感想メモ

2018年05月18日(金) i(アイ)  西加奈子


西加奈子 ポプラ社 2016

STORY:
日本人の綾子とアメリカ人のダニエルの養子となったシリア人の血が流れるアイは、日本の高校で親友となるミナと出会う。アイは数学教師に言われた「この世界にアイは存在しません」という言葉に支配されていて。

感想:
 日本人の母・綾子とアメリカ人の父・ダニエルの養子として育てられたアイは、非常に繊細な女の子だった。繊細な上に出自が複雑であることから、考えすぎてしまう傾向のある子供だった。

 なぜ自分が養子として選ばれ、過酷な運命に翻弄されなかったのか? なぜ自分はこんなに恵まれた生活をしているのだろうか?という疑問が、つねにアイを取り巻き、人生を楽しんではいけないかのような息苦しい生活をしていた。

 そんな時に高校で出会ったミナと親友になる。ミナもアイもお互いを尊重し、お互いのことを受け入れる。ミナは血が繋がっていることへの義務に苛まれており、また女性しか愛すことができない性癖を持っていた。でも、アイのことは恋愛対象とは見ていなくて、あくまでも親友なのだった。

 やがて二人はそれぞれ恋に落ち、アイは結婚をし、自分の血の繋がった子供をほしくなるが、なかなかできなくて…。

 血縁とは何か?ということを考えさせられる。アイは幼い頃から、自分が養子であることを知らされて育っており、両親の間に本当の子供ができることを恐れていた。結局は杞憂なのだが。

 そして、誰とも血が繋がっていないからこそ、自分の血縁を残し、ファミリーツリーを作りたいと思ってしまう。複雑な心情がよくわかるなと思った。

 ミナは逆で、異父兄がいるのだが、父が自分の血が流れていないからとミナの方に家を継がせようとしている。そんな両親に反発し、家を飛び出す。ミナにとっては、血縁や血が繋がっているというのが重いのだ。

 最後の方でミナがアイに手紙を書く。養子といっても、みんなそれぞれ立場とか考え方が違うから、養子とひとまとめにはできない。アイが養子についてどう考えるかは、アイの考えであって、他の養子とは違って当然で、アイはアイでいいのだという内容で、アイは自分をこんなにも深く考えてくれる存在がいることに気づく。

 それまでも気づく機会はいっぱいあったと思うのに、いつも自分だけが幸せになっていいのか?という変な葛藤と向き合っていて、気づくことができなかった。しかし、自分に不幸が訪れたときに、そのことがわかったのかとも思う。

 西加奈子の本は不思議なパワーがあって、面白い。著者自身もテヘランで生まれ、カイロや大阪で育ったからなのだろうか?

 そして、この本は時事問題とも深く絡んでいるのがすごく面白かった。こんな事件あったな…、こんな天災や人災があったな…という事件とリンクして書かれている。

 人は忘れっぽい。忘れないとやっていけないし、自分に関係ない事件は、それなりに何か思うところがあっても、アイのように苦しんだりせずに、考えないことが普通になってしまっている。

 それが健全であるような気もするけれど、そう思わない人がいて、思わないだけじゃなく、行動に移していける人もいて、それだからこそ、世界が少しずつ変わっていくのかもしれない。


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