左の親指と右手の薬指の爪を削り合わせると、ポッ と鋭い痛みが少しだけ灯る
灯ってはしだいに闇夜に消えていくともし火に、哀しみが加速しながら、あの人の方へと
風通しの良いソファー、朧に舞い上がったカーテンが靡いている
黒々とした柱のベランダの先に、月夜にほだされたような草原が笑っていく
駆け抜けて遥か遠く、ぼやける林の上には街の煌きが白い蛍の群れのように飛び回っていた
ここだけが暗すぎる
苛めて、灯しだす爪
消えていないように、何度も何度も、何度も
もう言語という形では、虐め傷つけるのが終ってしまったかのように
注記
「靡(なび)く」、「遥(はる)か」、「煌(きらめ)く」、「苛(いじ)める」、「虐(いじ)める」
執筆者:藤崎 道雪