを退屈な目に遭わせることは避けた方が良いだろうと、ディスプレイに向き直った。
 そして、散々「あのな」とか「そのな」とか、言いあぐねた末、自分を落ち着けるように深呼吸したパパは、
「あのな、マサル。心して聞いてくれ」
 そう前置きして、言葉を続けた。
 それが、「パパな、実はラフレシアなんだ」である。
 どうしたものか。僕はチャット画面を眺めながらしばらく考えた。
 まなかちゃんの、「明日の給食、揚げパンだね!」というピンク色の文字が、やけに眩しく輝いて見える。今、僕の部屋にある現実と、パソコンを挟んだ向こうにある現実とのギャップが、より一層、現実を「リアル」なものにしている気がする。
 「まなかちゃんは揚げパン大好きだもんね。僕は、一緒に出るクリームシチューも楽しみだよ」
 そんな無難な返事を返してから、僕はネット辞書のページにジャンプした。
 検索枠に、素早く文字を入力する。
「ラ・フ・レ・シ・ア」
 検索。エンターキーを小気味良く鳴らす。
   ラフレシア 3 [(ラテン) Rafflesia]
   ラフレシア科の無葉緑植物。東南アジアのジャングルに生える。
   ブドウ科の植物の根に活物寄生し、茎はなく赤色肉質の五弁花を直接つける。
   花は世界最大といわれ、径1メートルに達するものもあり、開花すると臭気を放つ。
                     三省堂提供「大辞林 第二版」より
 ついでに検索エンジンでも同じ言葉を検索し、画像を呼び出す。
 間違いない。僕の聞き間違いでなければ、パパは、あの、毒々しいほどに赤い、花と言うよりは大きなヒトデかイソギンチャクだろうと言いたくなるような、あの、ラフレシアだということだ。
 ギギギと椅子を軋ませて、パパを振り返る。
 ごくり。と、パパが喉を鳴らすのが聞こえた。
「パパ。僕には、パパは人間にしか見えないんだけど?」
 それとも、ラフレシアには、他に何か隠された意味があるのだろうか?
 僕の記憶が間違っていなければ、確かラフレシア自体が既に「死臭を放つ花」という意味だったような気がする。昔、図鑑で見ただけだから、あまり自信はないけれど。
 でも。ということは、実はパパはゾンビ?
 いや。悪いけど、僕はそんな、漫画かゲームみたいな話は信じないよ?
 心の中で、あれこれ考えながら、パパの返答を待つ。
 パパは、うんうんと何度か頷いてから、「そうだね」「まったくだね」とか何とか勝手に呟いてから、こう言い直した。
「パパな、正確に言うと、ラフレシアの精なんだ。ほら、裏庭に、古ぼけた温室があるだろう? あの中に、ラフレシアがあるの、マサルは見たことなかった? あれが、パパなんだ。いや、パパの本体なんだ」
 たどたどしい口調で。けれどもすごく真剣に、ひと言ひと言確認するように説明するパパ。
 何も言えない僕。
 机の上の目覚まし時計が。時を刻む針の音と。
 パソコンの、ファンが回る音だけが、痛いくらいに部屋に響く。
 パパは、僕の反応を待っている。
 ラフレシアの精だという。
 僕は、心底返答に困って、半ば現実逃避のように、まなかちゃんとのチャットデートへと視線を戻した。
「マサル君、どうしたの?」
「マサル君? 落ちちゃったの?」
「もう、マサル君ってば。返事してくれないなら、まなかもう落ちるね」
「本当にもう。マサル君なんて、知らないんだから」
「執事:まなか様が退室なさいました」
 ああ、神様。一体全体どうしたことでしょう。
 僕は何か、間違ったルートを歩んでしまっているのでしょうか?
 思わず左手の甲をつねってみたりして。
 痛いよね。僕は今、心も痛いよ。
 ついでに、背中に染みこんでくるような、パパの視線も痛いよ。
 そんなことを思いながら。
 僕はひとまず、チャットルームを後にした。

 笑いと涙。愛と悲しみのハートフルホームコメディ
 『パパはラフレシア』
 近日公開!……の予定はありません。

 ……自分で書いておいて、訳が分かりません。
 ただ。
 思いついて、どうしようもなく楽しかったのは事実です。
 パパがラフレシア! うーん。リアル!(え?)

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