2002年03月25日(月) |
「青少年有害社会環境対策基本法案」 |
京を救いに行ってる間に(オイ)不穏な法案が出されそうな気配です。 ざっと提案理由説明と未定稿の条文を見ただけですが、なんというか、未だにこんなこと言う奴がおったんか!という感じです。この条文だけでは何がそんなに不穏なのか、どうせ大したことできやしない空条文だろうとも見えるのですが、あにはからんや(もう意味は忘れた漢文)問題を孕んでいます。詳細は↓のサイトを見て頂きたいと思います。
http://www.globetown.net/~seinen/
法案自体についてのもっと詳しい議事の様子は(早瀬もまだ確認していませんが)国会のHPあるいは自由民主党のHPで議事録が見られるのではないかと思います。 この法案は提案理由の文章からして、まったく認識がおかしいのです。 「情報化の進展や過度の商業主義により青少年有害社会環境のもたらす弊害が深刻化している」とのことですが、全く意味がわかりません。早瀬が子どもの頃、街にはエロ本の自動販売機があったし、やらしい映画の宣伝もあっちこっちで見たし、それに比べたら最近は極めてクリーンな社会になったと思います。実際、少年犯罪における強姦の発生件数は、1960年代には恐ろしく高いのです。「なんでこんなに強姦したかった訳?」と首を捻りたくなるくらいに。被害にあった女性への差別的な扱いは、昔の方が強かったでしょう。被害届を出せないまま泣き寝入りした人は、かなり多かった筈です。なのに、昔の方が断然検挙数が多いのです。(親告罪なので被害届を出さなければ検挙されません) どういうこっちゃこりゃあ、と思いませんか? 法案企画者の意図を推測するなら、「インターネットだの何だのできるようになった上、売れればいいと思って下品で暴力的なモノを作りおる不届きな輩が増えている! いたいけな青少年(18歳未満)を守らねばいかん!・・・という市民諸氏が多い筈だ」 といったところでしょうか。 実際このような「健全」を愛する人々が存在しておりますし、本気で彼らはそれが「善きこと」だと信じきっておりますので、何を言っても無駄です。こういう御仁は大抵戦後すぐ生まれた世代なのですが、彼らの青春時代こそ、最も青少年の強姦が多かった時代です(笑) こういうことは研究者の間では常識なのに、まだ一般常識にはなっていないところがあります。たぶんそこんとこに付け入る気なのでしょう、この法案の賛同者達は。 「青少年有害社会環境のもたらす弊害が深刻化」というのが、根拠もない思い込みの断定であることは間違いありません。間違った前提から導き出された法案が、いい結果を生むでしょうか? この法案自体は罰則規定を持っていませんが、地方公共団体が何らかの対応をするようにさりげなく促しています。都道府県は、罰則付きの条例を発することができるのです。援助交際も条例で罰せられるようになりましたよね? また、この法案では主務大臣に「国家公安委員会」も指定することができる、と書かれてます。国家公安委員会といえば、警察庁の上部組織です。 上記サイトでの情報によれば、「コミックJUNE」や「ピアス」が何度か東京都青少年健全育成審議会の審議の結果、都の条例に引っかかっているようです。 正直、遂に来たか、という感じですけれども。 流石の早瀬もここ数年のボーイズ系雑誌・単行本の濫発ぶりには何だかなあ、と思っていました。かつては本当に憚られるべき趣味で、同人誌でもなければおいそれと手に入らない種類のものだったし、同好の士以外には断じて知らせられない趣味だったのですが、今はそうでもないのでしょう。女性のためのセックス・ファンタジーが商業的なルートでも享受できるようになったのは、日本が進んだ証拠だと思います。ま、玉石混交というかボーイズラブバブルとも考えていますけど、それは別問題として。 これらを「有害図書」扱いしたり、「成人指定」扱いすることには疑問があります。 だって、「男性同士のセックスを題材にした女性向」フィクションは、最も純粋な(無害な)「セックス・ファンタジー」だと思うからです。「心身の発達程度に応じた伝達方法その他、健全育成を阻害することがないようにする」ための措置とは、たぶん男性向のポルノグラフィを想定しているのだと思いますが、女性向の「JUNE」や「ピアス」がそれと同種だというのは、どうもしっくりこない。男性向のポルノグラフィを見た年若い男の子が「そうか、女はやっちまえばこっちのもんなんだ」という「大人のお約束」を鵜呑みにするのは確かに「ちょっとしたモンダイ」かもしれません。そんな時代錯誤な思い込みで世の中渡っていける筈がないとしても。しかし、女性向のやおいポルノグラフィを見た少女が「そうか、男は皆男に強姦されたがっているのか」と思うでしょうか? そして、男性差別的な被害結果に繋がるでしょうか? 私は、今の社会状況から見て、それはないと考えています。 こうした女性向のポルノグラフィに関する発達研究は、恐らく全く行われていない筈ですし、少なくとも、これらの一体何がどう有害と考えるのか、そう推測される根拠は何か、悪影響の結果どんな損害が生まれたのか、きちんと説明もできないのでは、法律として不完全です。 私は、こんな粗雑な扱いを女性向やおいポルノグラフィが受けるのは、嫌です。 田中角栄に倣えば、「じょーだんじゃありませんよ!」といったところです。
しかし問題なのは、法律が、ロジックであることです。 不確定性原理で有名なゲーデルは、「アメリカ憲法に全く抵触せずにこの国を独裁国家にすることができる」と発言したと言われています。頭脳明晰な人には、ロジックのジョイント、付け入る隙がわかるということです。 まあそれは余談なのですが、この法案のロジックを突き崩すには、こちらもそれなりの覚悟と準備をしなければなりません。 アウトローを気取るほどに強くなく、けれど従容として受けるには納得の行かないものがあるとき、一体自分に何ができるだろうか、と。 考えてしまうのです。
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