宿題

目次(最近)目次(一覧)pastnext

2007年02月21日(水) 西野公論(2007-5-14)/西野亮廣
「呑みに行こう」とタモリさんからの電話。
よなよなエールが置いてある気の利いた店で合流。
変態たるもの談義も一段落して、「絵本はどうだ?」とタモリさん。
そんな話になるのは百も承知で、カバンの中には制作中のものを入れてきた。
絵本を観て「楽しいねぇ〜」とニヤニヤ笑うタモリさんに手ごたえを感じ、
僕は少し本音を漏らす。
「去年の頭から始めて、まだこんなもんです」
「いいんじゃない?ゆっくりやれば?」
「いや、フラストレーションは溜まります」
ゴールテープがなかなか切れない事に対する苛立ちがあった。

それから少し呑んで、
「厚揚げの旨い店があるから、移動しよう」とタモリさん。
タクシーに乗り込み、しばらく走り、厚揚げの旨い店へ。
たいした看板も出していないその店、店主の本業は画家。
営業は店主の趣味だとか。
もちろん客は一人もいない。
店の真ん中には大きなプロジェクター。
「カウントベイシーの観せてよ」というタモリさんに
「お、珍しいねぇ」とDVDの山を漁る店主。
会話の意味がまったくわからない。

店主ともども焼酎を呑みながら、DVD鑑賞会。
画面に映ったのはジャズのライブ。
どうやらピアノを弾いているのがカウントベイシー、人の名前か。
アメリカで国際的名声を得た人物らしいが、
演奏を見る限りピアノもほとんど弾いていない。
「コレがいいんだよ〜」と酔っ払い親父が二人。
バンド全体が鳴らす音は音楽音痴の僕にでも凄みを感じれたのだが、
カウントベイシー本人の良さがあまりわかっていない僕。
酔っ払い親父から説明をいただく。

皆を生かす為に自分は後ろに引くんだとさ。
小室哲哉サンみたいなところかな・・音楽音痴でゴメンなさい。
一時間ほどでDVDが終わり、「俺の友達がさぁ〜」とタモリさんが口をひらく。

タモリさんのお友達にカウントベイシーの大ファンがいて、
好きが高じて「ベイシー」という呑み屋を作ったのだとか。
店にはベイシーの音楽が流れ、壁にはベイシーのポスター。
ど田舎に、さらに趣味に寄せて作ったもんだから、繁盛とは無縁の営業。
それでも20歳の頃から続け、ほそぼそとした30年の月日が流れた。
常連で固められたそのお店、おかしな時間に扉が開くとそれは一見の客。
その日、おかしな時間に店の扉が開いた。
そこで入ってきた一見さんは、カウントベイシーその人。
日本の、しかもど田舎にだ。
想い続けて30年、その人はゴールテープを切ったわけだ。

「こういう事があったんだよ」と話を締めたタモリさん。
ハッとした。
そういえば厚揚げも頼んでいない。
あまり多く言わない人だから・・しかしまぁ、そういうことだ。
数時間前、「去年の頭から始めて、まだこんなもんです」と言った僕に、
30年以上かかってゴールテープを切った人の話。
店を変えたのも、DVDを観せたのも、この話に繋がっていたわけだ。

最近つくづく人に支えられているなぁと思う。
感謝、感謝です。
そんな僕はよけい期待に応えたいと思うわけで・・
簡単な言葉だが「頑張ろう」と思った。

「厚揚げ食うか?」とタモリさん。
一人前だけ注文して、二人で食べた。
メッチャうまかった。


★西野公論/西野亮廣★

マリ |MAIL






















My追加