貫井徳郎 幻冬舎文庫 2003
STORY: 心臓移植を受けた和泉は移植後から嗜好が変わったり、以前はできなかったことが突然できるようになったりという変化に戸惑いを感じる。やがて夢の中にドナーと思われる女性の姿が現れて、和泉はドナー探しを始めるが…。
感想: 心臓移植をテーマにした作品。実は以前もこのような話をいくつか読んだことがあって、借りる前は同じような話を読むのもどうなのかなと思ったのだが、読み始めたらとても面白くて一気に読んでしまった。
主人公の語り方が何となく好きで好感が持てたし、謎が謎を読んでいく感じもよかった。まあ、最後の謎はうーんとは思ったけど、でも、納得はいくかな。
それから何より臓器移植というテーマについて正面から取り組んでいて、移植の問題点とか、移植を受けた人の精神的なケアなどについてなども掘り下げられているのが何ともよかった感じがした。
心臓が記憶をつかさどっているのかはまだわかってないだろうとは思うが、移植後、ドナーの記憶が移植者に移ることもあるらしい。やはり人体の謎は深まるばかりだ。ちなみに私が大好きな北條司の「エンジェル・ハート」も心臓移植の話だ。やはり移植を受けたものの中にドナーの心が宿っている。本にもあったように「心」と「心臓」は英語ではどちらでもheart。自分の心をさすときには心臓を指差す…。やはり脳だけじゃなくて心臓も何か関係あるのかなー。
最後に、主人公がドナーの親と会っても既視感を感じなかったところはちょっと甘いような気もした。それと一箇所、「ぼく」としなくてはならないところが「おれ」になってた。突然主人公が「おれ」と地の文で書いていて興ざめ。ミスなんだと思うけど、一瞬心臓移植で主人公の気持ちにも変化が現れたのかと思った。ただその後、二度と「おれ」に戻ることはなかったからやっぱりただの誤植だろう。何だか惜しいなーと思った。しかし、そんなことに気づいてしまう私も私だ。
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