夜半の民家に姉妹がいる。 静かな住宅街の一軒家。 こみいった乱雑な部屋の中で、妹が古い機械と向き合っている。 オルゴールに似た、凹凸のある円盤状のものをその機械の上に載せると、それは記録されていた古い音を紡ぎだした。それは、姉妹が幼いころに亡くなったという母の声だった。
「何きいてるの?」と姉が部屋をひょいと覗き込む 「うん、これ」妹が答えた。視点は姉の背後から。 「そう、お母さんの。」 「・・・こういう声だったんだ」 「あんた、覚えてないもんね。・・・夕飯、作ったからちゃんと食べなさいよ。」
姉は階段を下りていった。妹は小さく呟く。 おねえちゃん、最近服がワンパタだよ。
階段をおりた姉は、そのまま玄関に向かう。居間で父は野球中継に夢中だ。 「ちょっとお醤油かってくるねー」 「おう」 90度首を横に向ければ、気づいたであろう。姉は軽い口調とは裏腹に、コートを羽織り、靴箱に押し込んでいた鞄を肩にかけた。素早く足を押し込んだのは、つっかけではなくヒールのある靴。視点は家の前に移る。駐車場目の前の玄関を出て、車の横を通り、何気ない調子で姉は歩いていく。妹の部屋はその真上だ。
妹の聞いていた記憶された母の声。それは、自分が不倫の恋で、遠くから逃げるように結婚し子供を生んだということ。ヘッドフォンでそれを聞いているはずなのに、事実の重みが部屋の壁を響かせる。
姉は妹の部屋の、窓の下を通り過ぎ、一台の車をみつけると途端小走りに駆けていった。待っていたように開くドア、後部座席に乗り込む姉、中にいた男と抱き合い、鞄からパスポートを取り出して見せ、そのまま車は走り去っていく。
視点はそのまま家を映し続ける。妹の部屋ではまだ、母の告白が続いていた。
目が覚めてあまりに話っぽかったので、思わずメモって置いた管理人でしたとさ!
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