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リンクフリー、辞めてもいい?(苦笑)
心の中にリンクを張ってください
(オレ、今いいこと言った)



2004年03月30日(火) 眼窩の奥、頭の中心部に茨の棘でさしたような甘やかな痛みがあった。

結局またマルボロを吸い始めた。ダメなやつだと自分でも思う。仕方ないじゃん。いろいろあんだよ29年も生きてると。と、懸賞で当たったサントリー「春生」をまた冷えたコップに注ぎ、飲みながら思う。親母がオレの堕落した姿を見て、「あんた、灰にしていいお金なんてこの世に無いのよ」という。無視してもう一本火を点ける。あることをしてから、親母の顔を覗き込む。紫煙がくゆるオレンジ色に光る煙草の火を自分の右手に点けようとする。親母がその姿を見て「止めなさい!何を考えているのあなた!」とマジギレした。しかし、その声も聞かず、煙草の火を右手の甲に付けた。親母が息を飲む。そしてゆっくりと煙草の火を右手の甲から離し、パッパと黒い灰のカスを払うと、火傷の傷などどこにも無い綺麗な右手。にっこりと親母に微笑んでから、また煙草を吸った。簡単なトリックだが、読者のみなさんは解るだろうか。覚えていたら、明日この手品のネタを公開する。大した手品では無いが、解るかな?もちろん吸っているのは単なるマルボロです。飲み屋でやるとモテる…?わけがないね〜。むしろヒかれます。やらない方が良いよ。一つだけヒント、サントリー「春生」を使う。



中上健次「岬」を読みながら、今日も聴くものが無いので尾崎豊を聞く。目と耳で尾崎豊を吸収している感じがするが、実際には中上健次の小説が尾崎豊の楽曲に影響を与えた。
以下、「岬」の一編、「黄金比の朝」より抜粋。中上健次は51年、「岬」で第74回芥川賞を受賞。

 ぼくと斉藤は同じ予備校に籍を置き、駅の売店で売っているアルバイトニュースに紹介されていた貨物輸送会社に働きにいっていた。斉藤は三浪、僕は一浪だった。月曜の夜から土曜の朝まで、毎晩、夜勤だった。朝、アルバイトから帰り、喫茶店によってモーニングサービスつきのコーヒーをのみ、それからアパートに帰る。それで眠り、午後になってめざめ、予備校に出かけるか、部屋でもう何度も何度もやったために解題の方法まで暗記してしまった数IIの問題集をとく。それからまた夜勤だ。夜勤の合い間に勉強している具合だった。ちいさな字で計算まできっちり並べて書いてあるので、ぼくの数学のノートも物理のノートも、そのまま一冊の印刷されたノートにみまちがわれそうなくらいだった。よく斉藤はそう言う。物理の公式をつかって問題をといていて時々わけもわからず腹立ちがはじまり、発作的にめちゃくちゃに自分のノートに×印つけたり破りすてたくなる衝動にとらえられるが、それでも自分自身を律して(なんと律してばかりいるのだろうと思うが)ノートのすみのほうに、囲みをつくって、やはり印刷された活字のような字で思いついたことを書く。<現代の日本はまちがっている。みんな殺しあって死ねば良い。人は愛しあってなど生きてはいない。我だけしかない。だから、我だけなのだから、宗教とか、社会主義などは我の前ではぎまんである。自由は、嘘だ。平等は、嘘だ。民主主義は、嘘だ。豚め>

 兄がこの部屋に泊まることになるまで、死んだ父のことも、母のことも思い出さなかった。いや、そう言えば嘘だ。むしろ断じて思い出したくない。ぼくはまったくどこにでもある普通の十九歳の少年になると決心していたのだと言ったほうが良い。故郷に手紙を出さず、住所すら知らせなかった。喫茶店で、斉藤はそんな僕を理解できないと言う。「あたりまえのことだろうがあ」とトーストを口いっぱいにほおばったまま言い、口の中のそれをのみこむために、砂糖とトーストを口いっぱいにほおばったまま言い、「誰だって家におふくろ一人しかいないとわかってたら、万が一のこと考えて、住所くらい知らせるなあ」ふたたび斉藤はトーストをくいちぎり、唇をバターとパンの粉でまぶし、「おまえはつくづく変ってると思うよ」と、真顔で言う。「だいたいからして、あんな人使いの荒い、おれたちを人間と思っていないところで、安いバイト料で、まじめに働きすぎるよ。昨夜さあ、おまえ、あのバカ鉄になんか言われていただろ? はい、はいって直立不動でうなずいてさ」斉藤は目をこすりながら笑う。「くそまじめにヘルメットかぶってさ。他のアルバイトのやつら、おまえの態度みて、なんだ、あいつ、て言ってたぞ」「おれは普通だよ」とぼくはいつもそう言い返すのだった。「おふくろに手紙なんか絶対書かないって思ってるのは、おれにとっては普通のことなんだし、はいって返事するのもあたりまえのことじゃないか」
「お前のは度がすぎるってやつだな」
「じゃあ、おまえらみたいにダラダラ仕事中に麻雀の話したり映画のはなししたりするのが良いってのか。ふざけるんじゃない。おれはまともに生きていたいんだ。おまえらみたいに、ぐちゃぐちゃしたことなど大嫌いなんだ。反吐が出るよ。インバイ野郎め」

以上、原文のまま抜粋。

ちなみに、尾崎豊の「Driving All Night」の歌詞は中上健次「十九歳の地図」の世界感そのまま。


ふみひこ |MAIL