吐き捨てた唾は、鋭い放物線を描いてピンクのタイルに漂着(ひょうちゃく)した。
中心には、ペールトーンの緑色の痰(たん)があるから広がらなかったのだろう。
「げっ」
という声を出すやいなや、同色相の手酌(てじゃく)を探した。
少し遠い。
体を湯船から出さないと取れない。けっこう遠い。
「ピュゥゥ」
今度は、風呂場のお湯で水鉄砲ならぬ、口でのお湯鉄砲。
「あれ、したすぎるな」
「ピュゥ」
「ぅ、量が少ない。えっと・・・」
「ピュゥゥウウウウウ」
「おお、緑の的が揺れ出した。ちょっと下がったぞ。おっしゃ!!」
「ピュゥゥウウ」
「いいね〜。いいよ〜〜ん♪」
「ピッゥゥゥゥゥゥウウウウ」
「あちゃ、右過ぎた。」
「ブブゥゥゥウウウウウウウウウ・・・」
「力みすぎ〜。拡散してしまった。」
「ピュゥゥウウ」
「大当たり〜〜〜〜〜♪」
汚いと思っていた緑は何時の間にか好奇の対象になったので、栓に流れて行った時は少しガッカリした。
目を移すと外は夕焼けの兆(きざ)しが見えてきている。
さて、催(もよお)してきたし、便所行って街にでも出ようかな。
執筆者:藤崎 道雪